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魂たちの二重奏 6

「副長! シールド展開用のPSI 精製水は⁉︎」「残量は二〇パーセント……だがシールド展開しても、この時空間変動には……」

 

「それだけあれば! 船首装備へ、機関に蓄積している余剰エネルギーをバイパス! 『二人』のPSIパルス情報を水に転写して、あそこに撃ち込む!」

 

「二人?」直人の表現に、違和感を感じたティムが、横から疑問を投げる。

 

「……"もう一人"の亜夢だよ……『セルフ』を受け入れようとしている……」

 

 直人の視線を追うティム。ブリッジ後方の三人も、合わせるように視線をその先に向けた。ブリッジ中央のホログラムの光球が、色を変えながら混ざり合おうとしている様相で、一同は納得する。

 

「『二人』をあそこに送り届ける!」

 

「……よし。やってみるか!」アランは幾分思考を巡らせると、さっそく準備に取り掛かる。

 

「待って、アラン、ナオ⁉︎」それでこの窮地を脱することができるのか……下手をすれば、この不安定な時空間変動の中で、エネルギーを著しく消費する事で、<アマテラス>をインナースペースの藻屑にしかねない……カミラは、戸惑いをみせる。

 

「カミ……」「お願いです!」カミラを説得しようと、口を開きかけたアランを制して、直人が声を張る。アランは静かに微笑むと、直人に発言を譲った。

 

「やらせてください!」

 

「ナオ……」決然と意思を示す直人に、インナーノーツ一同は圧倒される。

 

「……今回は貴方に負けっぱなしね、ナオ」

 

 カミラは、顔を少し俯けて呟く。

 

「どの道、それしか手がなさそうね……」

 

 カミラも覚悟を決め、顔を上げ直人を見据えた。

 

「決めて頂戴よ、ナオ!」「はい!」

 

「ナオ! 船首装備管制を、PSIブラスター照準システムからのコントロールに切り替えた。いつでも撃てるぞ!」

 

「ありがとう! 副長!」直人は再びPSI-Linkシステムモジュールに手をかざすと、意識をシステムに集中させていく。正面モニターに、照準が表示される。

 

「この一射に賭ける! 各自、最善を尽くせ!」カミラは声を張って檄を飛ばす。

 

「了解!」一同の声が重なる。誰の目にも、躊躇の色はない。

 

「サニ! 可能な限りターゲット座標を絞り込んで! ティム! 全スタビライザー、及びスラスター全開! 船首を目標へ連動!」

 

 ティムとサニは連携して、変動する時空間乱流の中、ターゲットの捕捉に全力を挙げる。

 

 かの与一の如く、波間に揺れ動く扇に、狙いを定めるようなもの……ターゲティングは困難を極める。

 

「急げ! この時空間変動の中ではあと五分が活動限界だ!」

 

 アランは、エネルギーバイパスの切り替えと、時空間変動の影響監視を同時に処理している。

 

「やってみせますって!」ティムは、スラスタ制御を半舷に絞り、その勢いで船体をドリフトさせると、船は弧を描くように半回転する。

 

 その勢いを打ち消すように、逆サイドの量子スタビライザーを空間に突き立てる。その反動は、物理量としてブリッジに衝撃となって返ってくる。右舷後方のスタビライザーが、その次元間圧に耐えかね圧壊する。

 

「ターゲット! 有効範囲内‼︎」衝撃に振り落とされまいと、レーダー盤にしがみ付きながら、サニは反応を報告する。その直後、直人の変性意識とPSI-Link接続した照準が、正面モニター内で赤く点滅し、ターゲットを感知したことを告げる。

 

「ナオ‼︎」僅かな照準ロックオンのタイミングを逃さないカミラ。

 

「発射ぁ!」直人は、カミラの発令に反応して、トリガーを引く。

 

 二機の機関に各々蓄えられた余剰エネルギー、すなわち亜夢とアムネリアの「二つの魂」が船首に蓄えられたPSI 精製水を核にして注連縄のように絡み合い、船首射出口より放たれる。

 

 そのエネルギー流は、時空間乱流を巻き込みながら、一直線に目標座標へと突き進む。

 

 ……もう一度……もう一度、生まれてくるんだ! ……亜夢‼︎ ……

 

「行けぇぇぇ‼︎」

 

 放たれたエネルギーの奔流が、微かに光る時空変異場へと吸い込まれていく……

 

 固唾を呑んでモニターを見守るインナーノーツ。

 

 その変異場中心から、眩い光が漏れはじめたかと思うと、<アマテラス>周辺に広がる空間いっぱいに、一斉に光が広がり、<アマテラス>もその中へと包まれていった。

 

 

 唐突に目を見開く亜夢。

 

 それと共に、バイタルの各波形が、飛び跳ねるように脈打ち出す。

 

