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愛別離苦 1

 暗いところに一人でいると、いろいろなものが見えてくる。


 小さい頃からそうだった。


 たくさんの”あの目”が僕を見つめてくる。


 あの目が笑うと、世界が崩れていった。


 郷を、みんなを、あの目が、飲み込んでいく。


 ……あの目が?……えっ?そうじゃない……あの目は……


 咲磨は飲み込まれていく世界に目を瞑った。


 ……咲磨!咲磨ぁぁ!!どこだ、どこにいるんだ!?……


 父の悲壮に満ちた声が、閉ざした咲磨の目を開かせる。


 ……とぉ様、とぉ様ぁ!僕は、僕はここだよ!ここにいるよ!……


 ……僕を、僕を見つけて!!……



 心がそう叫んだ瞬間だった。


 闇が縦に割れ、光条が差し込む。


 光がどんどん闇を追いやっていき、咲磨はその眩しさに、思わず手をかざして目を覆った。


「みーつけた!さくま見っけ!」


 クローゼットのドアを開いた亜夢が、とびきりの笑顔で覗き込んでいる。


「あ……」


 この二日、亜夢と咲磨は、隠れんぼをして遊んでいた。


「え〜〜と、只今のタイムは……」真世は、左手のディスプレイに表示されたタイマーを確認する。


 亜夢は、丸い目を大きく開いて、真世の判定をソワソワしながら待つ。


「九分四十八秒!!やったじゃん!亜夢ちゃんの勝ち!」


 十分以内に鬼役の方が、彼らの入居するフロアの、好きなところに隠れた相手を見つけ出す(隠れる方は移動しても良い)という単純なルールだ。


 真世は、看護師や幸乃らに頼まれ、彼らの面倒見をしている。今は、隠れんぼの審判役といったところだ。


「勝ち??亜夢の勝ち!?」亜夢は、飛び上がり、真世に抱きついて喜びを表現する。真世は、亜夢のあまりに素直な感情表現に、いささかゲンナリしたが、同時にその無垢さが可愛らしくも思えて、微妙な笑顔を浮かべていた。


 今日は、それぞれ鬼を交代し、十回勝負したところだ。亜夢は、これでやっと三本目の勝ちだった。


 亜夢は隠れればドキドキが隠せず、鬼になれば、見つけるぞ、と気負うので、咲磨に気配がすぐバレる。他の二本も、実のところ、咲磨の『ヒント』のお陰だった。


 最も当の亜夢は、全く気にしないようで素直に勝ちを喜び、負けはこれでもかというほど悔しがっていたが……


「おっかしいなぁ〜〜なんで見つかっちゃったかなぁ……」咲磨は首をかしげながらクローゼットから出てくる。今回は、ヒントを出した心当たりは今回はない。


「だって、咲磨、ここにいるって言うんだもん!すぐわかっちゃったよ!」


 ほこらしげに言う亜夢に、咲磨はハッとなる。


 咲磨は小さく微笑むと「そっか……負けちゃったね」とだけ呟いていた。どことなく物憂げな表情を浮かべる咲磨に、亜夢は首を傾げる。


「あらあら、見つかっちゃたの?」部屋の奥から幸乃が歩み寄ってくる。ここは、咲磨の個室だった。


「ねっ、海、海見よ!」急に顔をあげて、誘う咲磨。


「えー、またぁ?」咲磨は、食堂のベランダから見える日本海の景色がお気に入りだった。


「いいから!行こう!!」そういうと咲磨は、亜夢の手を引いて駆け出す。


「あっ!ちょっと待ってよ!」急に駆け出す二人の後を真世は慌てふためきながら追いかけた。


 幸乃は、彼らを微笑ましく見送るが、その笑顔はすぐに消え失せた。クローゼットの中に入れていたハンドバッグを開けて、バッグの中を確認する。


「……ふぅ……」


 幸乃ハンドバッグを戻すと、三人を追って食堂の方へと向かった。


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