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龍脈航河 4

激流の大河を進む<アマテラス>は、川面に浮かぶ儚い木の葉の様になって進む。アムネリアが示すマップを頼りに、流される船を立て直しながら、一進一退が続く。


二十年前の地震、そして今回の地震。いや、遥かなる悠久の時の営みを、龍脈はこの流れの中に包み込み、地球全体を巡っている。


「何という激流……アラン!ダメージに警戒!今の船の状態では、少しのダメージも命取りよ」「ああ。『メルジーネ』の能力でなんとかもっているようだ」


「ほーんと、手伝ってもらって正解ね」


サニは、モニター越しの東を横目で見やりながら、嫌味っぽく呟いた。東は、仏頂面を崩さない。


「亜夢、申し訳ないけど、もうしばらく頑張って」


『……はい……』


ざわりとした感触が、直人の胸の裡をよぎり、思わずアムネリアの方へ振り返る。


彼女のフォログラムは手を下へと伸ばし、この激流の時空間の全での情報を掴み取ろうと身を捧げている。


だが、その彼女の能力でも、この龍脈のエネルギーは荷が重いのであろうか?フォログラムの表情には現れない彼女の精神の乱れが、ざわりとした感触となっている事を直人は悟る。


ブリッジに伝わる振動が、徐々に増し、注意を促すアラームをビービーとかき鳴らしていた。


「アラン、PSIバリア稼働効率が落ちてきているわ。持ち直せる?」


アランは、調整を試みるも状況は改善しない。


アランの作業を待たず、注意警報は、警告アラームに変わる。


「本船全周!各方位に波動収束反応多数!これは、PSIクラスター!?」


サニが言い終えるや否や、ブリッジに衝撃が走る。赤や緑、青や黄など、何らかの存在を示す色合いの発光体が、モニターに姿を現すや否や、その身を<アマテラス>に叩きつけてくる。


「アラン、解析は!?」「……データ照合……ダメだ!僅かに生命の痕跡らしき情報があるが……この龍脈に漂う何かの残留思念かもしれん」


「そんなのが、何で襲ってくんだよ!」モニターにぶち当たり、飛沫のようになって飛び散るいくつもの発光体(構成データを特定できない為、モニターもビジュアル構成ができない)を睨めながら、ティムはマッピングデータを頼りにひたすら船を進める。


「ナオ、PSIブラスターを……」「待て、カミラ!」


カミラを制したのは藤川だった。


「その龍脈のエネルギー乱流は、おそらく地震の余波だ。そんなところで高エネルギーのPSIブラスターを使用すれば、再び地震のようなPSI現象化を誘発させかねん!何とかやり過ごすんだ」


「くっ……了解しました。シールドを最大展開して、早々に切り抜けるしかないわね。アラン、ティム!」


「合点承知!」ティムは、軽口で答えながら、そう簡単にはいかないことを操縦桿にかかる抵抗で感じ取っていた。発光体の衝突は、シールドのみならず、アムネリアの加護によって、幸い、深刻なダメージには至っていないが、それらが抵抗となって、船速が削られていく。


シールドと同調しながら、ナビゲーションのみならず、次々と降り注ぐPSIクラスターの衝突から船を守護し続けるアムネリア。彼女の身に降り注ぐ重圧は、フォログラムで作られた彼女の顔にも滲み出る。


『……襲っているのでは……ない……我らを……あなたを……求め……て……』


直人は、ハッとなってモニターに現れる発光体の群を見詰めた。


「亜夢!?」


カミラの目の前で、アムネリアのフォログラムが膝を折る。その虚像の影は、向こう側を透けて見える程に、弱り始めていた。


「どうしたの!?亜夢!?」


アムネリアは、カミラの呼びかけに答えることなく、体制を立て直し、自らの務めを持続させようとする。


「おい、直人!」


振り返って、アムネリアを心配する直人は、突然、背後から声を浴びせかけられる。咄嗟に向き直った通信モニターの中で、アルベルトが、眉を釣り上げていた。


「お前、いつまでそうやって、その()一人にやらせてるつもりか!?」


「へっ……!?」


「へ、じゃない!さっさとシステムにダイレクト接続して、サポートするんだ!」


話が見えないまま直人は、PSI-Linkモジュールへと手を伸ばす。しかし、モジュールは輝きを失い、直人を受け入れようとしない。


「あ、あれ?」「そうじゃない!トレースギアだよ!さっさとそいつを着けんか!」


「どういう事?」カミラが訝しむ。


「ああ、言ってなかったな!トレースギアが、今、直人のダイレクト接続入力デバイスだ。リアルタイムトレースの入力をバイパスしたらパルス干渉が酷くてな、直人の通常モジュールは一旦オフにさせてもらった」


「ちっ、おやっさん、そりゃあんまりだろう?時間なかったとはいえ、何とかできなかったんかよ?」ティムが直人の内心を代弁する様に突っかかる。


「いちいち煩いぞ、ティム!」


アルベルトの語気が荒げてくるのを尻目に、藤川が口を開く。


「そうか……『メルジーネ』が直人とのリンクを形成しているとすれば、彼女の能力は、直人がダイレクト接続して初めて、最大限に発揮される……昨晩のミッションのように。そういうことだな、アル?」


「ああ」アルベルトは、藤川のフォローに得意気に頷く。言いたい事をまとめてくれたと言わんばかりだ。


「その流れは地球を巡る大動脈みたいなもんだ!お前達が力を合わせなきゃ、乗り越えられんぞ」ダメ押しとばかりに、アルベルトはけし掛ける。


「そ……そんな!」直人は、ダッシュボードの上に置いたままにしていたトレースギアに視線を落とす。


「どうやら他に良い手は無さそうね。ナオ、やってくれる?」


「……」カミラの促しに、答える事もできず、直人は、ギアを見つめていた。


カミラは、溜息を一つ漏らすと、凛として顔を上げる。


「……仕方ない、ナオ、命令よ。トレースギアを装着、直ちにダイレクト接続し、亜夢のサポートを!」


カミラは、直人への情を押し殺し、あえて命ずる。


「くっ……りょ……了解」


直人は、恐る恐るギアを手に取ると、もう一度アムネリアの方へと振り返る。


PSIの大河の如き龍脈の中、大幅に機能低下した<アマテラス>を守護しつつ、導き続ける。それは、何らかの強力な力を持つアムネリアにとっても、相当な負担をかけている事は、弱りきったフォログラムの虚像が示していた。


「アムネリア……」


直人の瞳に、意志の灯火が宿る。


「センパイ……」固唾を飲んで見守るサニ。もう口を出せる状況でも無い。


……風間くん……それは、亜夢のバイタルデータをモニタリングしながらも、彼の様子を横目で窺っていた真世も同じだ。


直人は正面を向き直り、トレースギアを取る。


両手で握ったトレースギアに意識を集中する。


……大丈夫……


まるでそのギアが語りかけてくるようだった。


……アムネリア!?……


……我に、想いを……重ねて……


……ただ…………我を感じて……


次第に直人も心象に龍脈の大河の流れが描かれ始める。アムネリアが感じ取っている世界である事を直人は直感した。


……キミを……感じる……感じるよ……


……アムネリア……今、行く……


その中央で眩く光り輝く存在に、意識を重ねる。光は直人の心を曝す恐怖を包み込み、安らぎと共に、ただひたすらに直人を惹き寄せる。


直人は、自らの心を映し出す"鏡"へと身を委ねていった。


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