戯れ言 妹が手術当日に帰宅した時の私の反応 心疾患兄妹編
今日は妹の心臓の手術だ。少々の不安はあるが、私も妹も何度も乗り越えてきたので、余り深く考えても仕方無いと開き直っていた訳だが・・・・・・。
「あ、おかえり」
学校から帰宅すると、リビングには手術を受けているはずの妹がいた。
「え? もう終わったの?」
「ううん。帰って来た」
「帰ってよかったの?」
「副医院長が帰って良いって」
「ダメなんじゃないの?」
「知らない」
妹は頬を膨らませてそっぽを向いた。
そこへ母が「ちょっとこっち来い」と手招きをした。
別室、私は半ば呆れながら母に一言告げる。
「何やってんの?」
「帰って来ちゃった」年甲斐も無くテヘペロする母にちょっとムカついた。
「見りゃ分かるよ。言っちゃ悪いけど死ぬぞ」
「それがね・・・麻酔直前に「嫌だったらしなくて良い」って言われて、泣き出しちゃったみたい」
「ああ・・・どうすんだよアレ、病院のみんなパニクってるだろ」
「まあ、酸素ボンベもあるし、2、3日様子見かなぁ」
ダメだこりゃと、妹に直談判。
「妹よ」
「何、兄貴」
「話しは聞いたけど、さすがに兄ちゃんもどうしたら良いか・・・ってかヤレとしか言ないわ」
「だって嫌だったんだもん」
「気持ち分かるけど死んじゃうぞ」
「兄貴ならやる?」
「しょうが無いからやる」
「だってやっぱ怖いじゃぁん」
駄々をこねて泣き出す妹。
やらないよりはやったほうが良いと言う兄。
(オヤジ(副医院長)・・・えらいことしてくれたな)
二人の意見は平行線のまま、結局病院へ帰れと言えず、私が折れて様子を見ることとなった。のだが、本当に2、3日で病院へ戻っていった。
婦長から連絡があり、手術したらアイドルのコンサートへ行ける上に副医院長がチケット代を出したと言うことだ。それも最新のCDアルバム付きで、アイドルにも会えるとか滅茶苦茶その気にさせるような言い方だったらしい。
その時、私は真顔で思った。
(妹よ、それで良いのかお前の人生・・・・・・)
結果手術は成功したが、あの騒ぎは何だったのだろうと、振り返れば虚無感と言うか脱力感と言うか、そんな気持ちになるのは何故なのだろうか。
アイドルをエサに手術へ挑むと言うのも何だか凄い話しだった。良く言えば素直、悪く言えば欲望に忠実な女と言う、我が妹ながら考えれば考えるほど複雑な心境にさせてくれる。
でも、人生や命のかかった決断は、これくらい現金で軽い方が案外生きやすいのかもしれない。
正直、妹を見て私は一瞬、幽霊か幻でも見ているのではと困惑しました。