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サルベージ 4

「時空間転移完了!」

 

「船体各部チェック、サニ、波動収束フィールド展開」「了解!」

 

 時空間転移が明けた<アマテラス>ブリッジ。インナーノーツ各員は、手早く決められたプロセスを処理していく。

 

 波動収束フィールドが展開されると、亜夢の心象風景が<アマテラス>ブリッジのモニターに広がる。前回同様、深い海底の様相を見せる。

 

「凪いだ海ね……静か過ぎる」

 

 カミラは、前回ミッション時の、海底火山が荒れ狂う海底を思い返していた。あの狂気の海に比べれば、一見落ち着きを取り戻した、健全な心象風景にも見える。

 

 <アマテラス>は何の抵抗も受ける事なく、目標座標に向かって潜航を続けた。

 

 何もない。静けさと暗闇だけが、その世界での存在を許されていた。

 

「間も無く、時空間LV3領域に到達します」

 

 サニの報告に同期して、モニターの闇の濃度が、徐々に高まっていく。前はこの一帯は、溶岩洞窟のような風景を作り出していたが、それも今は消え果てている。

 

「サニ、波動収束フィールドに、何か反応は?」

 

「全く……何も反応ありません」

 

 <アマテラス>は座標データのみを頼りに、ひたすら船を進める他ない。

 

「もしかしたら、亜夢はもう……」

 

「いや……まだわからないよ……」

 

 死の世界を前に、諦めを口にするティムに、直人は思わず反論する。

 

 昨夜の一瞬の邂逅の中で見た、あの小さな炎……亜夢の生命はまだ生きようとしている。直人はそう思わずにいられなかった。

 

「直人の言うとおり、諦めるのはまだ早い。とにかく、やれる事をやりましょう」

 

 カミラは、諦めに傾くクルーらを鼓舞する。

 

 <アマテラス>はさながら深海潜水艇のように、ゆっくりと闇深くへ降りて行く。

 

 

「目標座標に到達!」

 

 船内時間で約十分が経過した頃、サニが目的地に到着した事を知らせた。

 

「停船よ、ティム」「了解!」

 

 カミラの指示に従い、ティムはその場で<アマテラス>を停止させる。

 

「<アマテラス>よりIMC」

 

 カミラは通信回線を開くと、IMCを呼び出す。

 

「目標座標に到達しました。これより『サラマンダー』のサルベージ作業に移ります。亜夢の生体パルスを送信願います」

 

「了解した。真世、アイリーン。準備の方は?」通信を受けた東は、担当するオペレーター二人に確認する。

 

「出来てます!」「こちらもオッケーです」

 

 真世が、亜夢の生体データからPSIパルス化したデータを、アイリーンが、送信コードに変換している。

 

「よし、コード送信!」

 

 <アマテラス>ブリッジ、アランが監視しているモニターに、コードデータが表示されていく。

 

「来たぞ、ナオ。データをそちらに転送する。波動収束フィールド全域に、このパルスを拡散放射するんだ」「了解! 誘導パルス放射機データリンク!」

 

 直人が誘導パルス放射機を起動させると、<アマテラス>下部の突起構造のカバーが一段下方へスライドし、スピーカーのような形状をした十八連装のパルス放射部が露わになる。

 

「誘導パルス、放射開始!」「放射開始!」

 

 カミラの命令を復唱し、直人が誘導パルス放射機のスイッチを入れる。

 

 放射されるPSIパルスは、ビジュアル構成されない為、<アマテラス>ブリッジのモニターに変化はない。

 

 サニの監視する時空同調レーダーにのみ、その反応が現れる。レーダーには<アマテラス>を中心とした同心円状のエネルギー反応が、次々と広がっていくのが表示される。

 

「<アマテラス>誘導パルスの放射を開始しました」IMCの時空間モニターを監視している田中が、その反応を確認し、報告する。

 

「うまく喰いついてくれれば良いのですが……」

 

「東くん、キミ釣りは?」

 

 <アマテラス>から送られる映像モニターを硬くなって見つめていた東は、藤川のその返しに、いささか困惑する。

 

「あ、はい……少しは。あまり上手くないですが……」自嘲気味に答える東。

 

「ふふ、だろうと思った」

 

 二人のやりとりにクスッと笑いをこぼしてしまうアイリーン。

 

「しょ……所長!」「いや、すまん。私も釣りはやらんので、偉そうな事は言えんが……」

 

「釣り好きのアルが言うには、こちらに『釣るぞ』という気負いがあると、釣れないのだとか……」そういうと、藤川は、東の背中を軽く叩きながら「まぁまだ、時間は十分ある。じっくり待とうじゃないか」と宥めるように語りかけた。

 

「そうですね……」東は、ミッションチーフの立場として、ミッション対象者と、インナーノーツの生命を預かっている。誰よりも、その責任感を感じている東は、いつも緊張の塊と化してしまう。そのことをよく理解している藤川の一言で、東の顔は幾分緩んだ。

 

 誘導パルスの放射開始から<アマテラス>船内時間で約二十分余りが経過していた。

 

「サニ、レーダーに反応は?」

 

「まだ何も……」

 

 さすがにカミラも痺れを切らしてきた。

 

「ナオ、お前さんの方も?」

 

 直人は、PSI-Linkシステムを通して、誘導パルス放射機からのレスポンスを監視しているが、ティムの問いかけに、直人も首を横に振るしかできない。

 

 吸い込まれそうなモニターに映る闇。直人は、その闇の奥を見据えている。

 

 だがそこに浮かぶのは、モニターの表面に、反射で映し出される自分の顔だけだ……

 

 ……亜夢さん……

 


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