星座の下の雪山へ舞い降りた2.25平方メートルの春
山小屋を営むヒロユキは、初めて見る種類の白い鳥を拾った。
鳥は弱っていて、自力で冬を越せそうにない。
冬の間だけ世話をして、雪が溶けだした頃に逃がしてやった。
鳥は随分と懐いていて、山小屋の近くを暫く離れなかった。
季節は巡り、異様に暖かい秋晴れの日のこと。
閉山間際の駆け込みで、数名の登山客が来た。
山小屋で休憩後、更に登ってテント泊をする予定という。
山の周辺は人家が少なく、空気が透き通って星空が良く見える、と評判の山だった。
今度の客もその評判を聞きつけて来たのだろう。
ヒロユキは天気図から今夜は荒れると予想していた。
客達にテント泊を中止するよう忠告したが、テレビの予報ではそう言ってなかったと、聞き入れてもらえなかった。
ヒロユキの予想通り夜は大荒れ。
だが想定以上の悪天候で、吹雪になってしまった。
客達は慌てて山小屋へ避難してきたが、一人足りない。
ヒロユキは麓の救助隊へ連絡後、装備を整えて捜索へ出ていく。
そこはもう雪山へ変貌していた。
熟知しているはずのヒロユキでさえ道に迷ってしまいそうだった。
遭難者を呼ぶ声は吹雪でかき消される。
雪も深くなってきて、ヒロユキ自身も危険な状況だ。
これ以上の捜索を諦めかけた時、吹雪がやんだ。
ここぞとばかりに声を張り上げて叫ぶと、声が返ってきた。
この状況下で遭難者を発見できたのは、まさに僥倖。
遭難者と合流し、二人で山小屋を目指すが、すぐにまた吹雪いてきた。
しかも、これまで以上に激しい。
時間とともに雪は深くなり、ついに二人はその場を動けなくなってしまった。
少しでも風を避ける為、雪に穴を掘って、中で二人は身を寄せて耐えていた。
吹雪は治まりを見せずに、二人の体力を削ってゆく。
ついには強烈な睡魔が二人を襲った。
もし寝てしまったらどうなるかは明白だ。
少しでも体温を逃がさぬよう二人は抱き合い、励ましあった。
それでも意識が遠のくのを止められず、二人の意識は雪の中へと埋もれていった。
二人の命が尽きかけそうになった時ーーあの白い鳥が舞い降り、奇跡が起きた。
それは、2.25平方メートルの春。
白い鳥を中心に暖かな光が広がって、二人を包み込む。
いつの間にか吹雪はやみ、輝く星座が二人を優しく照らしていた。
翌朝、天気は快晴。二人は無事。
しかし、二人の傍で白い鳥の亡骸が静かに眠っていた。
一年後。
あの場所には石がいくつか積まれていて、あの鳥のように白い花を供える、とある夫婦の姿があった。