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継承 4

<アマテラス>の船首共振フィールドに蓄えられた、鮮やかな青緑色の発光を伴う光球を、蓄積されたエネルギーが一気に押し出す。


 光球は、清らかな翡翠の青緑色の煌めきを時空間一体に放出しながら、もはや暗黒の塊と化していた『レギオン』の求心部、翡翠巨岩を一瞬のうちに撃ち抜く。


 巨岩は中央から、<アマテラス>が放った光とそっくりな青緑色の眩い閃光を内側から放ち、光は特異点とそれが作り出す、時空間歪曲場を次々とその光の内に飲み込む。同時に<アマテラス>を縛り付けていたもの全てが、光と化して消滅していく。


 ……ああ……あああああああああ!!!!……


「ナギワ姫!!」光に包まれていくナギワ。この状況では、直人にもなす術はない。


「特異点崩壊していきます!!引力源消失!」


「全航行能力回復!!」ティムの席の計器類が、次々と回復している。


「抜錨、反転全速!時空間崩落に巻き込まれる!急げ!!」「コースターン!!」


 特異点が崩壊したことで、<アマテラス>は、帰還誘導ビーコンの信号をキャッチしていた。


 時空間崩落の中、時空間転移の計測をしている余裕はない。ひたすらビーコンの信号座標へと船を進める。だが、空間を包んでいく光は、たちどころに<アマテラス>をも包み込む。


 眩い光がブリッジのモニターに差し込んだ。


 いよいよダメかと、諦めがブリッジを支配しそうになったのも束の間、光は赤々と燃え上がる炎へと姿を変える。


 直人は直感的にそこが、ナギワ姫、終焉の地である事がわかった。


<アマテラス>のブリッジに、次第に何者かの声が音声変換されて入り込む。


『……ナギワ……ナギワよ……』


『…………母上(かか)様…………』


『よぉくお聞き』


『この青き珠はのう……人の想いを、たんと集める石……』


『……想いを集める?……』


『……そうじゃ……良きも、悪しきも、清きも、穢れも……』


『故にクニの礎ともなるが……その強き想いは…………同じように魔をも強める……』


『……!!……』


『……ナギワよ……其方に珠を継ぐ()らが役目を伝えよう……』


『……大切な役目じゃ……』


 茅原を焼く炎が、一層煌めく。不思議と呼応するかのように<アマテラス>のブリッジが仄かに熱を帯びていた。


『…………役目………』


『…………この定めは……大珠様のお導きであったか……』


『…………そう……我らは……この青き珠を守り…………育み…………』


 頭上から炎に照らされ、きらり、きらりと反射する光が溢れてくる。


『……魔に穢れしときは……その穢れを祓い……』


『……また次へと継なぐ……』



『それが()らの役目……()の成しえたかったこと…………御神火(オオンカムヒ)様!?……嗚呼!!』


 燃え盛っていた炎は、その先端から眩いばかりの光の玉を中空へと一つ、また一つと解き放つ。


『……そ……其方達………母上(かか)様……


 ……そこに、そこに居られたのか…………』


 モニターに映し出される夜空は、一斉に舞い上がる無数の玉に覆い尽くされていく。


『……()は……正しう生きられたか……』


『……もう良いのか…………皆、共に参ってくれるか……なれば……』


 幾つもの魂の記憶が、モニターに入り乱れ、映像となって映り込む。


 奮戦虚しく戦いに敗れ、蹂躙される故郷……


 真正面から襲いくる水の暴力。身は固く縛り付けられ、恐怖と絶望……最期の瞬間、浮かぶ家族の笑顔……


 濁流に飲まれ、流されゆくその視線の先に、泣きじゃくる縁者であろう人影……


 ……大地が割れ、河川は荒れ狂う……家を、親しき者を失い、ただ逃げ惑う……世界各地を襲ったあの大震災……


 時間と空間を超えた幾多の彷徨える記憶の一切が、白色の光に包まれていった。


 その光は、まるで母親の腕の中に抱かれているかの様な温かみで、インナーノーツらを、彼らを見守る皆を包み込んでいた。


「……ナギワ姫……これが……貴女の本当の願い……」



 水織川市を見渡す、高台にある大震災慰霊祭園。この慰霊祭メイン会場も、スカイランタン火災からの避難場所として提供されていた。


 この場に誘導されてきた人々も、ようやく移動の騒ぎから落ち着きを取り戻しつつある。


「……あっ!ねぇ……あれ!!」「なぁに?……あっ!!」


「なんだ!?」「すごい……」


「綺麗……」


 避難に疲れた沈黙が、俄に驚きと喜びに変わり、展望台に次々と人だかりが出来ていく。


 天蓋結界の下で蠢いていた鉛色の霧が晴れていくと、青緑の若草のような紋を浮かび上がらせた眩い白色の光が、結界を彩り始めた。


「この石みたい」と子供が、ちょうどその日買ってもらったお土産であろう、ネックレスの先についた小さな青緑色の玉をかざして、並び見ている。


「……翡翠!?……ほんと……そっくりね」


 夜闇に浮かび上がった、まさに"翡翠の大珠"が、虚空を照している。その輝きを見つめる人々の胸に去来するは、故人への哀愁か、子供達の未来なのか……


 天蓋結界が放つ清輝が、子供のかざした翡翠の小さな玉を優しく包み込むように照らしていた。


<アマテラス>ブリッジのモニターは、次第に光を失い、水織川研究所の荒れ果てた空間絵図が戻ってくる。


 直人は、薄れゆく光の中、ナギワ姫の安らかな微笑みを見たような気がした。


「……ありがとう……ナギワ姫……」


 そう言葉が溢れる直人の表情は、穏やかさを取り戻していた。


 インナーノーツは、光が消えゆく最後まで、見送り続ける。



 ………願いは……繋がり……………


 ……死は……新たな生を紡ぐ……


 …………死ぬために……生まれてくる命など無いと……貴方は教えてくれた……


 ……これが……人が……命が生きるということ…………か……


 ……なおと……



 ふと胸の裡に消え入るような声に、振り返る直人。


 ブリッジ中央のホログラム映像が消え去っていた事には、直人の他、誰一人として気づいていなかった。


「……アムネリア……」


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