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汝等ここに入るもの、一切の望みを捨てよ 5

 ……お待ちなさい!神子よ、無闇に進んでは!……!?……


 神取が伝心で言葉をかけるや否や、神子はその場に立ち止まる。


 ……おや?……少しは聞き訳ができるように?……


 言いかけて、神取は神子が立ち止まった訳をすぐに把握した。


 念体にまとわりつく霊気が、見えないベールとなって彼らの侵入を拒む。


 神子の視線の先で<アマテラス>の船尾が、その中央の変異場へとのめり込んでいく。


 ……なおと……あぁ……


 引き止めようというのか、神子は<アマテラス>へと手を伸ばすが、変異場へと呑み込まれた"かの船"は、その場からすっかりと姿を消してしまった。


 神子は直人の元へ向かわんと、時空の狭間へ姿を消しかける。


 ……またか!……


 咄嗟に神子の手を再び取ろうと、神取が手を伸ばした瞬間、何かに弾き返されたかのように、消えかかった神子の姿が戻る。


 何度か試みるも、結果は同じだった。


 ……神子の能力を受け付けない?……なんだ、この場は?……


 意を決して神子は、ドアの中央の変異場へとその霊体を踊り込ませる。


 ……神子!!……


 すると、変異場は突然波打ち始め、波が励起した場は、小さな蛇のように蠢くものへと姿を変え、神子の霊体を絡みとる。


 突然のことに対処に窮する神子。神取は神子が必死に抗い、伸ばした腕をかろうじて捉える。


 ……だから言わんこっちゃない!……神子っ!……うわっっ!!……


 神子の腕に絡み付いた"蛇"の群れは、そのまま神取の念体の腕にも絡み付いていく。咄嗟に破邪の印を切るべく振りかざしたもう一方の腕も絡め取られてしまった。


 ……南無三!!……


 神子と神取の念体は、扉の中央の混沌の中に身動きを封じられたまま飲み込まれていった。



 ……なおと……なおとぉ!!……


 どこからともなく、自分を呼ぶ声に、直人は顔を上げる。


 ……アムネリア!?……


 不意の声に顔をあげる。案の定、仲間たちには聞こえていない様子だ。


「サニ、周辺状況は?」「現在、次元深度LV3……えっ……なに……これは」「なんなの?」カミラの問いに答える変わりに、サニは音声出力ボリュームをあげる。低く唸るような声が<アマテラス>ブリッジを満たしていく。


「たぶん……この間の、あの気持ち悪い声……」


 インナーノーツは揃って顔を顰めた。


「前のミッションの……あのまじないか!?」ティムの耳にも、その声音が、前回のミッションの最終局面で顕れた、『あの声』と同種のものである事は理解できた。


「アラン、音紋解析!」「ああ、今やってる」


 ノイズ除去を重ねながら、前回のミッションで得た音声波形と比較していく。それに合わせて、ブリッジに拡散される音声も次第に明瞭となっていく。


 ……よ……い……む……………


 ……ふるべ……ゆら………とぉ……



「言語解析……日本語……おそらく上代日本語……文脈、単語パターン……一致……90%……だが発音、イントネーションは不一致」「つまり?」


「この声音の内容はほぼ同じ。だが、発している音源は異なる……同じ文言のようだが、口にしている者が違うのだろう……」


 解析装置を操作しながらアランは答える。


 その間、直人は闇の底へと導かれるような声音に、不気味さと心地良さをないまぜにされながら、引き寄せられる感覚を覚え始めていた。意識して気持ちを立て直す。


「同じ呪い言葉……それじゃあ、ここに入ったっつう侵入者と、オモトワ事件は何か関係が!?」


「そこまでは断定できないが……おそらくは……」アランの言葉を遮るようにサニのレーダー監視盤が何かを探知した警告音を発生させる。


「<アマテラス>全周に強力な収束反応!?」


 レーダー盤に覆い被さるようにして、サニはその反応の特定を急ぐ。


「"さっきの"やつか!?」「い、いえ!このエリア全周に結界のような…………いえ、これは!?波動収束フィールド!?」


「何!?」


「波動収束フィールド似た、収束力場です!フィールド縁辺で、力場の衝突が!」


 圧縮された空気の刃のような衝撃波が<アマテラス>を打ち付ける。攪拌されるブリッジの振動をインナーノーツは何とか耐え凌ぐ。


「第二PSIバリア出力最大!シールド展開、急いで!」


 バリアとシールドの併用で次々と襲いくる衝撃波は緩和されていく。


「被害は?」「上部甲板外殻、スタビライザーに損傷、航行には支障なし」アランは務めて冷静に答える。「そう……でも、この状況は良いとは言えなそうね」「ああ」


「おい、見ろ!」モニターを監視していたティムが指さしながら声を張り上げた。


 朧げな発光と共に無数の何かが浮かび上がり、<アマテラス>を取り囲んでいく。同期する様にあの「まじない」の言葉が、生気を取り戻した肉声のように、より明瞭な言霊となってインナーノーツを襲う。


「サニ!あの発光体をビジュアル解析!拡大して!」「はい!」


 間もなくモニターに、発光体の解析画像が表示された。


「これは!?」<イワクラ>で見守る如月が声を上げる。彼だけではない。<イワクラ>のオペレーションブリッジに詰めた全員が息を呑む。


 発光の中に浮かび上がる、奇妙な図案と文字の組み合わせ……


「あの護符か!?」藤川は目を見開いた。




 ……よもや、生者がこの黄泉へと足を踏み入れてくるとはのう……


 …………神域を穢す、不届き者……


 ……良いではないか……格好の贄ぞ……


 ………………たしかに……忌々しき天孫の女狐を騙る船か……お誂え向きよのう……


 …………くくくっ………さあ、いでよ、我らが神よ……生者の肉を喰らい……現世うつしよを我が物とするのだ!………


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