想いは永遠に 5
話の意図が見えず、言葉を失うインナーノーツとIMCスタッフらにアルベルトは畳み掛ける。
『いいか、このPSlパルスだけが、お前達の時空間と、こちらの現象界を繋いでいる糸のようなもの。それをPSl波動砲の共振作用で増幅してやれば!』
模式図に示された、時空間の揺らぎの振幅が高まり、やがて何層もの時空間層が、内側から破裂する様に切り開かれる。
『この閉じた時空間構造をこじ開けられる。そうなれば誘導ビーコンで<アマテラス>を現象界まで一気に牽引できるはずだ』藤川が、アルベルトの言葉を繋ぐ。
「けどっ! そんなに上手くいくのかよ⁉︎」
ティムが全スラスターを巧みに操作しながら、せっつくように問いかける。ティムは、PSl波動砲発射の為、チャージモードに切り替わった機関による推力低下により、<セオリツ>に引き摺られる<アマテラス>を、何とか現状位置で、踏ん張りを効かせていた。
『計算上は、何とかなる! あとは、お前さん達次第だ!』「ちっ、言ってくれるじゃないの!」いつものアルベルトとティムのやり取りも、言葉の一つ一つが重くなる。
「残り、あと7分! 急いでください!」時空間変動を逐一モニタリングしている田中が切羽詰まった声を上げる。
「機関チャージ90%、カミラ!」アランの促しに、カミラは顔を上げた。
「……それで……PSl波動砲のターゲットは?」
「一体、この空間のどこに撃ち込めば⁉︎」
『ターゲットは、君たちの目の前だ』
カミラの問いに、藤川の声が、重くのしかかる。
「まさか……<セオリツ>⁉︎」
戦慄が走り、インナーノーツとスタッフらを凍りつかせる。
『そうだ! ……<セオリツ>を撃て!』
藤川は、躊躇いなく言い放った。
『このPSI パルスは、<セオリツ>……いや、直哉の記憶へと指向している。直哉の記憶の中心座標を撃つより、他に手は無い』
直人は、戦慄に身を震わせる。それは、たった一つ"この世"に残った、父の記憶データを、破壊する事を意味する。例え、データだけの存在であったとしても、今、目の前に居るのは、紛れもなく父であった。
直人に、仲間の視線が集まる。
「ナオ……っ!」カミラは、居た堪れない感情を押し殺し、毅然と、正面モニターの<セオリツ>を見据える。
「射軸修正! 目標、前方<セオリツ>! 船首共振フィールド展開!」カミラは声を張り上げた。
「……」「ナオ! 復唱は?」躊躇いを見せる直人に対し、カミラは表情一つ変えず、任務の遂行を求める。
直人にも、状況はわかっている。だが身体が、心が付いていかない。
「あれは、あなたの父親では無い。ただの残留思念よ。あなたのお父様は、あなたを生かしたくて、命を賭けた。その命をここで散らしてはいけない!」
「ナオ!」「センパイ!」カミラの声に、ティムとサニが続く。
固まった腕に無理やり意識を送り、直人は、PSI波動砲操作パネルに取り付く。
「船首共振フィールド展開! PSI 波動砲、発射回路開きます!」
「IMCから転送された、Unknown PSI パルスのデータにリンク!」「……データリンク開始……PSI-Linkコンタクト確認よし。放射管制システム……起動」
その間にも<セオリツ>に引きずられ、肉体に帰還できずにいる幼い直人の魂を、何とか<セオリツ>から解き放とうと、あらゆる手段を講じる直哉の、焦り混じりの声が続いていた。
幼い直人の魂を、一時的に取り込んでいた、何者かの意識体の存在を直哉も掴んでいた。<セオリツ>のPSI-Linkシステムは、幼い直人とリンクしているばかりでなく、その者"メルジーネ"ともリンクを形成している。その為、<セオリツ>は、この両者の"結節点"となっていた。
