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愛別離苦 4

お越しいただきありがとうございます!

今回の「愛別離苦」第二回目の投稿が漏れておりました!(2021/10/4時点)

第二回目(195部)を投稿しましたので、そちらからお読みいただければ幸いです。

「……動きました!」


カーテンを閉め切った暗室に並べたホログラム投影機が、今は閉館されているはずの森ノ部郷縄文館を中心としたマップを描き出していた。


森ノ部の郷の住宅街から、一つの光点が移動している。神子の父、須賀慎吾の車につけた発信器のものだ。


(ひょう)様の狙いどおり……まさか、あの父親が動くとは……」黒衣の一人が、感心したように口にする。


「あの男、森部に相当追い込まれていた。それと夢見の予言だ……神子はどうあっても郷に戻る……とな。二つを合わせて考えれば……」「なるほど……で、如何しますか?」


「森部の身辺も探らねばならぬ。予定通り、これより郷へ入り、奴の狙いを探りつつ、親子の帰りを待つ。神子を連れ帰ったところを獲る!すぐに出るぞ」


郷へと入る烏らは、皆、地味で目立たない服装に身を包み、バラバラと出て行く。


森ノ部の郷は、祭りの準備で今は出入りも多いが、今夜は前夜祭が行われるらしく、夕方には通行も規制されるという情報を掴んでいた。入り込むには、日中のうちが好都合だった。


「神取殿の動きは?」「はっ……決まった時間に、避難所で診察、あとは宿泊場所……特別、動きはありませんが……」


彼の周辺に張り込ませた監視の烏、隠しカメラなどの情報から部下は答えた。兵は、訝しむ。


「神取殿の事だ……こちらの監視には気付いている。それに『神子』が戻るとなれば……警戒を厳にせよ!」「は!」


「よし、私も出る。ここはお前に任せる!」兵は、この場のチームリーダーの男に声をかけ、部屋を出ようとする。


「あ、あの"お二人"は!?」チームリーダーは焦って声を上げた。元々彼らの上司である、皆と陣が捕らわれた事は、彼らにとっては自分達の失敗でもある。


「……あの二人に割く余裕はない。余計な事は考えるな」「は……はい……」


そう言い残すと、兵は振り返る事なく駆け出した。


「……ケッケッケ。皆でお出かけかい?……」


駐車場に出たところで、一人の男が声をかけてくる。首を斜めに傾け、斜視で、視線が定まらない、細身の小男だ。


飛煽(ひせん)殿」火雀衆の一人、飛煽は兵より先に諏訪入りし、この博物館を根城にしていた。


「……くせぇ…………」傾いた首、どこを見ているのかわからない視線のまま、兵の方へぐいと身を寄せる。兵は思わず後ずさる。


「ケッケッケ、オメエじゃねぇよ」


「この……山さ」


傾いた首のまま、飛煽は顔を兵の向かわんとする森ノ部の郷の方へと向ける。


「……気ぃつけな……」


兵は頷くと、部下を従え、郷を目指す。



正午を回る少し前、インナーノーツの三時間に渡る<アマテラス>稼動テスト兼シミュレーションは、多くの課題を残しつつ終了した。


「昼飯のあと、お前ら、どうするん?」


インナーノーツのユニフォームから、館内ユニフォームに着替えたティムは、個室から出るなり、同じように着替え終わって出てきた直人とサニに問う。


「あれ?ドッグにはいかないの?こんなテストの後じゃ、必ず顔出すくせに」サニは意外といった顔つきで返した。


「……い、良いじゃんかよ」ティムは、顔を背けて、口を尖らせる。先日、一騒ぎした件で顔はまだ出しにくい。


「ほ〜う、さては何かやらかしたな?」面白そうに、サニはジロジロと見回す。


「あ、そうそう!最近、あの亜夢、相当元気らしいぜ」ティムは、何か話題を変えようと、適当に切り出した。


「なんでも、ほら……えっと、あの誕生会でちらっと来た……」「サクマ君」直人は、ティムが言わんとした名がすぐにわかる。


「そ、その子。何でも亜夢、急に仲良くなったらしいぜ。いつも一緒に庭駆け回ってんだと」


聞くまでもない。その事なら既に"確認済み"だった。


「また真世さん情報?」言いながら、サニは横目で直人を見遣る。直人は、ロッカーの方に向き、何やら荷物を取り出そうとしていた。


「えっ……ま、いいだろ、そんなの。どうだ、飯のあと、ちょっと見に行ってみねぇか?」


ずいぶん暇そうだなと思いながら、サニは直人の方を向いた。


「どう、センパイ、行く?」


すると直人は、手に何かを持って身を起こした。


「いや、オレはこれの練習」と言って更衣室に置いていたバイオリンケースと楽譜を取り出す。


「今から少しずつ練習しておかないとやばいから」とはぐらかした。


「はぁ?」意外な返しにティムは言葉が続かない。仕方なくサニに「……お前さんはどう?」と問う。


すると、「あたしもコレの練習」とサニも同じようにロッカーから、ビオラを取り出してみせた。


「へへぇ〜〜。昨日見ちゃったんだ〜〜。センパイ一人で練習してたでしょ?もう、言ってくれればお付き合いしたのにぃ!」とにやけるサニ。


「え……!?」顔を引きつらせるしかない直人。まだろくに弾けない段階で、サニは一番一緒に練習したくない相手だ。


「いや、一人で練習するから!」そう言い張る直人に「いいからいいから」とサニは臆しもしない。


「ちぇっ……ま、いいや。飯、早くいこーぜ」ティムは、これ以上誘うのも面倒になって、呆れて言い放った。


直人とサニは楽器を持ったまま、三人は食堂へと上がっていった。

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