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目覚めし者 2

 ……うして? ……てないで……

 

 ……だ……

 

 ……ぬのは……やだ……

 

 

 急に胸のうちから湧き上がる炎のような気配とともに、直人の心の中で、何者かの声が響いていた。

 

 ハッとなり、正面のモニターを見据える直人。暗闇が広がっている。その奥から、あの感覚が、自分を見つ目返してくる。

 

 

「周辺時空間危険率十二パーセント、波動収束フィールド再設定開始!」

 

 サニが波動収束フィールドを現宙域に合わせ込んだ瞬間。

 

「⁉︎」

 

 ……何か来る! ……とっさに直人は、ティムの握る舵を横から奪うと、めいっぱい取舵へ切った。「な……何すんだ⁉︎」直人の行動に憤りティムが叫んだその刹那、右舷側に、激しい閃光と熱の塊が過ぎ去っていった。

 

「ぅわ! やっべぇ……」

 

 直人がとっさの行動をとらなかったら、直撃を免れなかったと悟ると、ティムは背筋がこわばるのを感じた。

 

「ティム! そのまま回避行動! 最大船速!」カミラは即座に指示する。

 

「了解! ナオ、任せろ!」直人から舵を取り戻すと、ティムは流れた船体の勢いそのままに態勢を整え、ドリフトさながらに、横に滑らせながら船を走らせる。

 

 次から次へと熱線が<アマテラス>を狙って襲いくる。螺旋を描くように身をよじらせながら、ギリギリで熱線を回避する。

 

「サニ! 前方指向性スキャン! 熱線の発現ポイントを特定して!」「はい!」

 

 波動収束フィールドが安定してくると、<アマテラス>の周辺は、地底にひろがる溶岩洞窟のような様相を見せ始めた。

 

 その深い闇奥から、地下水脈のように流れ出る溶岩流。一方で、その洞窟の表面には、溶岩流の流れをせき止めるかのように大量の水が溢れ出しているが、溶岩流はその水をことごとく焼き尽くしていく。否、湧き上がるマグマは、水を油の如く糧として一層燃え上がっていた。

 

「発現ポイント特定しました! 現在収束率で座標1-11-0.9! この洞窟の最奥部です!」

 

 サニから報告があがる。

 

「サニ、熱線の射線データをリンクして、回避アルゴリズムへセット」「了解!」

 

「ティム! 回避アルゴリズムに沿いながら、目標座標に接近。当たらないでよ!」

 

 <アマテラス>は溶岩流からプロミネンスのように立ちあがる火柱と、執拗に追いかけてくる熱線をかいくぐり、洞窟の最奥部、この灼熱の世界の主を目指す。

 

「アラン、特定座標の解析は?」

 

「有効範囲外だ……もう少し近づけるか?」「やってやるさ!」

 

 洞窟状の回廊を奥へ奥へとひた走る<アマテラス>。波動収束フィールドで構築できる時空間情報もオーバーフローしかけ、所々で闇に帰す。それと入れ替わるように「ズゥン、ズゥン」と地鳴りのような振動が<アマテラス>に襲い来る。

 

「今度はなんだ⁉︎」熱線をかわすのに躍起になっていたティムは操縦桿から伝わる振動にいち早く気付き、声を上げた。

 

「空間衝撃波? 総員、第一警戒態勢!」

 

 空間衝撃波が次第に強まっていく。<アマテラス>の侵入を拒むかのように……

 

 

「おばあちゃん……どう……なってるの……?」真世は恐る恐る訊ねた。

 

 亜夢は先ほどの発作が収束すると、今度は屍のようになって、身動き一つせず水槽の中を漂っていた。呼吸器から時折、泡が溢れ出る様子だけが、かろうじて一命を取り留めていることを窺わせる。

 

「……わからない……でも、まだ……」

 

 開かれたままの回線から、IMCのやりとりが聞こえてくる。

 

「……深層無意識LV3に<アマテラス>の反応確認! 目標PSIパルス発生エリアへ接近中!」

 

「通信は? 回復したか?」「それが……未確認の次元衝撃波で安定しません!」

 

「構わん、繋いでくれ」

 

『ザザ……ザ……ら……ンナ…………ーツ……ザザ』

 

 途切れ途切れのカミラの声。モニターに映るブリッジの映像もその度に乱れる。

 

「インナーノーツ! こちらIMC。聴こえるか⁉︎」

 

『……ザザ……そう……ルス…………き……ちゅ……ザザ』

 

『……そらく……ザザ……く……い……かく……ザザザザ!!』

 

「インナーノーツ! どうした! インナーノーツ!」

 

 東の必死の呼び掛けもとうとう届かなくなる。

 

「ダメです! これ以上、通信を維持できません!」

 

「くっ!」苦虫を噛み潰したように顔をしかめ、途切れた通信モニターから目を離さない東。

 

 その肩にそっと手を添える藤川所長。

 

「大丈夫だ……彼らならやれる」「はい……」

 

 

 脈打つ衝撃波に<アマテラス>は煽られ、一進一退を強いられていた。

 

「IMC! 聴こえますか? 応答願います!」

 

「カミラ! ダメだ! あの衝撃波でとても通信できない」

 

 これ以上の通信は困難であると悟りながらも、<アマテラス>の方でも何度か通信の回復を試みていた。

 

「くっ……なんだよ! これ!」衝撃波の合間に放たれる熱線を回避しながらティムは苛立つ。

 

 サニの監視するレーダーに反応が現れる。「波動収束フィールド、目標座標に収束反応!」

 

 彼らの目の前で、朧げに巨大な溶鉱炉のようなエネルギースポットが渦巻いている。その中央にそそり立つ影が、次第に実体を現し始めた。

 

 生気を失った亜夢が漂う水槽にも異変が生じていた。亜夢の発作が止まっている合間に、IMSの如月と齋藤は、亀裂の入った水槽に凝固補修剤を塗布し、応急処置にあたっている。しかし、先程から水槽全体に、亜夢から発せられる何らかの波動が周期的に伝播し、亀裂をさらに深めていた。

 

「何とかしてくれ! これじゃ補修が間に合わねぇ!」如月は声を荒げて、解析にあたっていた医師を見遣る。「どうなの? 何かわかる?」貴美子も追従して問う。

 

「……解析データ、出ました! ……こ……これは?」

 

 身体モニターの次元解析データにPSIパルスの感知強度がサーモグラフのように重なって表示される。

 

 モニターを見つめる貴美子と真世。ある一点に集中して強い反応がある。貴美子と真世はその部位の反応の意味を即座に理解した。

 

「まさか……」「こんなことって……」


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