蘇る神 5
……なおと!……
燃え上がった焔が、亜夢の姿を描き出す。
……亜夢!!どうして!?……
……さくまが行っちゃう……亜夢、さくまを探すの!……
……えっ!?……でも……
……お願い!なおと!!……
亜夢は、直人に身を乗り出すようにして迫る。
……貴女……自分の意志で……ここまで来たというの……
……アムネリア……
直人の心象風景の中で、今度は水柱が立ち上がり、アムネリアの姿へと変わる。よく似た二つの魂の姿が直人の心の中で対面していた。
……戻りなさい……
……嫌!……
『……何故?……あなたは、我の死する安らぎを拒み、生を選んだ……今、あなたが離れてしまっては……もし戻れなければ、あなたの命は……』
アムネリアの心の声は、音声変換され<アマテラス>のブリッジにも届いていた。
『……死ぬのは怖い……でも……さくまが死ぬのは嫌……もっと嫌!!』
アムネリアの動揺した気配が、ブリッジにも伝わってくる。
『……さくまは死なせない!……亜夢も死なない!一緒に生きるの!』
……共に……生きる……
アムネリアの澄んだ瞳が大きく見開いたように、直人には見えた。
……亜夢!探そう、咲磨くんを!……アムネリア!……
直人は、アムネリアをじっと見つめていた。アムネリアは瞑目し、溜息を吐き出すような仕草をする。再び目を開けると、静かに亜夢に語りかけ始めた。
……時はわずかばかり……
……あなたの魂と身体……我がしばしの間つなぎ留めておきましょう……身体が保っている間に……必ず、戻りなさい…………咲磨を連れて……
亜夢の魂は、瞳を大きく開き、頷いた。
「隊長、咲磨くんのセルフ……亜夢なら見つけられるかもしれない。少しだけ時間をください!」
「……わかったわ。あなた達に賭ける。頼むわよ」
『亜夢、さくま、きっと見つけるから!待ってて!!』
カミラは頷くと、サニに二人の反応のトレースを命じる。
ブリッジに座したままの直人の身体が弛緩し、首が垂れた。直人は深い瞑想状態に入っていた。
「IMC、亜夢の生体維持を!」カミラは、改めてIMCへ要請した。
「ああ、何とか持ち堪えられそうだ。こちらは任せて、早急に咲磨を探し出せ」東は、真世と生体維持作業にあたりながら、返答する。
「アムネリア?」
カミラにはアムネリアのホログラムが、少しだけ微笑んでいるように見えた。聖母を彷彿とさせる微笑だとカミラには思えた。だが、その微笑みはすぐに消え失せる。アムネリアに緊迫に張り詰めた霊気が戻っていた。
『注意して……何か、来る』
「えっ?」カミラがアムネリアの言葉の真意を確かめる必要はなかった。突然、船体が何かの強い力に反応し、ブリッジに衝撃が走る。
「アラン!?」「PSIバリアに、何かが時空干渉している!?発生次元……現象界だ!」
「現象界!?」「この力場反応、結界場のようだ!……パターン……まさか、これは?」
次の瞬間、干渉は、PSI-Link システムに変調が起き、システムにリンクしたインナーノーツの心身を締め付けた。
「ぐぁあぁああ!!」「うううぐっ!!」
「イ……ノー……!どう……た!?イン……!!」呼びかける藤川の像も、モニターの中で一層乱れている。
あ〜〜ちぃ〜〜めぇ〜〜おぉぉおぉぉ〜〜
崩れた断崖の頂で唄われる鎮魂の唱。頂の岩塚に、墓標のように突き立てられた円筒状の感応波発信器の頭部が、火雀衆の唱に呼応して、青緑の鈍い光を明滅させている。
「いいぞぉ〜〜かかった、かかった」唱和から一人離れ、霊視に集中する飛煽は、<アマテラス>が彼らの方陣に捕らえられた様を見つめていた。
「そのまま、そのままぁ。じっくりと、じぃーっくりとぉ。丹念にぃ、ねちねちとぉ、締め上げろぉおぉぉ〜〜!」飛煽が手振りをつけながら、卑猥なにやけ顔を晒し、興奮気味に声をあげる。熾恩は、それに嫌悪感を感じつつ、飛煽の変態性に改めて気付かされる。
「集中しろ、熾恩!乱れているぞ」「は、はい!」
四人は、送信器へとさらに念を送り込む。境内の結界が呼応して、白銀の光を一層、眩く輝かせていた。
「始まったか……」境内から何とか脱出し、やや下った崖に身を隠す神取は、その様子を見守る他ない。
「……異界船……神子……こんなところで落ちるでないぞ」
『……た……盾を……早……く』
PSI-Linkに深くにかかる負荷はアムネリアにも重圧となって襲いかかっていた。絞り出すアムネリアの声にアランが反応し、残り僅かなPSI精製水をシールドに回す。アムネリアがその水の羽衣に息吹を吹き込んでいくと、PSIバリアへの結界の干渉が和らぎ、それに伴ってインナーノーツの心身を締め付ける呪縛も緩和された。
「現状で……PSI-Link……リ……ハーモナイズ!」絞り出されたカミラの指示をアランは、身体を縛り付ける力に抗って実行する。PSI-Linkとの同調感度を緩めたことで、心身へのストレスが軽減され、インナーノーツは息を吹き返す。
「っう!もぅ!アタシ、趣味じゃないわよ!こぅいぅの!」全身を縛りつけられた感触から幾分解放されたサニが、身体の無事を確かめるようにさすりながら、見えない相手に抗議する。
「ったくだぜ。副長、一体何が?」ティムは振り返ってアランに問う。カミラも乱れた髪を整えながら、アランの返答を待つ。
「……現象界側から、結界場が干渉した。そして、このパターン、呪術らしきものと併用して干渉力を高めている」「えっ……まさか、それって?」インナーノーツの一同は、色めき立つ。
「そうだ。あの『レギオン』の淵に落とされた時の、あの『呪術結界』にそっくりのパターンが検出されている!」
するとカミラの目の前で、アムネリアのホログラムは、急速に輝きを失い、膝を落とした。
「アムネリア!」
浄らかな水の流れのようなアムネリアのホログラムには、足元や腕先から、土のような色が混ざり込んでゆく。




