襲撃
アルセア大陸の東にローナの町は、冒険者達の憩いの場であると同時に、冒険を始めようと世界中から多くの人達が集う場所であるらしく、人の数が見ただけでかなりいることがわかった。
しかし、そんな町で俺は紆余曲折を経て、半額の5ゴールドよりも安い3ゴールドで売られてしまっていた。
そして特に話が進展する訳もなく......、防具屋に売られて1日が経過してしまった。当然服の状態では何もすることが出来ないので、売られるその時までの間、ただただ暇な時間を過ごしていた。
「別に売られるかどうかも怪しいと思うけどね?私だったら3ゴールドの布の服なんて買わないけどね」
「言ってろ。そもそも俺の知識が正しけりゃ、売買の時に汚れとか状態で値下げなんて聞いたことねえよ」
「あんたの知ってるゲームの知識と一緒にしないでよ。世の中そんな甘くないっての。渡る世間はどこの世界も鬼ばかりよ」
マジかよ。こっちの世界も昼ドラのような波乱万丈な人生を送っている人が多いのだろうか?ひょっとしたら知らないだけで消費税とかも導入されてたりするのかな?そしたら税込みで俺の値段が少し上がったりしないだろうか?
「消費税なんてないわよ。あんたそんなに自分の値段に固執してるけど、大した値段でもないじゃないの......」
「ぐっ、勝手に人の心を読むなよ。むなしくなるわ!」
しかしシェミ-の言う通りではある。変なプライドが邪魔をして、自分が3ゴールドであることにどうも納得がいかないのだ。まあ、元値がたったの10ゴールドだし、どのみち価値なんてほとんどないけども......
だが、ここで思わぬ事態が起こる。
「すいません、布の服はありますか?」
なんと中年の男が防具屋の店主に話しかけてきた。
捨てる神あれば、拾う神ありだ。どうやら俺は天には見放されてはないようだ。ラッキー!
「ちょうど一枚あるよ。んー、けどこの汚さだとちょっと商品としては難しいかねー。ところどころ破けてるし」
「ええ、そうなんですか?」
水を差すように余計なことを店主が話し、男性は困惑してしまう。
「おいっ、ふざけんな店主!そんなこと気にしないで売っちまえよ!モブキャラが変なとこででしゃばるな!」
「必死ね、あんた......」
それでも、俺の気持ちが通じたのか、男性はとある提案を店主にする。
「だったら、それ無料でくれませんかね?売り物にならないなら貰ってしまっても構いませんよね?」
「うーん、確かにこんなの売れるわけないしな。わかった。持っていくといいよ。」
えっ、嘘だろ?売買は成立しなかったけど、取引のほうは成立してしまった。いや、嬉しいよ?嬉しいんだけど?
......無料ってことは俺0ゴールドじゃね?
「あら良かったじゃない。無価値にはなったけれども、引き取ってもらえて。ふふっ」
なんだが妖精が必死に笑いを堪えていて、腹が立つが致し方あるまい。価値はなくなったが、勝ち組にはなれたのだから。
だが、そう簡単に上手くいかないのが人生である。いや俺の場合は服生かな?
「た、大変だぁーー!!」
突然の大声に俺達は声の方向を振り向く。
「魔物だー!!魔物が襲撃してきたぞ!!みんな、早く逃げろ!!早く!!」
村の若者の声が町全体に響き渡る。
渡る世間は鬼ばかり。いや、この世界では'渡る世間は魔物ばかり'とでも言うべきだろうか?
いよいよ魔物との戦いの時が迫っていた。