第壱ノ罪
今回は舞ちゃんの過去編です。
では、どーぞ!
-前回のあらすじ-
何度も落ちた司法試験に岩野、後の舞の母親と乗り越えた神田。二人は結婚し、舞を授かった。
-神田 舞-
紅葉市のとある一軒家。
優秀な業績を積み上げていっている弁護士と大手企業に勤めるOLに1人の赤子が産まれた。
彼女の名前は神田舞。
遺伝なのか何なのか、2歳にして話し始め、保育園の頃からすでに小学校の勉強をしてた。
勉強を教えていたのは母親。仕事と並行で娘の教育と家事をこなしていた。
父親も着々と仕事をこなし大きな案件も担当させてもらうくらい昇進してた。
舞にとって勉強は大変なものだが、父親が休みの時は旅行に行って羽を伸ばせたので特に苦痛に感じる事は無かった。
例え、保育園の子ども達の話についていけず、また周りの大人達が自分の事をどう思っているのか知っていたとしても。
だが、小学校に入る前、舞の両親は突然様子が変わった。
以前よりも勉強は厳しく、旅行にも行ってくれず、そして、彼らから笑顔が消えた。
舞にはその原因が分からないし聞くこともできない。そのまま小学生になった。
さぁ君たちは今小学校1年生としよう。同じクラスに小学3年生の勉強を休み時間に黙々としている子がいたらどう思う?真面目だなと思うだろうか?偉いと思うだろうか?残念ながら舞のクラスはそんな事思う人はいなかった。確かに舞が社交的では無い事も原因だが、クラスの子達は舞の事をキモいだの病気だの言って疎んだ。
この時舞は初めて生きるのが辛いと思った。
この窮地を救ったのは1年後、舞が2年生の時だ。
舞の家の近くで新しく家族が引っ越してきた。どうやら舞と同い年の子がいるらしい。
次の日、舞のクラスに転校生がきた。ショートヘアの女の子で自己紹介からその明るく元気な性格が滲み出ていた。彼女の名前は宮村志保。どうやら昨日引っ越してきた子みたいだ。
明るい性格に社交的、転校生という要素があるのだ。勿論クラスの人気者の道を駆け上がった。
舞にとってはそんな事どうでも良かった。自分には母親の出す宿題をこなすので手一杯なのだ。
だが、
「ねぇねぇあなた名前は何て言うの?」
「舞。神田舞」
「舞ちゃんかぁ〜。んん!?もしかして家近くじゃない?」
「たぶん・・・」
「じゃあ一緒に帰ろうよ!」
それから志保は舞によく絡みに行った。舞は最初は冷たく遇ったがだんだん受け入れる様になった。
が、周りがそれを良く思うかといえば勿論そうではない。
「何あいつ志保ちゃんといるからって調子乗ってんじゃない」
「あの勉強女どうする?」
こんな陰口を言われている事は舞も知っていた。もしかするともっと酷い悪巧みがあるかもしれない。舞だってこの先の展開くらい簡単に読めた。
「志保ちゃん、もう私と関わらないで」
「えっ・・・」
志保だって馬鹿じゃない。舞が何と言われてるか知っていたし、舞の覚悟した表情を見れば嫌とは言えない。
「・・・ならっ!」
志保はいくつか条件を出した。
1つ目は学校では関わらないが登下校は一緒にする事。
2つ目は話す機会が減るので交換日記をする事。
そして志保は陰口は難しいが舞に危害を加えられない様にすると約束した。
それから2年経ち彼女らは高学年になってきた。最初は1ページくらいで交わしていた交換日記も今は、志保は小学生とは思えないほどの文章力で好きなテレビ番組の要約を、舞は志保の文章のコメントとその日あった事など3,4ページにわたるほどのものとなっていた。
また彼女達の環境もだいぶ変わった。舞を悪く思っていた女子達も舞の事を気にしなくなっていった。恐らく志保が2年かけた功績だろう。
近所の中学に通うことになった2人。クラスは違えど2人の日々は変わらないはずだったが、1つ大きな変化があった。それは志保が陸上部に入部した事だ。朝練はなく登校は一緒にできたが放課後は練習があるので一緒に下校はできなかった。しかし、噂によると夏休み前のテスト終わりから朝練が始まるという。夏休みも練習になりそうでいよいよ会えなくなりそうだった。
「一緒に部活やろうよ!」
この志保の願いは舞のも同じだった。だが厳しい両親が承諾してくれるだろうか。そんな可能性は絶望的にないと言える。でも、
「わかった。親にお願いしてみる」
