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布の服は世界を救えますか?  作者: 天月光
その者、布製の英雄なり
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異世界降臨、そして伝説に??

 もし異世界に転生したら、自分は人間にも動物にも怪物にもなれないと思って、もしかしたらそこら辺で売ってるような防具でも充分あり得ると思ったので、そんな心境で書いてみました。

 暇潰しにご覧くだされば幸いです。

 呉服屋の息子である僕の取り柄と言えば、得意のRPGゲームで無双をすることだろう。


 何せ巷では、俺をRPGの神様と呼ぶやつもいるとかいないとか。まあだからそれがなんだという話ではあるのだが、少なくとも空想の世界で多くの魔物の命をこの手に掛けているので、俺の存在は一部のネット界隈では結構な話題になっていたりする。破壊の王とか、デストロイヤーとか言われている。


 もちろんこの日も深夜遅くまで、オンラインゲームの高難易度ミッションに勤しんでいた。しかし俺は、クリアの満足感に浸ることなく朝になると眠気と共に家を後にする。


 高校生という立場上義務教育を受けることは、武器屋でひのきのぼうを買うのと同じくらい当たり前のことなので、登校は仕方のないことではあるがそれでも現実世界の平凡な空気にはどことなく嫌気がさしてしまう。


「はぁー、かったりーな、学校。」


 そりゃ独り言も呟きたくなるものだ。謂わば現実逃避である。仮に俺が現実世界から異世界へと行き渡ったらどうなるのか、ときどき考えたりもするけどさすがに設定に無理がありすぎるだろう。


「なんかおもしれーことでも起きないもんかねー。」


 そしてその一言がきっかけになってしまったのだろうか。この時から、知らないうちに悪い予感がする。


 いつもの登校ルートを歩いていると、何か騒動が起こったのか駅前のほうが随分と騒がしい。と、タクシー乗り場の方で男性が騒いでいる。


「近づくんじゃねー!!殺されたくなけりゃ俺に誰も近寄るなぁー!!」


 なるほど、所謂狂人というやつである。ご丁寧に出刃包丁なんて携えて、辺り一帯を睨み付けている。


 とはいえ、俺の神聖な登校時間を邪魔されるのは癪に障るので、仕方なく遠回りを決行する必要があるようだ。


「やれやれ、人生回り道が大事だってあの男もわからないもんなのかね。」


 などと、つぶやいていたら件の狂人の様子がおかしい。


「くそ、なんでどいつもこいつも俺を馬鹿にしやがるんだ!ええーい、こうなったらままよ。まずはアイツからだぁぁぁ!!!」


 ん?


 ドスッ ブシュッ

 

 え、おい嘘だろ?


 慌てて刺された胸に手を当てるとさっきの出刃包丁が、心臓を突き破るかのように食い込んでいた。と、同時に頭がボーッとし始めその場で倒れてしまう。


「ああ、なるほど...これがそうか。」


痛みと共に視界がどんどん狭まっていく。


これがつまり「死」というやつか...


「まさかこんな早死にするとは思っていなかった...」


 遺言なんて考えたことすらないのに...


「にしてもあっさりとあっけなく終わってしまったなぁ、俺の人生。」


 本当にあっけなくて、泣けてくる。


「これが...俺の定められた運命なのか...」


 運命...だが俺は最後の気力を振り絞り、心のなかで願う。


「せめて...せめて...もう一度生まれ変わるなら...俺は...」


 心の中で、俺は願い事を言う。


 (勇者に... 勇者になって世界を救いたいと...)


 そして、俺の意識はそこで消滅した。





 川のせせらぎが聞こえてきて、思わずハッとする。


「気付いたようね?」


 ここは...? いや、まさか...?


「そう、そのまさかよ。」


 心優しい声が響き、俺はゆっくりと首を動かそうとする。


 だが不思議なことに俺の体は、まるで金縛りにでも掛かっているかのように、身動きひとつ出来ない。


「動こうとしても無駄よ。だってあんたそんな身体で動けるわけないじゃない?」


 声と同時に俺の前で強い光が起こる。


 それは瞬く間に鏡のようになって、俺の眼前に自分の姿を写した。



「は???」



 目の前に写っていたのは、ボロボロになって今にも雑巾にされそうな布の服だった。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁー!?」


「ようこそ異世界へ。布の服さん。」


 クスクスと聞こえる笑い声と共に、かくして俺の冒険は幕を開けた。


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