第壱ノ罪
どーも、瑛祐です。
第壱ノ罪、完結です。
本編を楽しんできてください
-前回のあらすじ-
舞が紅葉山で自殺を図った。そのすんでのところで桜が駆けつけてなんとか救出できた。舞の考え方は直すことができた。あとは、精神の闇の元凶を討ち払うのみ。
-罪斬り-
桜達が神田家に確認したすぐ後のこと、珍しく早々に帰宅できた神田母が帰ってきた。
「ただいまー」
返事はない。というより人の気配すらない。
「ん?なんでこんな所に家の鍵が?」
玄関に落ちていた舞が持っているはずの家の鍵を拾い上げる。
「舞ー、いないのー?」
二階の部屋には誰もいない代わりに一枚の置き手紙が机の上にあった。
『今までありがとう 舞』
これを見つけ、さらに携帯と財布が同じ机にあったのを見た母親を襲ったのは大きな焦燥感と後悔と罪悪感だ。
「舞・・・まい!どこ行ったのっ!?」
そう叫び部屋を出るが何処へ行ったか検討もつかない。
「慌ててる場合じゃない。まずはあの人に電話しなきゃ」
神田法律事務所、神田氏のオフィスにて資料を纏めるため机に向かっていた神田父に1本の電話がかかる。珍しくプライベートで使う携帯で相手は妻だった。
「もしもし、どうした?」
「あなた、舞が家出した」
「なんだって?」
一瞬理解が及ばなかったが、妻の声の調子から本当の事だろう。もちろん、心当たりがない訳ではない。
「あと、置き手紙があるの。『今までありがとう 舞』だって。財布も携帯も置いてる。どうしましょう」
妻淡々とした口調は焦りと泣きそうなのを隠しているからだろう。すぐに感じ取れた。
「わかった。今すぐ帰る。お前は心当たりのある所へ電話しろ」
「警察はどうしましょう?」
「あまり大事にしたくないが、舞の命が最優先だ。他に電話を掛け、それでも駄目そうなら警察に通報しよう」
「わかりました」
電話を切った時、丁度秘書の安西が部屋に入ってきた。
「安西君、すまない。すぐに家に帰らなければならなくなった。あとは任せていいか?」
「え・・・はっ、もちろんでございます!」
「助かる」
良い秘書を持って良かったと心から思った。
「おい、どうだった?」
車を飛ばし、凄い勢いで帰ってきた神田父。
「警察に・・・連絡しました」
玄関の前で泣きそうになりながら項垂れる神田母。
「取り敢えずリビングに行こう」
妻を連れてリビングに移動し、取り敢えず座る。
「もうすぐ警察の人が来ます。捜索もして頂いています」
「そうか・・・ありがとう・・・」
「やっぱり、私達は舞に厳しくしすぎたのでしょうか?私達のせいで舞は自殺を・・・」
「待て。警察を信じるしかない。」
リビングには重く、暗い空気が流れた。
(私が間違っていたのか?あの時心に決めた事が舞を苦しめていたのか?)
10数年前、この両親が変わる少し前の日。順調に功績を収めた神田父、事務所内で大きな案件が依頼され担当は彼がするのだろうと所内で噂された。勿論彼もやる気満々だった。
だが、現実はそう上手くはいかない。選ばれたのは同期、日本トップ大学を卒業し、司法試験にもトントン拍子で合格した自分よりも若手だ。この結果に不満を持っている所内の人達も多くいた。だが彼は
「今回は機会に恵まれなかっただけだ。大丈夫」
そうは言っても内心は勿論違う。家へ帰り、舞を寝かせた妻にその日の事を話す。
「それは・・・残念でしたね・・・」
そう俯く妻の姿を見て
「舞にこんな思いはさせられない・・・」
この時どれだけ自分の未熟さを呪い、同期のあいつを妬み、勉強してこなかった事を後悔したことか。そして、手帳を取り出す。
「決して舞にこの屈辱と後悔をさせてはならない」
窓の方向から若い男の声が聞こえた。
「っ!?誰だっ!?」
そこには二人の女の子を抱えた桜色の髪に青い着物の人が家の中で立っていた。
「なぜ中に・・・舞っ!?舞を」
「落ち着けぇって。彼女は生きてるし傷一つ付いてない。泣き疲れて二人とも眠ってるだけだ」
そう言ってソファーに二人を寝かせた。
「この家に確認した時窓の鍵開けといて正解だった」
「さて、神田先生。分かっているかと思いますが貴方の娘さん、舞ちゃんは自殺しようとしてました」
目の前の者とは別の声がした。脳内で。
「あー、名乗り忘れてた。俺は桜、今脳内で声がしたのはこの刀の小雪だ。どーせ忘れることだ。あまり気にするな」
「話を戻して、今回の件に関してこれから貴方はどうしますか?」
「私は・・・私は・・・」
妻の方を見てもずっと突っ伏したままだ。
「私は間違ってない。今度は自殺させない様に更に監禁を・・・」
「おい、あまりノセられるなよ」
この一言で我に帰る。何故あんな事を口走ったのだろうか。
「桜。まずはあっちを片付けよう」
「了解。雪」
そう言って桜と名乗った者は刀を抜く。
「邪魔させない!」
