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なろうラジオ大賞4 投稿作品

星座の下の雪山へ舞い降りた2.25平方メートルの春

 山小屋を営むヒロユキは、初めて見る種類の白い鳥を拾った。

 鳥は弱っていて、自力で冬を越せそうにない。

 冬の間だけ世話をして、雪が溶けだした頃に逃がしてやった。

 鳥は随分と懐いていて、山小屋の近くを暫く離れなかった。


 季節は巡り、異様に暖かい秋晴れの日のこと。

 閉山間際の駆け込みで、数名の登山客が来た。

 山小屋で休憩後、更に登ってテント泊をする予定という。

 山の周辺は人家が少なく、空気が透き通って星空が良く見える、と評判の山だった。

 今度の客もその評判を聞きつけて来たのだろう。

 ヒロユキは天気図から今夜は荒れると予想していた。

 客達にテント泊を中止するよう忠告したが、テレビの予報ではそう言ってなかったと、聞き入れてもらえなかった。

 ヒロユキの予想通り夜は大荒れ。

 だが想定以上の悪天候で、吹雪になってしまった。

 客達は慌てて山小屋へ避難してきたが、一人足りない。

 ヒロユキは(ふもと)の救助隊へ連絡後、装備を整えて捜索へ出ていく。

 そこはもう雪山へ変貌していた。

 熟知しているはずのヒロユキでさえ道に迷ってしまいそうだった。

 遭難者を呼ぶ声は吹雪でかき消される。

 雪も深くなってきて、ヒロユキ自身も危険な状況だ。

 これ以上の捜索を諦めかけた時、吹雪がやんだ。

 ここぞとばかりに声を張り上げて叫ぶと、声が返ってきた。

 この状況下で遭難者を発見できたのは、まさに僥倖。

 遭難者と合流し、二人で山小屋を目指すが、すぐにまた吹雪いてきた。

 しかも、これまで以上に激しい。

 時間とともに雪は深くなり、ついに二人はその場を動けなくなってしまった。

 少しでも風を避ける為、雪に穴を掘って、中で二人は身を寄せて耐えていた。

 吹雪は治まりを見せずに、二人の体力を削ってゆく。

 ついには強烈な睡魔が二人を襲った。

 もし寝てしまったらどうなるかは明白だ。

 少しでも体温を逃がさぬよう二人は抱き合い、励ましあった。

 それでも意識が遠のくのを止められず、二人の意識は雪の中へと埋もれていった。

 二人の命が尽きかけそうになった時ーーあの白い鳥が舞い降り、奇跡が起きた。

 それは、2.25平方メートルの春。

 白い鳥を中心に暖かな光が広がって、二人を包み込む。

 いつの間にか吹雪はやみ、輝く星座が二人を優しく照らしていた。

 翌朝、天気は快晴。二人は無事。

 しかし、二人の傍で白い鳥の亡骸が静かに眠っていた。


 一年後。

 あの場所には石がいくつか積まれていて、あの鳥のように白い花を供える、とある夫婦の姿があった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても緊迫感がありハラハラする心情と情景がリアルに感じられて良かったです。 ラストに向かい、意外な展開とやるせない切なさが残る良い読後感でした よい作品をありがとうございます
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