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命を救ってくれた少女は厄災級魔法使いでした〜無才の負け組の複合無双〜  作者: 柊凪(ひいなぎ)
無才と厄災の出会い
4/7

生と死の狭間

そのまま街を出て、ひたすらに進み続けた。

もう何も目に映らなかった。

「この先、禁足領域、立ち入るべからず」

という標識も、魔結界の壁さえも気がつかなかった。

気がついた時には、もう"それ"は目の前にいた。

俺の3.4倍はあろう赤く血走った筋肉質の大きな体に、日本の鬼の角。手には巨大な棍棒を持った魔物、オークの頂点、レッドオークだった。


「なんでこんなやつが...!?」


その瞬間、やっと自分が禁足領域に足を踏み入れてしまったことを悟った。


「グゥゥウウオオアアアアアアアア!!!」


レッドオークが棍棒を振りかざしながら突進してくる。


「う、うああああああああああああ!!!」


先刻、俺から逃げようとしていた賊の男よりも酷い顔で、森のある方へと駆け出した。


走れども走れども、やつは後ろをつけてきていた。

木々が開け、出た先は...

岸壁だった。数十メートルはあろう崖下には海が広がっている。

眼前は断崖絶壁、背後にはレッドオークの足音。


「クソったれ、こんな最期かよ...」


落ちたら絶対に助からないであろう崖から飛び降りるか、レッドオークと戦うかの二択だった。

今の自分の全てを出し切れば勝てるのかもしれない。しかしもうそんな気力は湧いてこなかった。

このまま醜い魔物に殺されて養分とされるくらいなら、自ら命を絶とう。


そう決心し、今から飛び降りる崖下をのぞき込んで、足がすくむ。

岸壁に打ち付ける波が、早くこいと言わんばかりに、音を立てしぶきをあげていた。

後ろからの足音がすぐそこまで来ている。時間はなかった。

目を閉じる。意を決し、体を前方へ傾ける。

足場を失った体は、重力に従って落ちていく。


かなりの速度で落下しているはずだが、思考が一気に加速し様々な感情が襲い来る。

”死ぬ間際に時間がゆっくりになる”とは聞いたことがあったが、こういう感覚なのだろう。

やがて一つの感情が打ちつける波のように押し寄せてきた。


悔しい。

未練がないわけではない。俺にも夢があった。

人々を困らせる魔物を、一匹でも多く駆逐すること。

そして、その魔物たちの頂点に君臨する魔王を討ち取ること。

でも、そのための力が───才能がなかった。


悔しい。

幼い頃読んだ本に、大昔に生きた誰かの名言が著されていた。

『努力は必ず報われる』

その言葉を信じ、面倒くさがりながらも、かなりの努力を重ねてきた。

でも、この世界は才能がすべてだった。


悔しい。

己の無力さが。

諦めずにもがこうとせず、我先にと死を選んだ心の弱さが。

そして今更こんな感情がこみあげてくることが。

───生きて、もっといろんなことをしてみたかった…。

「今は面倒だし、大人になってからでもいいだろう」と、遠ざけてきた様々な経験。

こんなにも早く最期を迎えると知っていれば、もっと…。

でも、もうじき体は岩礁に打ちつけられ命が散るだろう。


嫌だ。

悔しい。悔しい。悔しい。───生きたい。


「くっっっっっそぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


感情が声になり溢れ出したその刹那、散った。

俺の血であろう赤ピンクの何かと俺の命が...。

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