救世主到来
薄暗い森の中で刻々と時間だけが過ぎていき、さすがに我慢の限界も近づいてくる。
「くそっ、このままじゃどうしようもねー!どっかの誰かが拾ってくれれば移動だけは出来るってのに...」
「イライラしてたら駄目よ。ストレスは身体に悪影響を与えるだけよ。落ち着いたら?防御力最下位さん」
露骨に煽ってくる妖精に今にも鉄拳制裁を加えたいところだが、布の服に出来ることは何もない。この状態では手足を動かすこともろくすっぽ満足にやれないのだから。
「ん?でもしゃべることは出来るんだよな?こうしてお前と会話が成立してるってことは、話すことは可能ってことだろ?」
そうだ、まだ希望を捨ててはならない。辛うじてコミュニケーションが取れるならどっかの誰かに怖がられるのを覚悟で接触をするのも一つの手だ。
「多分無理じゃない?恐らくだけど周りにたくさんいるモンスターも私達の会話に気づいてないみたいだし」
あっさり否定される。期待して損したよ、くそ...
「えっ、じゃあどうしてお前は俺と話せるの?」
「妖精は生命の力を感じ取れるのよ。たまたま散歩してて布の服に意思が宿ってるのを感じたから、近づいてみたら布の服になったあんたを見つけたのよ。多分会話出来るのも妖精の力のおかげね」
そういうことか。そう考えると魔法が使えたり、俺みたいなしゃべる服と会話が可能だったりと、妖精の万能ぶりに思わず感心させられる。性格は最悪だけど。
「て、おいおい。そういえば何かさらっと言ってたけどこの辺モンスターがいんの?」
「当たり前じゃない。森の中なんてモンスター達のシェアハウスみたいなもんでしょ?」
いや、知らねーよ。なんでここでいきなり現実世界の例えで表現すんだよ。わかりやすいけども。
「でも安心して。モンスターは基本人間しか襲わないから。だからあたしとあんたは相手にすらされないわ」
そうは言うけども、モンスターですら相手にされないってのもそれはそれで辛いんだけども。なんだろう、普通に泣きたい。
「まあそういう理由もあって、この森は基本的に人間の立ち入りは禁止されてるはずだから。人が来るなんて可能性はほとんどないんじゃない?」
最悪なパターンだ......,それなら望みはほとんどないじゃないか。やはりエピローグはここで迎える以外ないということなのだろうか?
「でもさ、そもそもあんたみたいな布の服が見付けられたところで、拾ってくれるような物好きなんていないと思うけど?」
「うるせー!そんなのやってみなきゃわかんねーだろーが!」
「一体何をやるのよ......その状態で」
その時だった。
ザッ ザッ ザッ
(おい、聞こえたか?今の?何か来てるぞ?)
ひょっとしたら、魔物に気づかれたのかもしれない。緊張が走る。
(シッ!静かに。)
必死になって息を殺す。だが、それは杞憂だったようだ。ここで天は俺に味方してくれたようだ。
「ん?なんだこりゃ?布の服が落ちとるぞ?」
それは魔物ではなく、剣を携えた若い冒険者だった。
『チャンス到来!!』