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亜夢の誕生日 2

 森ノ部の郷は、今週末に予定された『大祭』に向け、にわかに活気づいていた。


 不思議なことに森ノ部教団の郷は、諏訪湖周辺の市街地に比べ、混乱もほとんどない。昨日の地震の影響がないわけでは無いが、近隣ではまだ避難や、救援が必要とされる中、この郷は異様なほど浮世離れしているように、神取の眼には見えた。


 この郷一帯は、何らかの霊的な加護を感じる。


 ……ふっ……森ノ部教団の信仰も、満更でも無い……ということか……


「皆子さん!こっちもお願い!」「はぁい!」


 神取は、境内の木陰に隠れ、開け放たれた社務所の窓から、中の会話を伺う。


 皆子と呼ばれた女性は、神取には見覚えがあった。ここに来た初日、避難してきた信者の中に居て、先日は、咲磨を追跡してきた女。御所の烏衆の一人だ。


 森部の教団に入信した若夫婦という設定のようだ。祭りの飾りつけを拵える作業場から聞こえる、「もう慣れた?」などと、たわいもない女達の会話から、ここ一年ほど潜伏している事がわかる。


 諏訪から来る山道の入り口近くに建つ、縄文博物館にも昨日遭遇した烏衆らしき人影が集まっているのを、先ほど、神取は車上(移動には救護チームが現地でレンタルした災害地用バイクを使用)から目撃していた。


 玄蕃によれば、森ノ部の郷の開発期、御所は間接的に関与していたが、その後、森部が郷を私物化していったため、御所は監視を置いてきたという。どうやら、この博物館が御所の監視拠点であったようだ。


 森ノ部教団の周辺で、烏衆が動き出している。


 ……師の差し金か……御所も、森部に関心を持ったな……


「……あのぉ……私、ここのお祭り初めてで。しかも急に?『大祭』って、一体どんなお祭りなんですか?」


 皆子と呼ばれた烏の女が、作業仲間の中年女性に話しかけている。


「実は私達もよく知らないのよ。あんた、ここ、長いんでしょ?何か知ってる?」隣の女性に話を振る。


「私だって今回初めてさ。聞いた話だと二十三年ぶりなんだとか。大祭は、定例の祭りと違って、御神託で開催日を決め、神様の言葉どおりの儀式を行うんだと」


「儀式?」「生贄をささげるのよぉぉお〜〜」声のトーンを落とした婦人は、おどろおどろしく恐怖感を演出してみせた。


「い……生贄!?」皆子は驚いて後ずさる。


「ははは、大丈夫よ。農家から鶏とか……あ、あと猟友会から害獣を少し分けてもらったりしてさ。それも予め潰してあるから形だけよ」言いながら、婦人は、手で首を斬る仕草をしてみせる。


「そうそう、その二十三年前は、確か猪だったかなぁ。儀式の後は牡丹鍋が振舞われたそうよ」「牡丹鍋?やだぁ、この暑い季節じゃ勘弁して欲しいわね。焼き鳥がいいなぁ……ビール付きで」「そうねぇ。旦那、幹部にも顔が効くから、お願いしてみるわよ」「やだわぁ、なんだかお腹すいてきちゃったわぁ」


 すっかり食欲に支配された女達の笑い声が、社務所に和気藹々と広がる。


 ……末端の信者は、何も知らんか……当然だな……


 小さな苦笑を漏らしたその時、神取は脳内にテレパス・メールの通知を感じ取る。


 諏訪の救護チームから、休憩中のメンバーへの応援要請だ。地震後の体調不良を訴える受診希望者は、一度落ち着きを見せたと思われたが、徐々にまた増え続けているようだった。


 ……止むを得ん……一旦引き上げるか……


 神取は、境内脇の崖を造作もなく下り、森林に隠したバイクへと急ぐ。



「はぁい、亜夢ちゃん。これ、なぁんだ?」


 キョトンとしている亜夢に看護師らは可愛らしい籠ブーケを差し出す。クチナシを中心にあしらったブーケの甘い香りに、クラッカーに驚いた亜夢の顔は一気に綻んだ。


「やっぱり女の子はお花よね〜」


 受け取ったブーケに、顔を埋めるようにして花の香りを吸い込む無邪気な亜夢に、看護師らも嬉しそうにしている。


「これはアタシ達からだよ!」サニは、プレゼント包装された小箱を直人に持たせ、押し出した。


「えっ、ちょ……ちょっと!」よろけるように進み出た直人と、その様子にブーケから顔を上げた亜夢の視線が交差する。


 亜夢は直人の顔を見るや、目を丸くして直人に見入った。


「あ……亜夢……さん……」


 直人は直感的に、今、亜夢の表層に現れている人格が、『アムネリア』ではない事を悟る。


 亜夢はしばし、呆然と直人の顔を見つめている。直人は、不思議と瞬きなく見詰める亜夢の瞳が、自らの心を裡側から読み取っていく感覚を覚えていた。


 周りの皆が、時間の流れが、急速に遅くなり、変わりに熱を帯びた何かが、身体の中を駆け巡る。


 ……これは……『サラマンダー』……


 初めてのインナーミッションで遭遇した、あのエレメンタル『サラマンダー』の生命力の熱。


『レギオン』の大木に取り込まれた直人に、再び目覚めをもたらした熱。


 この一瞬に、直人と亜夢の無意識の記憶が繋がっていく。


「な、お、と……?」


 亜夢の唇から言葉が溢れた時、再び時が流れ出した。


 ぎこちなく頷く直人。亜夢は満面の笑みを浮かべる。


「なおと!……なおとだ!!」


 ベッドから飛び出した亜夢は、ベッドから飛び出すと、直人目掛けて駆け寄る。


「なおとぉ!!」「うわっっ!!?」」


 殆どタックルだ。勢いそのままに、亜夢は直人の胴回りに飛び込み、あわや後ろに倒れそうになる直人を、ティムとサニが咄嗟に支える。


「なおと!なおと!なおと!!」


 構わず亜夢は、直人の胸元に顔を埋める。


「恋人達の抱擁…‥って……感じじゃないな」「パパと、小さな娘でない?コレ……」「だな」ティムとサニは、苦笑いしつつ『父娘(おやこ)』の表現が、何故かしっくりくる感覚を共有していた。


「遊びに来たの?なおと!亜夢ね!会いたかったんだよ!」


「う……うん……」


「『亜夢』の方で間違いなさそうだな」ティムの呟きに一同、頷いた。ここ最近、亜夢の人格が表に出ている事が多いのは聞いていたが、インナーノーツの三人が、現象界で面と向かって『彼女』と対面するのは初めてである。


 同じ身体なのに、性格も仕草も、自分達のミッションに協力した『アムネリア』とは、真逆であるのが実に不思議だ。


「頭、ヨシヨシしてあげたら?センパイ、いや、パァパ」わざと亜夢にも聞こえるように、直人に耳打ちするサニ。


「はぁ??」「ヨシヨシ?」


「そっ。ヨシヨシ」何のことかわかってない亜夢に、サニは自分の頭を撫でるフリをしてけしかける。それを見た亜夢の顔は、より一層、明るみを帯びていった。


評価ポイントが上がっていたのに気づきました!

応援してくださっている読者さんがいらっしゃるのはとても嬉しいです。ありがとうございます。

引き続きお楽しみ頂けたら幸いです。

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