このままでは、メルジーネの集合無意識深淵への引き戻しに引き摺られる<セオリツ>は、直人を道連れにしてしまう。直哉は、この"結び目"を解消しようと、PSl-Linkシステムのコントロールを試みていたが、<セオリツ>のシステムは、直哉のコントロールを受け付けない。
直哉が、焦りをコンソールパネルにぶつける鈍い音が、<アマテラス>のブリッジに響き渡る。
『……くっ! 一体どうすれば……
……そうか……その手が! ……』
咄嗟に直哉が<セオリツ>の狭いコクピットの中で、しきりに身体を動かし始める気配が伝わってくる。コントロールパネルの操作ではなく、何かを直接的にいじくり回している、そんな様子だ。
「Unknown PSI パルスとの同調率八〇パーセント! ナオ!」アランの指示に、無言で頷き応える直人。
その瞬間、周期的に繰り返される低い唸り声のような音声が、<アマテラス>を包む。今まで時空間の背後に隠れていた、その謎のPSlパルスが、<アマテラス>の同調によって波動収束フィールド内に顕在化する。
一方、<アマテラス>のシールドに忍び込みながら、崩れゆく時空間変動の荒波をやり過ごしていた玄蕃もまた、その声を感じ取っていた。
……ぬぅ……何だ、この霊威は……
……玄蕃! ……
……お、御頭! ……
……玄蕃! 無事なのか? ……一体どこにいる? ……ん? ……
先程から途切れていた、玄蕃との伝心が回復した瞬間、神取は、玄蕃を通して自身に流れ込む、重低音のように響く、その波動を受け止めていた。
……呪詛? ……
……いや……これは……まさか……
「もぅ! いや! 何なの、この音⁉︎」不気味な音色にサニが思わず耳を塞ぐ。
「ターゲットのPSIパルスが、音声変換されているようだ! 今は構っている暇はない! 続けるぞ!」
PSl波動砲発射に備え、内圧を高め続ける<アマテラス>の、二つのPSlパルス融合反応炉が、その謎のPSlパルスに呼応して、唸りを上げ始める。
「同調率九十七パーセント!」「操船、交代する! ナオ!」
ティムから<アマテラス>の操船を移譲されると、直人は、拳銃型発射制御装置にのしかかる船の重みを、震える両手で受け止めた。
「PSI-Link……目標感知……ターゲットスコープ、オープン。……も、目標……」
ターゲットスコープの中央に父の船、<セオリツ>の船尾が、ゆっくりと入り込む。
「目標……<セオリツ>……」
直人は、無理やり声を絞り出す。
『……これを……繋げば……よし! ……いけるぞ……』
「波動収束フィールドに感! ……こ、これは<セオリツ>⁉︎」波動収束フィールドのエネルギー感知アラームが鳴り響くのと同時に、サニが声を上げる。
「何をする気⁉︎」「父さん⁉︎」
「この反応……PSl波動砲の機関強制昇圧に似ている……」スペクトル解析されたグラフを元に、直ちに解析結果を告げるアラン。
「えっ……けど<セオリツ>に、この砲はないわ! そんな事をしたら、機関が臨界に達して……⁉︎」「ああ、それが狙いだろう……<セオリツ>は自爆するつもりだ!」
アランの声に、全身を震わせる直人。
『……パパ! ……怖い、怖いよ! ……』
幼い直人の魂は、未だ<セオリツ>に引き摺られたまま、もがき喘いでいる。
「<セオリツ>には、もはやPSl-Linkをコントロールする力も残ってはいないのだろう……自らを犠牲にして、直人とのリンクを断ち切る……それが<セオリツ>に残された、最後の手段……」
「待って! <セオリツ>が自爆したら、この時空間は……」
『その通りだ、カミラ』モニター越しに藤川が応える。
『オモトワのバックアップデータが消失するのを待たず消し飛ぶ』




