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目覚めし者 1

「波動収束フィールド、時空間振動探知! 反応群数二! また"アイツら"です!」

 

 レーダー手、サニの報告を待つまでもなく、メインモニターに拡大された探知画面に、無数の点が急速にプロットされていく。それらは再び二本の腕状の形態をとり始めた。

 

「同調率五十四! 時空間転移完了まであと四〇秒!」

 

「腕状収束体、急速接近! 前方、後方より挟まれます!」

 

「ナオ! シールドを維持して! 総員、衝撃に備え!」「シールド、出力全開!」

 

 直人がシールド出力を上げた瞬間、前方より<アマテラス>船体を突き抜ける衝撃が走る。その衝撃に耐える間も無く、後方からも衝撃の波が押し返してくる。シートにしがみつき必至に耐えるインナーノーツ。

 

 そのままその『両手』は、<アマテラス>を握り潰すかのように圧力を加え続ける。

 

 その圧力は『腕』に閉じ込められた熱を解放すると炎の柱と化し、そのエネルギーは『腕』を支える海底に激震をもたらした。蠢く海底はひび割れ、その瓦解した表面のいたるところから流血の如くマグマが流れ出す。

 

 

 けたたましいアラームが室内に鳴り響く。亜夢の保護区画、中央の巨大水槽の亀裂は、急激に成長する蔦のようにその球体を包み込んでいく。

 

 もがき苦しむ亜夢の両腕は、再び炎の影をまといながら、何かに抗うように自らの喉元へ向けられる。その両の手の細指は、彼女の意思とは無関係にその細い首へと食い込んでいった。

 

「やめて! 亜夢ちゃん! そんなことしたら……」真世は亜夢に届くはずもない声を上げずには居られない。

 

 亜夢の指は何かに阻まれたかのように、ギリギリで止まっている。

 

 水槽の亀裂から結界水が溢れ出してくる。

 

「ダミートランサー! もう持ちません!」

 

 インナースペースから現象化するエネルギーを誘導、熱や光の物理エネルギーに転換、拡散させるダミートランサー。備え付けの六機とも全てオーバーヒートを起こし始め、悲鳴と煙を上げ始めている。

 

「冷却水の開放弁を全開にするんだよ!」

 

「やっ……やってますって!」

 

「そうじゃない! 手で開けるんだ! 来い!」

 

 コントロールパネルに向かって戸惑っている医師らを叱咤し、医師らを引き連れて、如月は保護区画の配水調整室へ向かう。

 

「まだなの、インナーノーツ……」

 

 貴美子の顔に焦りがみえる。もうこれ以上は持ち堪えられないのだと、真世は悟った。

 

 ……お願い、皆んな! ……

 

 もがき苦しむ亜夢を目の前に、真世は祈るしかない。

 

「<アマテラス>、時空間転移完了まであと二〇秒! シールド損耗率五十パーセントを切りました!」

 

 状況を報告するアイリーンの声にも緊張がみなぎる。

 

 IMCのスタッフ、モニターで状況を伺うアルベルトと彼の部下達……皆、事の成り行きを固唾を呑んで見守っている。

 

 

「同調率六十五パーセント! 転移完了まであと一〇秒!」

 

「うぅぅ!」シールド出力をコントロールしている直人のPsi Linkインターフェースモジュールから、シールドに伝わる熱が逆流してくる。物理的な熱は然程ではない……精神を焼く炎である。

 

「ナオ! もう少しよ! 持ち堪えて!」

 

 シールドが押し破られ始め、『手』の指先がジリジリと<アマテラス>船体の表層に迫る。

 

「時空間位相反転! 転移開始!」アランが叫ぶと同時に、ブリッジのモニターに映る光景が歪み始める。

 

 その『手』の中で眩い光を放ちながら、<アマテラス>は時空間の歪曲の中へその船体をねじ込ませていった。

 

『手』とシールドのせめぎ合いで生まれたエネルギーのボルテックスが、それを支えていた中心を失い、『手』の内側で大きく弾ける。

 

「手」は火球を散らしながら仰け反り、空間の闇へと吸い込まれていった。

 

 ほぼ同時に、亜夢の肉体も魂が抜け落ちたかのように弛緩すると、先ほどまで首を締め付けていた両腕を開け広げる。

 

 亜夢を見守る真世、如月らは発作の中断に一息つく。

 

 だが、貴美子の顔に安堵の笑みが戻ることはない。ここからが正念場なのだ……

 

 炎と水が混じり合うかのような空間変異場を進む<アマテラス>。

 

「転移明けまで、あと二〇秒!」

 

「転移明けの意識混濁に警戒! 各自、Psi-Linkハーモナイズ感度監視!」有人起動試験の際、クルー達に軽い意識混濁が発生した深層無意識域への突入である。カミラは同じ轍を踏まないよう警戒を促した。

 

「う〜……酔ってきたぁ……」「サニ! しっかりして!」案の定、試験の時と同じく、サニが早くも影響を受け始める。サニは何とか意識を保ち、渋々ハーモナイズの調整を始めた。

 

「出るぞ!」アランの声に呼応するかのように、空間が開けていく。

 

 次元間で時空間転移した為、次元ギャップにより波動収束フィールドによる時空間構築が追いつかない。モニターはモヤのような闇を映すばかりだ。

 

「あれ? 何ともねぇな……慣れた?」

 

 あの不快感が襲ってくるのを待ち構えていたティムは、不思議そうな顔で隣の直人を見つめる。直人も、平気だと言わんばかりのキョトンとした顔をしている。

 

「昨日ほど意識混濁は感じないわね。調整したのかしら?」

 

 カミラも、奇妙がる面持ちでアランに答えを求めた。

 

「ああ。やっつけだがな」

 

 アランは説明する。自動ハーモナイズ機能の再調整は昨晩からの復旧作業では対応できなかった為、ハーモナイズパラメーターに、クルーらのPSIパルスパーソナルデータをダイレクト入力で応急的に対処した。そのデータは、昨日の起動試験直後の検査で採取したデータということだが……

 

「ちょっと、それいい加減なんじゃない? なんでアタシばっか……」

 

 何とかハーモナイズ調整を行い、持ち直したサニが息巻く。

 

「すまん、お前のデータだけとれなかった……」「はぁ⁉︎」

 

 再検査になった直人とサニは、最初の検査のデータは異常値が含まれていて使えず、再検査でデータを採取したのだが、サニの検査前に呼び出しが入って再検査を中止したため、データ採りができなかったらしい。

 

「セ、ン、パ、イ」

 

 直人が検査で眠りこけてたせいだ! そう言わんばかりの、サニのジトッとした視線が背中に突き刺さるのを、直人は感じた。振り向いたらダメだと自分に言い聞かせ、直人は知らん顔を決め込んだ。

 

「もういいでしょ、サニ。それより時空間探知次第、波動収束フィールド再設定!」

 

「りょーかい」ぶすっとしながらも、サニはカミラの指示を遂行する。

 

 サニが作業を開始したその時。


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