服と妖精と冒険者
不幸中の幸いというやつだ。あのまま森の中で何も出来ずにいたのなら、俺は考えるのをやめていただろう。これからのことも、これまでのことも。
どうやら俺を拾ってくれた若き冒険者は、ひのきのぼうを装備していたことから冒険初心者のようだった。
「とはいえ、現状彼だけが頼みの綱だ。ひとまずは森を抜け出して町にでも行ってくれればいいんだが......」
「それはそうだけどそんな簡単にいくかしらね?案外森のほうが安全かもよ?」
そんな感じでシェミ-と会話を続けていたら、いつの間にか草原に出ていた。久々の太陽の光に、思わず涙が出そうになる。流せないけども。
ちなみに俺達の会話は、当然人間には一切聞こえることはない。まさか初心者君も、身近で服と妖精の会話が起きているとは思うまい。
「ふー、やっと森を抜けたか。ここまでくれはローナの町ももう少しだな。」
初心者君のそんな何気ない独り言を、俺は見逃さなかった。
「ローナの町だと?近くに町があるのか?」
「そういえばあったわね。多くの冒険者が集う場所で旅を初めるのにうってつけの場所ね。」
「なるほど。それなら新しい発見があるかもしれないな。現状、初心者君を移動手段として行動するのが一番だが、あわよくば勇者に会えるかもしれんな。」
「勇者ですって?あんたまさか勇者に乗り換えるつもりなの?」
「そのまさかに決まってるだろう。エコノミークラスよりもビジネスクラスに乗って贅沢したいと思わないのかよ?」
「あんたの前いた世界の乗り物に例えないでよ。わかりづらいわ」
「とにかくだ。初心者君には悪いが俺にもプライドってものがあるんだよ。大体このまま移動するだけの人生ですら俺が許せないわ。」
「布の服でしょ、あんたは......、その見た目で人生なんて語らないでよ......ん?あれは?」
などと話していたら、初心者君の動きが止まっていることに気づく。モンスターでも現れたのかと思ったが、そうではなくなんと宝箱が彼の目の前にあることがわかった。
「宝箱か...冒険者たるもの宝を前にして見逃すことなんて出来ないだろうな。アイテム回収は冒険の基本だからな。」
と話したら、その言葉にシェミ-が反応する。
「ねぇ、さっきからあんた彼に対して随分と上から目線な気がするんだけど?初心者君扱いだし。何様のつもりかしら?偉そうにしてたらバチが当たるかもね。」
そら、一応キャリアは俺のほうが上だからな。ゲームのキャリアだけども。RPGは全般得意だからつい上から目線になる。だが、シェミ-の言った通りどうやら調子に乗りすぎたようだ。
「お、これは!」
初心者君が宝箱を開けると、その中に入っていたのはなんと旅人の服だった。
「え?」
うっかり忘れていた。いや、ホントは自分が布の服であることを現実逃避していたのだ。だからこそ、まさか宝箱から自身の上位互換ともいえる防具が出てくるとは、考えもしなかった。
「ば、馬鹿な!なぜよりにもよって旅人の服が......!?」
時すでに遅し。近くで、妖精の笑い声が聞こえたような気がするけど、ショックのあまりに反応出来ない。
「旅人の服かー。じゃあもうこのボロい服はいらないな。後で防具屋にでも売るか」
初心者君の喜ぶ顔に思わず殺意に近い感情が沸き上がる。それにしてもこんなあっさりとフラグ回収してしまうとは...
それから一時間ほど経ち、俺達はローナの町に到着した。
即行で売られた。町についていきなり。躊躇なく。
「うわー、かなり汚れてるよ、これ。悪いけどこれじゃ半額では売れないな。3ゴールドならいいけどどうする?」
「え、そうなの?まあ、どうせいらないし3ゴールドでもいっか。」
さらに天罰が下る。
そこは半額じゃないのか!?5ゴールドじゃないのかよ!?さらに価値が下がってるじゃねーか!!
防具屋と初心者君のそんな会話に、さらにショックを受けながら俺達三人の冒険はあっさりと幕を降ろしたのだった。