この日の夜に仕事から帰ってきた母に必死にお願いした。舞はこの時の記憶がもうない。それくらい必死だったのだろう。中学1年にして高校受験レベルだったのが良かったのか何とか陸上部入部の許可が下りた。
ここから舞の人生は色濃く変わった。
才能というものか、舞は初心者にして見る見る成長しその年の冬は志保と共に大きな大会に出場する程にもなった。
舞は見事に部活と勉強を両立させた。
部活の方は順調に成績を残し、引退試合では志保と2人で県大会を取った。
勉強の方は中学2年で既に高校1年の範囲の半分以上を勉強し、高校ならどこでも進学できるとまで言われていた。が、舞は家の近くの偏差値そこそこの高校志望した。その理由は勿論志保と一緒の高校に行けるからだ。そんな理由で両親が許してくれるかといえば、意外にすんなり了承した。彼ら曰く、
「どの高校へ行っても本人次第でいい大学に進学できる」
だそうだ。彼らは大学にこだわっているだけで高校は特に強制しなかった。
志保の場合その高校へ進学可能か否かの瀬戸際だったが舞の助けで進学できた。
高校へ進学しても2人の生活は変わらない・・・はずだったのだが、流石高校、入った陸上部の練習は県大会を取った2人でも中々堪えるものがあった。特に舞は勉強に身が入らなくなっていった。それでも高校1年で高校3年の勉強を始めていたが。いや、余裕があると気が緩んだ事がのちに響く事になる。
気づいた方もいるだろう。舞の予習スピードは少しずつだが落ちてきている。それは致し方のない事だ。内容も難しいものになるし、教科数も増えていく。今まで参考書を読み解き、分からない箇所は母親に聞いて理解するという勉強方をしてきた。それを完璧に教える母親は凄すぎるのだが・・・やはり遺伝というものか。
とにかく、舞は自学習と親の教育によって素晴らしい成績と学習習慣が身についていた。
だが、高校のハードな部活に加え、厳しい学習習慣は舞の身体を容赦なく責めた。それ故に高校生になってから家での勉強時間が日に日に減り、大会前になると勉強しない日というのもでてきた。
とはいえ高校1、2年の範囲は中学でマスター済みの舞だ。不動の学年トップを取り続けた。
だが、表面上はできていても舞の学習習慣が落ちている事は確かであり、両親の目にも見える事実だ。
そして舞にとって最悪の日が訪れる。
それは2年生の夏の大きな大会が終わった日の事である。
「ただいまー」
「おかえり、大会どうだったの?」
疲れた様子の娘を出迎える母親。
「志保と一緒にトップ取ったよ。今回は志保に負けたけど」
生き生きとした笑顔でそう答える舞。
「そう、それは残念だったね。・・・ちょっと大事な話があるの」
舞は荷物を部屋に置いてリビングに入った。
「話って何?」
「もう部活は辞めなさい」
真剣な面持ちで母はそう切り出した。
その言葉に舞は立ったまま硬直する。
「あなたの勉強時間が減っているのは目に見えてるのよ。あと半年で3年生よ。両立できないなら辞めなさい」
「い・・・・・・・」
『嫌!』と言いたいが言葉が詰まった。母は正論しか言ってない。反論の余地がなかった。涙を浮かべることしか出来なかった。
「どうせお疲れ様会でもするのでしょ。それを機に折り合いをつけなさい」
「・・・わかりましたお母さん」
「もしもしー、今日はおつかれー、どうしたの舞?」
「志保・・・私、、明日から部活に行けない」
風呂上がりに掛かってきた舞からの電話。志保は戸惑った。
「えっ、何で?何かあったの?」
「親に、勉強と両立できてないから、辞めなさいって」
いつもの舞の声だが少し詰まった言葉とほんの少し上ずった声でだいたいを察した。
「なら私も辞める!」
「ダメ、これは私の問題だし志保まで部活を辞める事はチームにとって大きな迷惑がかかる。また何か言われるかも知れないけどそんな事は慣れっこよ。そんなのは私だけでいいの」
「うっ・・・」
返す言葉が無かった。
「前にした交換日記も時間かかるし渡す時間も無さそうね」
舞は持っていた交換日記をパラパラと読みながら言った。交換日記は舞が部活を始めてから志保と話す時間が増えたので辞めることにしていたのだ。
「あっ!じゃあ電話しようよ!毎日この時間に!」
「それは嬉しいけどそれじゃ志保の負担が大きくない?部活もあるし・・・」
