俺の名前は...
日が沈み辺りは静寂な空気に包まれる。シェミ-の魔法で仮の姿ではあるが、人間の姿に戻れはしたもののどうやら俺は布の服の因果から逃れられぬ運命のようだ。
「へっ、よく見たら俺の着てる服が布製じゃねーか。まあ、構いやしねーさ。」
ゴブリンもこちらに気づいて警戒している様子だ。
まずは目の前のゴブリンをなんとかしなければ...だが、当然ながら俺もシェミ-も戦うための武器を一切持っていなかった。
さすがにここを離れて武器の調達に専念するわけにもいかない。だが.急がなければ犠牲者が出てしまう...!
「ちょっと、あたしが動けるようにしてあげたんだから何とかしなさいよ!」
言われなくてもだ。しかし武器を手にしたゴブリンを相手に勝つのは流石に厳しくも思う。
「ん?あれ?」
ふと右腕に違和感があり気になって確認すると、腕の部分から紐のようなものが生えていた。
「これって布か?布が紐みたいになって、俺の腕から垂れ下がってんのか?」
「...完全には人間の形には変えられないわ。それに私の体はもう...」
「え?何か言ったか?」
「いえ、何も...」
何故かシェミ-はその言葉を発して黙りこんでしまう。どうしたのだろうか?だが、気にしている場合ではない。
ん、でもこの紐の部分も要は俺の身体の一部なんだよな?
「いや、待て。これは...使えるかもしれん。」
「そんなんでどうするのよ...」
シェミーが暗さの残った声で反応する。
「いや、俺はこれでもゲーマーだからな。必殺技を思い付くのは得意なんだよ。」
「必殺技?」
「なんだかんだ転生したら勇者はおろか人ですらなかったし、何か自分がかっこ悪くてさ...」
「けどよ、今やっとわかったよ。俺がこの世界に来た理由。」
「かっこいいとか、かっこわるいとかどうでもいいってこともよ。」
俺はただの布の服なんだからよ...だからさ...
「格好つけりゃそれで良いってことさ!」
俺はそのまま右腕を前にかざす。思った通りだ。腕の紐が蛇の如く蛇行を描きながら伸びていく。
「中々便利な使い方だろ?」
いつの間にか俺への警戒からか、全ゴブリンが集まって囲まれていたが問題はない。
「全員取っ捕まえてやるよ!!」
右腕だけでなく、今度は左腕も目の前にかざし、両腕から布の触手が無数に沸き立つ。
あえて名付けるならばこうだ。
必殺!! '大蛇の衣'(サーペント・クロス)
「ギィッ!」
布の触手が触れると同時に対象に巻き付いて束縛する。そして全30匹のゴブリンを、触手をリモートコントロールしながら残さず捕獲する。
「...ん、こんな感じかな?」
必殺技発動からわずか二分程で、魔物の群れを完璧に駆除する。
「...あんた、変なところで才能あるわね...」
「そいつはどうもありがとう、誉め言葉として受け取るぜ。あ、でも一つだけ聞かせろよ。」
「何?」
「なんで最初から変身魔法使わねーんだよ?」
「......」
「いや、答えろよ!?ひょっとして嫌がらせか?俺への当て付けなのか!?」
「そうね、忘れてたわ、ごめんなさい。」
その表情から、彼女が何かを隠しているのはわかったが、これ以上は追及しないことにした。へとへとだし。
「あの...」
「ん?」
振り返ると目の前に少女が近づいてきていた。さっき襲われていた少女のようだ。
「あの...助けてくれてありがとう。えっと、名前...」
「名前?」
そういえばこちらに来てから、名前のことなど一切忘れていた。
「名前かー、名前は...」
そういえばどこかで前にこんな言葉を聞いたことがある。
名は体を表す、と。
「そうだな、じゃあ...」
俺は清々しい気持ちで初心に帰る気持ちで、自分にこんな名前を付けてみる。
「俺の名前は...ヌノーって名前だ。」
そしてこの時、俺達はまだ知らない。
この名前がそう遠くない未来で、伝説となることを...