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誰もまだ掴めていない

書いたそばからアゲてますので、ちょくちょく追加されるか訂正されるかしてると思います。


「なんかもう、ほんとすみません、巻き込んじゃって」

ウドリシテは心からすまなそうに詫びた。

「こんな面倒な調査で、長いこと研究してるのに全然結果も出ない…おまけにあなたの命まで危険に晒しちゃって、もう、本当に…」


翌日、ミノワールは、ウドリシテの運転するスマートEQに揺られて児童養護施設に向かっていた。朝の降灰時間をやりすごし、ミノワールがホテルを出たのは10時過ぎだった。


牧師の謙虚な態度に、助手席のミノワールは、かえって恐縮してしまった。

「気にしないでください、もともと私はこういう調査をする部署の人間ですから。」


昨日、なんの気無しに発した「何故灰は日中にしか降らないのか」に対しての、ウドリシテの答えが、結局、


「誰もまだ掴めていない」


これであった。


「…その、調査自体は…ずっと進めているんですが…」


最初の「灰病患者」が発生して、はや10年以上になる。国は、火山学やら医学やら多分野の学者先生を招聘した。彼等はずっと調査を続けている。しかし、「仮説」はいくらでも立てられるが、「検証」が未だに出来ていないのだ。

もしかしたら…学者の側で、解明されてはならない事情があるのではないか?

何らかの「不正」とか…


「…ミノワールさん、実は、『そのこと』を含めて、一緒に調べていただきたいのです。」と、牧師。

「つまり、灰病によってなんらかの利益を得ている者がいるのかも、ということですか。」と、ミノワール。

「んー。そこまでは…」 


と、そこで、ウドリシテはため息をついた。


「実は、そうだとは信じたくない牧師としての自分が、いるんですよね。そもそもこの問題に取り組んでいる学者先生は、皆さん優秀な方々です…だからこそ長期間結論が出ないというのは不自然なんですけどね。」


で、牧師が学者先生相手にどんな調査をしても、ナシノツブテ。何故なら彼にはこの仕事で必要な「専門知識」がないから。


「ええ、そうです。笑ってください、使えない男を。この私を。」

ウドリシテは肩をそびやかした。


「そもそもお上は、なんで私にこんな仕事させようとしたんだろう。私、牧師ですよ?祈って、説教して、オルガン弾いて賛美するのが専門ですよ。ガチ音楽系でキリスト教しか出来ない男ですよ!科学的根拠がどーたらこうたらとか、臨床試験でなんたらかんたらとか、そういう調査…はぁ、無理!無理ですよ私には!……はぁ……でもね…」


祖国と教団からの命令だから、断れないんですよ。何度も他の人を担当者にしてくれる様、お願いしたんですけどもね…と、ウドリシテはぼやいた。


だが、どうやら上の方には、彼に担当させたい「特別な理由」があるらしい、とのこと。


「特別な理由?…なんだか知りゃしませんよ。でも、ある日うっかり『私1人じゃ出来ない』と、私、上の人に言っちゃった…それが発端なんだなぁ…それであなたが来る羽目になって…あぁなんか愚痴になっちゃった…ほんと、すみません。聖書に『ぼやくな』って書いてあるのに、牧師が自分でぼやいてちゃダメですね。」


「まぁまぁ、まだ大丈夫ですよ。そもそも私自身がまだ何もやってないんですから。」


ここまでグダグダになられると、なんだか牧師が哀れに思えてきた。そもそもミノワールが彼に怒りなぞ向ける筋合はない。出来るだけ外部の人間を巻き込みたくなかったという彼の善良な心はよくわかるし、よくよく聞けば、彼も立派にとばっちりを受けている。


しかし、この仕事に向いていないといいながら、ウドリシテが作ってきた資料は、素人ながらなかなか的を得たものであった。


「牧師さん…あなたの資料を拝見して思ったんですが…実はもう、あなたなりの仮説を立てているんじゃ、ないですか。」

「んー、ですから私はですね…」

ウドリシテは、口ごもった。彼は全くもって嘘のつけない、善良な人物のようだ。


そこでミノワールはウドリシテの注意を引くよう低い声色で尋ねた。


「…1人で立証するのは、危険なんでしょ?」


とたん、車がキーッ!と急ブレーキで止まった。


「あ、赤信号、でした…」

ウドリシテが震え声で言った。


「びっくりさせないでください、ミノワールさん…私なんか、素人で才能もないって、さっきから言ってるじゃないですか」


彼は、触れてはいけない秘密を語る時の囁くような声で、そう言った。


車は旧市街を抜け、郊外の住宅地へ入って行った。


「ダメだと、思います。」ウドリシテが口を開いた。

「どんな仮説でも、知り得た事実以外の事は、それは私見です。報告書に書くわけにはいかない」


「そうは思わない。」ミノワールは言った。

「私みたいな科学オンチの私見でも?」

「あなたはここの住民だ。住民の私見は有効だ。」

「だとしても…」


ウドリシテは石畳の道の脇に器用に縦列駐車をした。


「私はまだ、何も掴んでいません…着きましたよ。ここが今日の訪問場所…市立児童保護センターです。」

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