煉獄 2
……熱い!!……
……手を出すでない!……日の巫女様より分霊賜った御神火様ぞ……
……御神火様?……
……そうじゃ……古の時代、我ら人の元へと降られた火の神様は、暗闇を灯し、我らに智恵と恵と安住の場をもたらした……
……火の神様……
……そうじゃ……なれど、火の神様は気まぐれ、一度お怒りになれば……全てを焼き払う……
……ええ??……
……ははは、そう恐れずとも良い……ナギ……
……母上様?……
……敬い、正しき者には、優しき神様じゃ……だが……邪念を持つ者は、その悪しき心根が消え去るまで焼き尽くされるであろう……
……其方にこれを授けよう……
……えっ?これは?……
……我が玉造のムラ。その長たる者が受け継ぐ"青き大珠"ぞ……儂はそう長くはない……これからは、其方がムラを守ってゆくのだ……
……そんな!?……
……その青き石はの……古の祖先らが海を渡る守りとしてきたもの……海の青、そして帰るべき故郷の青草……その証よ……
……この大珠が其方を導く……
……正しくあれ、ナギワよ……
茅原を焼き迫る炎は勢いを増し、あたりは煙に覆われていた。更に茅原の奥へジリジリと逃れながら、大珠を握りしめ、ひたすらにその清き声に耳を傾ける。
……ああ、私の行いは悪しきことであったか?……
……ヤチホコは私と、我が民を愚弄したのだ……我らが古き血を……大珠を汚し、値打ちを奪い……約条を反故にした上、兵を寄こした……
……民の為とはいえ……もとよりこの契りは……青き玉がもたらす益を、あの者らが我がものとせんが為の謀……私はただの人質……
……故に私は逃れたのだ!……民は私を匿い、よう戦こうてくれた……義は我が方にあったはず!!……
……なのに……
……なのに!!……
……ムラは荒らされた……皆、死んでしもうた…………母上様……ナギは……ナギは……!!……
……私が……皆を!!……皆を殺してしもうた!!……
炎は三方から押し迫り、一つとなると、目の前で火柱の如く燃え上がった。
……ああ、御神火様!!……
燃え盛る灯台と化した大樹の幹より、太い枝を這って焔が迫り来る。
……やば!!……センパイ!!……早く目を覚まして!!……起きてよ!!……
……もぉお!!アタシまで、巻き添えにする気ぃ!!?……
サニが意識体の手を直人の眠る大珠の実に叩きつけたその時、直人の閉じた瞼が微かに振るえていた。
光の玉と化した神子の魂は、直人の居所を探るかのようにあたりを照らし出している。その光に炙られ、林武衆の亡霊らは、苦悶にその霊体を捩らせ、無軌道に宙を舞う。
……ぬぅう……
………がああ!!…………
自らの存在を消されてなるものかとばかりに、光から逃れた場で何とか霊体を復元すると、神子と神取へと襲いくる。
……往生際の悪い……破!!……
神取の作り出した破邪の結界は、難なく力衰えた林武衆の攻撃を受け流す。もはや術を封じられた彼らは、結界に弾かれようとも、神取目掛けて滅茶苦茶に殴りかかってくる。
……な……お……と……
時折、神子の方へも立ち向かう亡霊の攻撃を退けながら、神取は神子の呟きを聞きとっていた。
神子の放つ光が、一条の光芒となって眼下に浮かび上がる、炎に包まれた巨木へと向かっている。
……お行きなさい!この場は私が!……
………………
神子の姿形は光の玉なれど、その"視線"は神取へと向けられているようだ。神取は無言で頷いてみせる。
すると、この場へ来た時と同様に、神子の光の玉は次元の狭間へと消えていった。
神取は神子を無言のまま見送る。
……ふっ……"ありがとう"とは……殊勝な……
神子がこの場から去った事で、亡霊らの攻撃の対象は、神取に集中する。
……さぁ、其方らの相手……存分にいたそうか!……
……御神火様……ああ、私は過ちを……
……なれば、この身、この命……焼き尽くしたまえ……
……私を赦し給え!!……
……私は……あ、は…………
……オレは…………オレも…………
……なぜ?……
…………!?…………
…………なぜ、死ぬの?…………
……沢山……死なせてしまった…………オレが……
……だから……
……死んだら……赦されるの……
……そ……それは…………けど……オレは……
……償わなければ……
……いや、死ぬのはいや……
……亜夢!?……
…………一緒に生きるって……約束……違うの?……
……そ……それは…………
……行こうよ……"なおと"はまだ死んじゃだめ……
……えっ……
……だって亜夢、まだ、"なおと"と一緒に遊んでないもん!!……だから……だから死んじゃダメ!!……
……!?……
……遊ぼう……一緒に!……
ついに巨木の枝が、その芯から炎を噴き始めた。果実の如く枝に実る大珠は、まるで重力があるかのように下方へと沈み込む。
……だ……ダメダメダメ!!……センパイ!!……
サニは意識体を大珠の下に潜り込ませ、何とか直人を閉じ込めた宝珠を押し上げ、持ち堪えていたが、もうメンタルの維持は限界だ。
……へへっ……センパイと心中なんて……シャレにならないんだか……ら……
音もなく枝が大珠の実もろとも崩れ落ち、大珠諸共、サニの意識体は焔に包まれる。
……その刹那、サニは自分の意識体を強く抱きかかえる何かを感じた。
……サニ!!……
…………遅いよ……センパイ……
……ごめん……
……これで"2度目"だね……ありがとう……サニ……
……バカ……貸し……なんだから……
サニの意識体は、空間に溶け込まんばかりだ。
……サニ!?……
直人が上向くと、間近に<アマテラス>が、サニの反応を追って迫っていた。
目を見開くと、そこは見慣れた機器とモニターが彩る無機質な人工空間が広がる。
気怠い身体をゆっくりと持ち上げる。
「な……ナオ!!」「戻ったの!?」
「ティム……隊長……」半身を起こした直人は、カミラの声がする方に顔を向けた。
「サニ!!」サニは、カミラに支えられ、グッタリとシートへもれかかったままだった。
直人はシートから飛び降りると、サニの元へと駆け付ける。
「やっとシステムとのリンクが切れたけど……まだ意識が」傍のカミラが、サニのバイタルモニターを確認しながら告げる。
「サニ!しっかりして!……オレの……オレのせいで……こんな……」
直人はサニの肩を揺すり、強引に目覚めを促す。
「サニ!!戻って、サニ!!」
ホームページを更新しています!
https://innernauts.com/
キャラクター、及びメカニック設定を追加したので、ご覧ください!