妻の声がして振り返ったが、長年連れ添った神田には分かる。そこにいるのは妻の姿をした別の何か。
「あれは、お前が写真にあの言葉を書いた日、お前の呪い、妬み、後悔、あとそこにいる妻の負の感情が生み出した悪霊だ。最初は小さな悪霊だったがこの家から生み出される負の感情で成長したんだ。ほとんど舞ちゃんのものだろうがな」
「妻を、傷つけないでくれ」
この懇願に桜は刀を輝かせ
「そんなヘマはしないし取り憑いてくれた方が楽だ」
次の瞬間桜の刀が妻の心臓を貫く。
「おい、お前っっ」
「安心してくれ。貴方の妻に傷つけていない。勿論衣服にも」
「浄化、完了」
刀を抜き、鞘に収めた。
そして、部屋の空気が一気に晴れる。
「もっかい聞くで、これからどーするん?」
桜の問いに一呼吸入れる。
「私は、間違った事をしてきたつもりはないしあの時の感情を舞に経験させたくない気持ちに変わりはない。舞を助けてくださった事には感謝しますが大幅に教育方針を変えるつもりはありませんし、貴方にとやかく言われる筋合いもないと思いますが」
この返答に桜はため息を吐く。
「悪いがその教育方針が原因で舞は自殺しようとした。仕事なんで口は挟ませてもらう。いいか?彼女はお前の分身じゃないし、お前の操り人形でもない。彼女が弁護士になりたいとか言ってたか?彼女の将来を決めるのはお前じゃない。彼女自身だ。同じ過ちを繰り返すのは見過ごせん」
「じゃあ・・・私はどうすれば!」
愕然と床に手をつく父親に桜は言葉をかける。
「仕事休んでしっかり舞ちゃんと話すこった。お前、面と向かって舞ちゃんと話した事あるか?そこからでないと何も始まらん」
「・・・分かりました。そうしましょう」
そう言って顔を上げた神田父だが目の前には誰も居なかった。
志保を家に帰し、その日夜遅くまで神田一家はよく話し合った。今まで閉ざされた想いを打ち開けた舞の言葉を両親はしっかり耳を傾けた。
警察はというと桜が全てのこの件に関わった警官の『使命感』を斬り、事を終えた。彼らの記憶には家出少女は見つかっただの、都合の良い解釈を脳が勝手にしている事だろう。
そして次の日。
「先生、おはようございます。昨日は大丈夫でしたか?」
「あぁ、安西君。昨日は本当にありがとう。お陰で長年モヤモヤしてた物が晴れた気分だよ」
神田の晴れ晴れした表情を見て安西は
(良かった、家の事解決したんだ!ありがとう・・・えっと、誰だっけ?神様でいっか。ありがとう神様!)
◼︎◼︎◼︎
「おはよう、舞!」
「おはよう、志保。昨日はごめん。もうあんな事しないから」
「過ぎた事だしいいよ!それにあの時あの人がっ・・・えーっと、誰だっけ」
「志保もそうなの?私もお礼を言いたい人達がいるんだけど思い出せなくて」
二人は頭を抱えながら登校した。
それは下校中になっても同じだった。
「確か、何かの季節に由来した名前だったような」
「うーん・・・春?、、、桜・・・桜っ、桜だ!」
この時二人の頭に忘れていた記憶が蘇る。
「あと小雪って刀も!」
「そーだ!今からうちの部屋に行こ!二人を呼ぶの!」
「そんな事できるの?志保」
「任せて!」
志保は舞の手を引いて走り出した。
「志保の部屋に来るのは久し振りだわ」
「取り敢えず座って!」
二人とも地べたに座り、志保は心の中で強く念じた。
(((((さくらっっっ))))))
「何だ?まだ記憶があるのか?」
窓の外からひょっこり現れた桜色の青年。
「本当に、来た・・・」
「でしょ!」
唖然の舞と喜ぶ志保に
「なんか用か?無いなら帰るぞ」
冷たく遇らう桜。我に帰った舞は
「最後にお礼を言いたいです」
そう言って桜の方に体を向け正座して
「私を救って頂き、本当にありがとうございました」
深くお辞儀した。
「私からも、舞を助けてくれてありがとう!」
舞に倣ってお辞儀する志保。彼女達の姿を見て桜は、こほんと咳払いして
「これから辛い事もあるだろう。また、死にたくなったり死にそうになってる者を見つけたら心の中で俺の名前を叫ぶが良い。また助けてやるよ。君たち二人の人生に幸があることを祈る。それではさらばっ」
窓から落ちかと思えば跡形もなく消え、桜の花びらが二枚、机に落ちていた。
それから二人にはあの青年についての記憶はない。が、彼の言葉はずっと心に残っている。お揃いの桜の花びらを持ち、二人は今日も仲良く登校するのであった。
今回もお読みいただきありがとうございます!
第壱ノ罪完結いたしました!
どうでしたか?
これが僕の初作品です。
さぁ次回は新しい物語を…………と言いたいところですが………
日々が忙しいのでまだ第弐ノ罪が書き切れてないです。
申し訳ない。
次の更新は8月までにしたいと思っていますのでTwitterの方で報告するのでフォローして頂けると泣いて喜びます。
ID→@Eisuke_Rokujou
ではでは今回はこの辺りで、
皆さんの人生に幸あれ!