「大丈夫!むしろ舞と話した方が疲れが吹っ飛ぶよ!」
いつものお喋りをひとしきりして舞の心は軽くなった。
「流石にそろそろ寝ようか」
「あっ、もうこんな時間かぁ。じゃぁまた明日も学校で!」
「うん、おやすみなさい。それと、、ありがとね志保」
「いやいや〜じゃあね」
その日から寝る前の電話が日課となった。この日課がどれほど舞の心を支えたかは本人ですら分からないほど大きかった。
舞が部活を辞めて以降も部員の舞に対する態度は何も変わらなかった。と言うより、
「舞ちゃん、いつでも戻ってきていいからね!」
「舞先輩、また練習来てくださいね!」
とむしろ絡みが多くなった気もした。
舞はお疲れ様会に行かなかった事を少し後悔した。母親の言う通りちゃんと折り合いをつけるべきだった。何故なら舞は昔の舞に戻れなかったからだ。1度部活を経験し、勉強しない事を経験した舞は勉強に身が入らなかった。例え何時間机に向かおうと質が良くなければ意味がない。そんな調子で高校3年生初めての模試の日を迎えた。
模試の結果は散々だった。今までA判定だった大学もB判定に落ちた。親に見せるのが怖い。
「塾に行かされるくらいならいいんだけどなぁ」
舞は机に突っ伏した。
そして、また最悪の時が訪れる。
「次の模試の結果が返ってくるまで携帯没収ね」
模試を見た母親の言葉は舞の思考を掻き乱し、停止させた。舞はこの瞬間から食べ物の味が分からなくなった。
部屋に戻り、気分転換に本を読んでも没頭しても虚無感に襲われる。志保と電話もできない。
この日は早々に寝た。
翌朝、あんな事があったのに何故舞の心は軽かった。志保と一緒に登校できるからだろう。志保は1ヶ月程前のに陸上部を無事卒部し一緒に登下校できるようになっていたのだ。
「昨日は電話できなくてごめんね・・・その・・・携帯、親に取られちゃって」
「そっ、そうなんだ・・・携帯、取られちゃったのか・・・そーだ!交換日記しよーよ!小さい頃よくやってたやつ!」
やはり志保は優しい。その無邪気な笑顔に何度救われたことか。志保始まりで交換日記を再開する事になった。
その日の下校も舞は楽しかった。志保も楽しかったのだろう、上機嫌でノートを渡し帰っていった。
「ただいま」
誰もいない家に挨拶し、すぐに部屋へ向かう。
早速交換日記を開け、読み始めた。流石志保、今見てるドラマのあらすじを短くかつ詳しく書かれていた。文章力に磨きがかかっている。
「これを数学に活かせないかなぁ」
ふふっと舞の顔に笑みが溢れた。と、その時、
ガタッという物音に舞は咄嗟にノートを閉じ、体を前屈みにして物音の方へ顔を振り向かせた。そこには何も無かったが、
「このノートも取り上げられるのか」
舞は大きな決心をし、ノートを取り始めた。
次の日も志保は変わらず上機嫌だった。
「ノート書いてきた?」
「もちろんよ、でも渡すのは放課後。今渡したら授業ちゃんと受けないでしょ?」
「えーー」
「ところで、ドラマの内容なんだけど・・・」
やはり志保と話してる時が一番楽しい。だが、楽しい時間はあっという間に、なんて言葉通り舞はすぐに学校に着いたと感じた。寂しさを隠し席に着く。
5限目の数学の時間。志保が注意されていた。確かに体育の後だし、眠たくなるのは仕方ないが
「志保ったらまったく」
やれやれと舞は志保の方を見た。
その時・・・・・・
いつもは長く感じる学校も今日は早い。いつも通り楽しく話し、ノートを手渡し別れる。
そして、
「志保」
「何?」
「ありがとね。じゃあ」
「??、じゃあまた明日!」
この時志保はノートの事でお礼を言われたと思った。舞が家の方へ振り返って流した涙に気づいていれば、間違いに気づいただろうが。
家に着き、部屋に荷物を置き、置き手紙を残し、買って隠しておいたロープと小型ライトをビニール袋に入れ、それと家の鍵だけを手に家に出て鍵を閉め、その鍵をドアポストから中に入れた。そして、舞は歩き始めた。
『今までありがとう 舞』
今回もお読み頂きありがとうございます!
あと2週で壱ノ罪は終わりです!
弐ノ罪まだ書き終わってない……
あと3週間頑張りますね
皆さんは明日休みですかね
お疲れ様です!
では良い休日を!
皆さんの人生に幸あれ!