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御子神様 3

 IMC南側半分、対人インナーミッション対象者受け入れ区画に、亜夢を収容した保護カプセルが迫り上がってくる。傍には、IMC区画から同行した真世が付き添っていた。


 カプセル内モニタリングカメラがオンになり、亜夢の姿がIMCのメインモニターに映し出される。


「アムネリア……」


 直人の口から溢れた呼び声に答えるかのように、亜夢は小さく微笑んだ。


 モニター越しに直人と『アムネリア』は、瞳と瞳を合わせたまま、時を止めていた。


「<アマテラス>の方も準備が整ったようだ。インナーノーツ、ただちに出動だ!」「了解!」


 東の発令で、ミッションが動き出す。


 インナーノーツは、<アマテラス>格納庫直通エレベーターへと乗り込んでいった。


「真世、亜夢とモニタリングシステムの最終チェックを頼む」「あ……は、はい!」


 東の指示に従い、真世は最終チェックにかかる。亜夢の顔は、先程襲いかかって来た際の野性味溢れる顔とはうって変わり、静寂と清廉で満たされている。


 改めて『二つの魂』の存在を感じずにはいられない。


「……大丈夫?」


 チェック作業を続けながら、真世は声をかけた。


 亜夢は、丸い目を見開いて、真世の顔をじっと見つめると、頷いて答える。


 ……このコと……風間くんが……


 真世は、眉を顰めていた事に、自分でも気づいていない。


「……繋がりは……誰にでもある……貴女にも……あの方にも……我と……貴女も……」


 亜夢の澄んだ瞳が、真世を瞬きもなく見据えている。


「……それが見えなくて……不確かなものであったとしても……」


 はっとなり、真世は亜夢の顔を覗き込む。


「……心が、読めるの?」


 小さく微笑んで俯く亜夢は、小さく首を振る。


「……感じるだけ……」


 インナースペース深く、集合無意識で人の魂は繋がっているという。真世は、いつか祖父に教えられたことを思い出していた。


 亜夢は目を見開いたまま、両肩にかかる豊かな黒髪を、ゆっくりと束ねるような仕草を繰り返している。


「アム……ネリアさん……なの?」


  真世は、直人が口にした、その名前で呼んでみる。『アムネリア』は、手を止めると、真世の顔をまじまじと見つめ、小さな微笑みを作った。


「……わからない……でも……どこか懐かしい響き……」


「真世、どうだ?」(じれ)ったさを滲ませた東の声が、カプセルに付属するスピーカーから呼びかけている。


「あ、だ……大丈夫です!」


「よし、そこも結界を展開するぞ。こっちに上がってくれ」「はい!」


 真世は、もう一度、『アムネリア』の方へと向き直る。


「アムネリアさん……あ、そうだ」


 真世は、ユニフォームのポシェットから、持ち歩いているヘアゴムを二つ取り出すと、『アムネリア』に勧めた。


「よかったら……」


『アムネリア』は、キョトンとしたまま、差し出されたヘアゴムを見詰めていた。


「やってあげる」そう言うと、真世は手早く『アムネリア』の髪を束ね、肩の上に二つのオサゲを作った。


「どうかな?」


『アムネリア』は、束ねられた髪をニ、三度撫でて確かめる。幼い少女の笑みが、亜夢の顔に戻っていた。思わず微笑み返したくなる笑顔だった。


「……皆んなを、お願いね……」


『アムネリア』が静かに頷いたのを見て、真世はカプセルのカバーを閉め、IMCコントロールブースへと上がっていった。



「ちょっと、センパイ!」


<アマテラス>のタラップ手前で、直人はサニに腕を取られ、足を止めた。


「なっ……なんだよ!?」


「さっきのアレ、ホントにやる気?」


 二人の様子にティムは、タラップ中ほどで気付く。


「当然だろ。オレだって何があるのか知りたい」


 サニは、さらに直人の腕を引き寄せ、小声で続けた。


「バカ!気づかないの?"真世さん"も居るんだよ。もし、センパイが少しでも意識したら……」


「はっ!!」


 サニの言うとおりだ……その可能性を今の今まで、全く"意識"していなかった。


「へへっ!"公開告白"になっても知らないんだから!」


 イタズラな笑みを残し、そのままサニはタラップを渡っていく。


 静観していたティムは、不意にサニと目が合う。彼女の笑みはすっかり消え、何やら苦々しい表情を浮かべている。


「な、何よ!邪魔!」「あ、ああ……」


 そのままティムの横をすり抜けると、サニは乗船ハッチへと駆け足で向かい、船内に姿を消した。


 ティムは、再び直人に視線を戻す。顔面蒼白で硬直したまま、一人取り残されている。


「やれやれ……」


 ティムは、タラップを戻ると、硬くなった直人の腕をとり、ゆっくりとタラップへ導いた。

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