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生と死の狭間で 3

 IMCのスタッフらは、壁面の大型モニターに映し出される空間模式図を、固唾を飲んで見守っている。

 

 一方で真世は、自席コンソールのモニター越しに、貴美子の指示を受けながら、亜夢の生命維持作業を継続していた。

 

 魂からのエネルギー供給が弱まった肉体に、その代用エネルギー(医療用PSI精製水をパーソナル調整し、光線変換したもの)を投与する。それは奇しくも真世の母、実世が長年、受け続けている治療と同じ療法であった。(実世はこれを定期的に受けている)

 

 亜夢を収容したカプセルは、この治療光の放つ、仄暗い紫がかった色に包まれている。(治療光は本来視認できないが、投与中の心身状態、部位の状態を視覚的に確認できるように発光処理がされている。その発色や強さ、明るさも個人や状況毎に異なる)

 

 誘導ビーコンに乗せて送信している生体PSIパルスも、この肉体維持措置により、なんとか保てている状況である。

 

「コード『999』を起動していれば、その際のPSIバリア偏向で、誘導ビーコンを捕まえることは出来るハズですが……」東は、不安な面持ちで藤川に語りかける。

 

「果たして、こちらの意図に気づくでしょうか」

 

 誘導ビーコンを送信して十分程が経過している。<アマテラス>とのコンタクトは、依然回復していない。

 

「気づいてもらわねば困る。<アマテラス>単独での脱出は難しい」

 

「上手くいけば<アマテラス>と亜夢、両方救われます。ですが、一歩間違えれば……」

 

 瞬きもなく、東は、ただ渦潮を映し出し続ける、壁面のモニターを見据える。藤川は、東の言には答えず、坐したまま杖の上で両手を組み、刻一刻とプロットが刻まれる渦潮の図をじっと見つめていた。

 

 

「やはり……このまま誘導ビーコンを遡って脱出するにも、時空間転移中にエネルギー不足に陥りかねない」脱出に必要なエネルギーを再計算していたアランが、結果を伝える。

 

「そんなぁ……じゃあビーコン捕まえたところで、意味ないじゃん……」サニが、落胆した口調で言葉を返す。

 

「そこでこの生体パルスなのよ」カミラは、口元に小さな笑みを浮かべながら返す。サニは落胆の上に、困惑の表情を上塗りした。

 

「ナオ、独断先行はいただけないけど……」

 

 直人は、カミラの叱責を覚悟し俯く。だが、カミラは、口調を幾分和らげて続けた。

 

「どうやら貴方の判断が、正解だったみたいね。今回は、不問にするわ」「えっ?」カミラの意外な一言に、きょとんとなる直人。

 

「アラン! インナーチャイルドとの同調率増幅! 直人、ティムはそのままインナーチャイルドをキープ!」

 

「は……はい!」直人とティムは、カミラの意図を図りかねたが、どちらにせよ現状維持に徹する他ない。

 

「ブリッジ、プロテクトモード解除。本船はインナーチャイルドのサルベージミッションを継続する!」

 

 アランがブリッジのプロテクトを解除し、モニターの防護シャッターが上がると、そこには、先程までの闇一色の世界に、暗い赤、橙、紫などの僅かな光彩が現れていた。インナーチャイルドとの同調が回復した事で、反応が出始めている。

 

「サニ、十分な同調が確立されるまでインナーチャイルドとの相対距離に気をつけて」

 

「りょ……了解!」サニも狐につままれたような面持ちで、言われるままにレーダーに向かう。

 

 レーダーは、刻一刻とはっきりとしたインナーチャイルドの形影を映し出す。

 

「アラン! 同調率は?」「四十三パーセント!」

 

「あともう少しね。五十パーセントに到達したら、通常時空間転移に必要なエネルギーを、インナーチャイルドとの同調から確保できるはず!」

 

「!」ハッとして直人とサニは、カミラの方へ振り返る。

 

「そういう事っすか! それなら!」ティムは操縦桿を握りなおし、インナーチャイルドの牽引に力を込めた。

 

「ナオ!」「ああ!」ティムの呼び掛けに、直人も誘導パルスのコントロールに念を入れる。

 

 ……亜夢! ……

 

 直人は、PSI-Linkシステムを通して、インナーチャイルドに再び語りかける。

 

 ……聞こえる? ……あの炎は、キミなんだろ? ……

 

 ………………

 

 ……キミは、オレに助けを求めてきたんじゃないのか? ……

 

 ……………………

 

 ……オレはここだよ……

 

 …………………………

 

 ……絶対に、キミを助ける! ……

 

 

「同調率、五十パーセント突破!」アランの報告に呼応するように、ブリッジモニターに、何かの映像が展開されていく。

 

 未だ暗闇の中ではあるが、ところどころ赤味を帯び始めているように見える。僅かに、ゴソゴソとくぐもった音がブリッジの振動を通して伝わり、ブリッジが揺れ動くたびに、細かい気泡のようなものが現れる。

 

 どこか、密閉された水中のようである。

 

 ……亜夢! ……

 

 PSI-Linkシステムのモジュールに、再び温もりが戻ってくる感覚を、直人は捉えた。

 

 直人の意識に、何か暖かなものが流れ込んでくる……

 

 ……赤ちゃん? ……

 

 ……そうか! ここは、お母さんのお腹の中……

 

 ……亜夢、そこに居たんだね……

 

 直人の心の中に、はっきりとしたイメージが浮かび上がる。直人は、その赤ん坊に手をさしのばす。

 

 ……大丈夫、もうここから出ていいんだよ……

 

 ……生まれてきて、いいんだよ……

 

 何故か、そんな言葉が浮かんでくる。

 

 ……さあ……

 

 更に手を伸ばすと、その赤ん坊も恐る恐る両手を広げ、その小さな指で、直人の手を取ろうとしてくる。

 

「同調率六〇パーセント! 機関内圧、時空間転移可能域!」

 

「よし、誘導ビーコンを遡って、表層無意識域の目標座標を自動算出! 総員、転移に備え!」

 

 ……行こう、一緒に! ……

 

 直人は、その赤ん坊の手をとる。

 

「で……出た!!」レーダーを監視していたサニが、驚きのあまり上擦った声で叫ぶ。

 

「また『手』が!」

 

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