「お……おじいちゃん! バイタル値上昇! これって⁉︎」「何⁉︎」

 

 真世は動揺したまま、眼下の亜夢を見つめる。

 IMCの一同も自席を立ち、コントロールブースから、一段下に位置する亜夢の収容カプセルを覗き込んだ。

 

 カプセルの中で、亜夢は、何かを求めるようにゆっくりと手を持ち上げ、その手を自分の身体に重ねる。そのまま亜夢は、確かめるように、自分の身体を抱きしめた。

 

「う……うぅ……う……うわぁ……ぁあ……」

 

「泣いてる……の?」真世は、カプセル内の音声に、亜夢が咽び泣いていることに気づく。

 

「あああ……わあぁぁぁ!」

 

 それはやがて、慟哭となってIMCの室内に響き渡った。

 

「真世! どうしたの⁉︎ ミッションは……インナーノーツは?」

 

「おばあちゃん……わからない……でも……」

 

 モニター越しに、状況確認を求める貴美子に、真世も明快な回答を示すことはできない。IMCの一同も、それは同じであった。

 

 IMC大型モニターには、先程まで映し出されていた、嵐に見舞われた心象風景は消え、青と赤の二つの巴が混じり合ったような色の、雲のようなモヤを写すのみであった……

 

 

 ……ザザァァ……

 

 ……ザザァァァ……ザァァァ……

 

 静まり返った<アマテラス>のブリッジ。何処からともなく、波の囁きが聞こえてくる。

 

 激しい閃光に包まれ、ホワイトアウトしていたモニターが回復してくると、晴れ渡った空の下、頭上天高くから降り注ぐ太陽の光に、白く照り返る砂浜が、モニターいっぱいに広がり始める。

 

 砂浜には、大小の建造物の瓦礫のようなものが散乱している。波に打ち上げられたもののようだ。

 

 インナーノーツ一同は、その光景にしばし目を奪われていた。

 

 モニターにいくつかの影が立つ。人影のようだが判然としない。

 

『……っかり……しっかりしろ! ……』

 

『…………』

 

『……あっちはダメだ……この人は……』

 

『……いや……もう息は……』

 

『妊婦さんか……お気の毒に……』

 

「何……これ……」サニが、聞こえてくる声を気味悪がる。

 

「亜夢の……記憶……?」直人は、直感的にそう感じた。

 

『……おい、待て! ……今、何か動いたぞ』

 

『まさか!』

 

 その声に呼応するかの様に、<アマテラス>に小さな、しかし、力強い振動が伝わる。

 

 また一つ……また一つ……確かな鼓動が、確かに脈打っている。

 

『……間違いない! まだ生きてる! 子供はまだ生きてるぞ!』

 

『何! ……ホントだ……』

 

『まだ助かるかもしれん! 急げ……』

 

『お、……おう! ……』

 

 心象風景がまどろみ始め、さざめく波の音が次第に遠ざかる。

 

「……亜夢……」

 

 直人は、胸に刻み込む様にその名を呟く。

 

 瞳の奥から、込み上げる熱。

 

 ……生きる……生きられる! ……

 

 亜夢の生への強い意志と、喜びが止めどなく伝わってくる。

 

 右の肩に、誰かの手が触れた。

 

 ティムだ。直人は、瞳から溢れ出そうになるものを見られまいと、彼と反対の方向に顔を伏せる。ティムは、前を向いたまま、直人を労う、穏やかな口調で語りかけた。

 

「これから始まるんだな……この子の……亜夢の本当の人生が」

 

「……ああ」直人は目頭を拭うと、静かに顔を上げた。<アマテラス>のブリッジを安らかな空気が包み込む。

 

「……ナーノーツ! ……インナーノーツ! 応答せよ! インナーノーツ!」

 

 開かれたままの通信回線に、聞き慣れた声が飛び込んで来る。迷子の我が子を、必死になって探し回っているかの様な、緊迫した声だ。

 

「あーっもぅ! チーフ! せっかくの雰囲気ぶち壊し〜」サニがうんざり気味にボヤくが、どこか嬉しそうな表情を浮かべている。

 

 サニのその声に、インナーノーツ一同にも笑顔が戻る。

 

「ふふっ。ずいぶん心配かけてしまったわね……」

 

 カミラは、顔を上げてインナーノーツ全員の顔を見渡す。皆の表情は晴れやかだ。

 

「さあ……帰りましょう!」

INNER NAUTS 第一章完結です!

ここまでお読み頂きまして大変ありがとうございました!!


ほぼ自己満足の世界で書いているのはバレバレかと思いますが、読者の皆様にどのように感じて頂いたのかやっぱり気になるところです。

よろしければ感想やコメントなど頂けますと嬉しく思います。頂いた感想、コメントは今後の執筆活動に活かしていきたいと思います。


第二章は今のところ12月頃公開を予定しておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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