選抜
オルセア大陸のシーバ村はシェミー曰く、これまで魔王の軍勢と戦い、世界に平和をもたらした勇者達を排出しているかなり有名な村らしい。そんな村に俺達二人は新たな勇者を探しにはるばるやって来たのだった。時刻はすっかり夜になり、村の中は静まり返っていた。なんとか宿屋を見つけて、勇者探しは明日から本格的に始めることにしよう。ちなみに、宿代は道中のスライムやゴブリンから手に入れたものだ。
「はぁー、疲れた...」
この世界に来てやっとベッドに横たわれたので、疲れとストレスが一気に吹っ飛ぶ。ふと仰向けになって天井を見つめながら、窓際の妖精にある質問をぶつけた。
「そういや魔王ってついこの前に討伐されたんだろ?でも、討伐したのって普通に考えたら勇者が倒したんだよな?」
よくよく考えてみたら妙な話ではある。魔王を倒したのが勇者と考えるなら、その魔王を倒した勇者は今どうしているのだろうか?今頃、英雄として讃えられているのだろうか?
だが、思ってたこととは違う答えが彼女から述べられる。それは想定外の答えだった。
「魔王を討伐した=勇者が倒したは成立しないわ。ぶっちゃけ、魔王なんて勇者じゃなくても倒すことは出来るし。」
そうなの?俺の中では勇者が剣を振りかざして、魔王にとどめを指すのが理想の展開なんだけども...
「確かに勇者という存在がもっとも魔王にとっての驚異ではあるし、魔王を倒す可能性が高いのは勇者で間違いないけどね。」
「可能性ね。つまり今回のケースの場合は、勇者ではなく別の誰かが魔王を倒したという可能性の方が高かったわけだ。じゃあその魔王を倒した誰かって誰だか知ってたりするのか?」
「知らないわ。魔王が倒されたのも仲間から聞いただけだし。」
あっ、やっぱりね。まあ、おそらく知らないだろうとは思っていたから、特に今の回答にショックはない。むしろますますその正体不明の魔王殺しに対して興味が出てきた。ていうか仲間とかいたのかよ、こいつ...
と、話していると何かが聞こえてくる。
「ん?」
耳を凝らすとそれが人の声であるのが微かに分かる。そして窓際にいたシェミーも同じタイミングて窓からあることに気づいた。
「外の方から何か聞こえるわね。というよりも村の人が外に集まってるみたいだけれど。」
その言葉に反応して俺も窓から外の様子を伺うと、確かに外の方でうじゃうじゃと無数の人が集まっていた。
「行くぞ!もしかしたら昨日みたいにモンスターの襲撃があったのかもしれない。」
慌てて、俺達二人は部屋を出て宿を後にする。ところが外に出てみると、モンスターの気配はほとんどなく、逆に結構な人数の村人が村の中心部へと向かっていた。
「なんだこりゃ?この感じだとモンスターが表れたわけじゃなさそうだな。」
その異様な村の光景を眺めていると、不意に後ろから声をかけられる。
「おや、君見ない顔だけど、もしかして君も選抜に参加するのかい?」
と、見知らぬ青年が笑顔でこちらに話しかける。
「選抜?」
選抜って、選ぶって意味の選抜だよな?一体何を選抜するんだろうか?
「何って、決まってるだろう?この村に代々伝わる新たなる勇者を決める勇者選抜だよ。」
「ゆ、勇者選抜?」
なんと夜中に始まった町全体の騒ぎは、選ばれし勇者を決めるための儀式であった。