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試練 6

『ヤマタノオロチ』の無数の蛇首が、『ヤシオリデコイ』に喰らいつく。われ先にと争う想念が、蛇頭に亡霊の影を見せながら浮き上がり、それらが群がる『デコイ』は瞬く間にPSI情報素子へと還元され、消失していった。


「デコイ、残数七!蛇首、モリヤ山へ戻って行きます!!」サニが緊迫した声で報告をあげる。


「引き負けてやがる!ナオ!」「くっう……」


 PSIボルテックスを誘導パルスで牽引する<アマテラス>も、蛇首が守屋山の方へ戻るに従って、『ヤマタノオロチ』に引き摺られる形になっていた。


「アラン!解析はまだ!?ヤツの求心部は!?」カミラが焦り混じりに問う。『ヤマタノオロチ』として形を表しているPSIボルテックスは目の前だ。求心部を見つけ出せれば、PSI波動砲をもって、『ヤマタノオロチ』を制することが出来る筈だ。だが、アランの分析は、未だにその部位を見つけることが出来ない。


「蛇首それぞれには、核となる意識情報はあるが、PSIボルテックスに、そういったものが見当たらないんだ!」冷静なアランも焦燥の色を見せて答えた。


「ひょっとすると……このボルテックス……求心部なんてものは始めから無いんじゃないか?」


「求心部が……無い?」


 アランの推察に、カミラはモニターに映る影を睨みつけていた。


 ……まさか……



 内側から込み上げる怒りと憎しみが、森部の小柄な老体を奮わせる。手にした刀を力いっぱい握りしめると、咲磨と、その横で柱にもたれかかったまま呼吸を荒げている慎吾を睨みつける。


「須ぅ賀ぁ〜〜。貴様ら親子だけはぁあ!!」


 森部は、ゆらりゆらりと、憐れな親子の目の前に歩みよると、刀を両手で逆手に持ち変え、振りかぶる。


「おやめなさい!!」信徒らの壁に阻まれた上杉は、そのうちの一人を取り押さえながら、呼びかける。だが森部に届くはずもない。森部へオーラキャンセラーを放つも、妨害に飛び出した信徒に逸らされてしまう。


「死ねぇええええ!!」


 森部は、咲磨目掛けて刀を振り下ろす。


 一瞬の出来事だった。


 咲磨の一番近くにいた陣も、信徒らに妨害されて森部の凶行を止められない。


 その場の一同が目を見張り、遠目で成り行きを見守っていた神取も、目を丸めるしかなかった。


「やめてええええ!!」ヘリの機内に、幸乃の絶叫が響き渡る。


 刀が突き立てられる鈍い感触が、境内に満ち渡った。


「さ……咲……」


 森部の刀は、咲磨の前に立ちはだかった慎吾の胸元に突き立てられていた。


 振り向きながら咲磨を見つめる慎吾。 


「とぉ……さ……ま……」


 慎吾は、咲磨に穏やかな笑みを一つ見せた。だが、満身創痍になったその身体は、もはや身を支えることはできない。慎吾は吐血し、その場に崩れる。


「……」一筋の涙が咲磨の頬をつたう。瞳から光が失われてゆく。



「う……嘘だろ……」信徒らと揉み合いになっていた新見の目に、信じられない光景が飛び込んできた。


 解き放たれた拝殿の入り口から、うねりくる蛇体のようなエクトプラズムが境内へと流れ込んでいる。別次元の霊体が、可視化できるまで現象化し、誰の目にも、はっきりと見ることができた。


「ひいぃいいぃ!!」猟銃の老幹部は、恐怖のあまり失禁しながら卒倒し、恐れ慄き、救助隊らと揉み合っていた幹部らもとうとう逃げ出し始めた。


「神じゃ……神が参られた……」


 森部は、悦びに全身を内震わせ、絡み付いてくる霊体に身を任せている。


 そして蛇は、咲磨の足元にとぐろを巻き咲磨の身体へと入り込んでいく。



 境内の森は、既に火が回り、拝殿にも火がかかりそうだ。


「こうなっては……あの子は」


 一部始終を見届けた神取は、咲磨から感じ取っていた、『神子』としての感覚が急速に消え失せ、その身体に、地の底から流れ込む、底知れない絶望が流れ込んでゆくのを感じ取っていた。


 "火付け"に回っていた、烏衆の兵と数名の部下が、境内に戻って来ていた。伝令役の一人が、神取の元へと駆けてくる。


「神取殿!ここにも、すぐに火が回ります!急いで脱出を!」


「あの神子は、もう戻れぬやもしれん……」神取は、咲磨を見やりながら烏の男に告げた。


「くっ……残念です……」伝令の烏も、その事は感じ取っているらしい。


「か、神取殿!?」神取は、事もあろうに拝殿に入り込んでいった。


「少々、やる事があるのでね。先にお逃げなさい。あ、この二人を頼みますよ」すると、拝殿の扉の陰からフラつく足取りで、二人の巫女が姿を現す。


「神取殿!!」


 火の粉が降りかかり、その拝殿の扉からはこの世のものではない雲のような蛇体がとめどなく流れ出ていた。ぐずぐずしている余裕はなかった。


「歩けるか!?」烏の男に声をかけられた巫女の二人は、朦朧としながらも、蛇雲と火に恐れ慄く。目の前の、見知らぬ男しか頼る術もない。烏の男は、二人を連れ立って境内の外へと急いだ。



「皆!」「兄さん!!」


 齋藤、皆と、警官との立ち回りに、兵が部下二人を連れて駆けつける。兵は、部下二人を咲磨確保に向かわせると、女二人の戦いに加勢する。


 IMSと上杉らも、咲磨救出と森部の取り押さえに走り、ようやく境内に着陸したヘリから、貴美子、伊藤、ヘリの救命士が、救護カプセルを転がしながら、重傷を負った慎吾の収容へと急ぐ。


 その場の全員が、其々の想いを胸に咲磨の元へと近づこうとする。しかし……


 咲磨の周辺に広がった冷たく重い空気が、何者をも寄せ付けようとはしなかった。その場の全員の動きが止まる。青白く固まった咲磨の身体に、再び鮮明に浮かび上がった赤黒い痣が、蛇の蠢きのように脈動していた。


「はっ……はぁっはははは!」


 森部は、その光景に歓喜する。


「こいつはいい!御子神の我への憎しみが呼び水となったわ!」


「神が、我らが神が蘇るぞ!」


「がは、がはははは!」


 次第に明瞭な形を見せ始める暗雲が立ち込める境内に、森部の高笑いが響き渡っていた。

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