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鳴動 5

「では、<アマテラス>は飛ばせるのですね?」


「ああ。飛ばすだけならな」


 東とアルベルトのやり取りする声が、インナーノーツを休憩ブースから誘い出す。


 集合から一時間余り。ようやく出動の目処が立ったようだ。


「だがな、いつも通りとはいかんぞ」アルベルトは、少々苛立ちを見せながら説明する。


『飛ばせる』という意味は、船体強度の回復と、航行システムの復旧は概ね完了したという事だった。


 だが、装備系は、殆ど手付かずの状態だ。


 破損したPSIブラスターの交換パーツ製造に少なくとも四日。PSI波動砲は、エネルギーコンデンサーに過負荷がかかったようで、現状での発射は、最悪、暴発を招きかねない為、使用不可。PSI バリア誘導コイルも交換が必要だが、こちらもパーツ製造に数日かかる。PSI バリアの耐久から、活動時間が二時間を超えた場合、帰還は保証できないという。(パーツの在庫は、ある程度準備しているが、『オモトワ』ミッション後、損耗の大きいパーツから取り変えたばかりで、在庫が不足していた)


「要するに、身を守る術が、大幅に機能ダウンしてるって事だ。いいか、昨晩のような、大立ち回りは当面禁止だからな!」捲し立てるアルベルトに、カミラは肩をすくめる。


「だいたい、お前たちは、船への愛情ってもんはないのか、えぇ!?よくも、ワシの可愛い"あーちゃん”をここまで!」「あ……あーちゃん……?」通信を共有するIMC、<イワクラ>の空気が凍り付き、『ドン引き』という名の神が降臨する。


 ティムの脳裏に、いつだったか、アルベルトがコソッと、それでいて自慢げに見せてきた<アマテラス>の擬人女性化フィギュアが浮かんできた。これも150年余り昔の日本古典アートの再現だそうだ。


 アルベルトのインナースペースでは、パーツ化された<アマテラス>を鎧のように身に纏う美少女戦士が、儚く可憐に舞っているのだろう。


「ったく!こっちは遊びでやってんじゃねぇんだぜ、おやっさん!で、これから出るミッションは、大丈夫なのか、そうでないのか?オレたちはそこを聞きたいんだ!」頭が痛くなってくるティムは、イライラ混じりにぶつける。


「黙れこわっぱぁあ!!」


 アルベルトは、カッと両目を見開いて、一喝した。


「当然、大丈夫に決まっとろうが!!もう一度言うが、昨日のような無茶をしなきゃ……だがな!」


「つまり……私たち次第って事……?」カミラの返しに、アルベルトは大きく頷き、鼻を鳴らす。


「ふぅむ……アイリーン、どうだ?まとまっているか?」藤川は、やれやれといった面持ちのまま、アイリーンに準備させていたものを確認する。


「はい、スクリーン、共有します」


 通信共有する各所のモニターに、日本列島中部一帯の地図が表示される。各地で観測された震度の赤系統のドットと共に、PSI現象化観測率が広範囲に青系統のドットでプロットされている。


「地上からの観測データをもとに、PSI現象化反応をプロットしてもらった。やはり20年前と同じように糸魚川ー静岡構造線に沿って、反応が強く現れている」


「20年前……」東は顔を顰める。


「うむ……このラインは、古来から龍脈と呼ばれるものの一つ。PSIの観測が可能になってから、龍脈というのは、PSI現象化反応が観測されやすい場所であり、そのピークとなる場所は、パワースポットと認識されている場合が多い事が判明した。いわば、この現象界と、インナースペースの現象境界がもっとも接近した、次元同士の接点のような場所だ」


 青いプロット線は、糸魚川近郊、水織川市へと伸びていることに、モニターに向かう皆が気づいていた。


「だからこそ、水織研もこの地に建設されたわけだが……」


「この地震と、昨日のあのミッションは関連していると?」カミラは直感のまま問う。


「うむ……アイリーン」「はい」


 アイリーンが、インナースペースから得た時間系データをマップに展開すると、青いプロット点が、美織川研究所跡地付近から糸魚川ー静岡構造線へと向かい、諏訪盆地の方へと何かが移動しているような軌跡を描く。同じように中央構造線に沿ったラインや、その他、幾筋かの神経のような細いラインも諏訪盆地周辺の方へと向かって同じような動きを見せていた。


「動いている?」「そうだ。現象界の時間軸に変換すると、おおよそ昨晩九時から十二時あたりが、収束率のピーク。時空間ギャップのため、三時間から六時間遅れで、龍脈に伝播したエネルギーが一部現象化、活断層を刺激して地震となって現れたとみられる」


「九時から十二時……おっと、ドンピシャだな」ティムは、身を乗り出してモニターに喰い入る。


「ミッション終了直後……あの『レギオン』が、まだ……?」「そんな!?」訝しむアランに、サニは反論めいた声をあげ、直人を見やる。


「いや……あの人は……ナギワ姫は、確かに逝った……沢山の魂と共に……」直人は、確信していた。これは、あの『ナギワ姫』ではない。


 ……逃げ……なら……ぬ…………逃が……さん……逃げ……たい……逃げ……る……な……


「アイツだ……」モニターを睨め付けた直人の脳裏に、あの呪いの言葉が甦る。


 インナーノーツも直人のイメージを共有していた。


「私もそう考えている。ナギワ姫の魂に食らいついて『レギオン』を構成していた、『蛇神』」


 スクリーンに『レギオン』の分析図を表示しながら、藤川は続ける。


「もっとも『蛇神』は、人類の祖が、森で生活していた時代に芽生えた”蛇”への畏怖が、潜在的なベースとなり、やがて文化、文明の発達と共に世界的に神格化、集合無意識の一つのアーキタイプとなっていったものと考えられている。それだけなら、インナースペースに刻まれた一つの概念に過ぎない」


「ええ……ですが、あの時聞こえた声は……」


「やけに『人間』臭かった」ティムはすかさず、カミラの言わんとした事を口にする。


 インナーノーツ一同は、皆、頷いて同意した。


「『蛇神』の"かたち"をして、"神"になっているヤツがいる」


『レギオン』の模式図を睨め付けながら、直人は呟く。直人の洞察に、一同は目を見張る。


「うむ……その可能性は高い。が、今はそれを明かすためにも、現状把握が先決だ」


 藤川は、<アマテラス>の復旧状況を勘案しながら、この一時間ばかりの間に東と打ち合わせていたミッションプランの説明に入る。

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