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神様、それはあんまりです

作者: 天花

 音一つもない、白い世界。

 清涼な空気が満たすだけの、ただただ、空虚で、張り詰めた何かで息苦しいだけの空間。

 そんな色彩がない世界で彼?は、お付きのお狐様二匹と、数えきれない年月を過していた。

 唯一の彼の楽しみであった地元のお祭りや、住人たちとの交流も、過疎化による人口減少で、お供え物だけではなく、笛や太鼓の音色といった神楽も奉納されなくなり。


 それがもし自分だったら?と想像してみたら。


 ──うん、なんというか耐えられない。絶対に耐えられない。音も時間間隔も季節感も判らなくなるなんて絶対無理。


 だからね、仕方ないと思うんだよね。

 結局神様も自分も、他の人達もきっと寂しいのは悲しくて辛くて、性格が歪んでしまうくらい苦しい。

 そうやって苦しんで忘れ去られ、朽ち果ててしまう前に誰かを神域に招いてしまうのは、最期の助けを求める声なき声のはずで。


 今回招かれたのが、偶然にも現世での生活に楽しみも生きてる希望もかなり希薄で、仕事帰りでくたくたな、成人して数年経った喪女な自分だったというだけ。


 ぼんやりと周りを見回していた私が、白いお着物を身に纏った狐耳を頭部に生やした、銀色の髪に蒼い瞳の(きっと神様)人へ視線を向ければ、彼は淡々と私に問うてきました。


「そこな娘、なにか供物はないか?現世うつしよに戻してやりたいが、神力がなくてな」


 何せ、十数年近く何も進物がなかったゆえ、と、いわれてしまって、さあ大変。


 通勤用に使っていた鞄をガサゴソ探ってみます。

 その間じっと、小さなお狐さまな神使がこちらを見ています。

 顔がそっくり瓜二つなのできっと双子なのでしょう。


 静かで、でも、何か一筋の雫的な望みというか希望に満ちた視線を向けられながらの鞄漁りは気が急いてしまうものなのですね。

 ですが、運命の女神様は私に味方してくださいました。


 すごいです!!

 快挙です!!

 帰宅前はクソくらえ会社のノルマ販売の押し売り!!、と憤りましたが、売ってくれた店員さん、ありがとうございます。


 鞄から取り出したるは、笹に包まれ菅の紐に両端を縛られた郷土食。

 笹は殺菌効果があり、笹に包まれた中身はよもぎをませ込み、小豆の餡を包んだ団子。


 その名も『笹団子』


 地域によってはヨモギ団子の中身はそれぞれ。

 入ってるモノもあれば入ってないのもあるそうです(ネット調べですよ)

 少し前までは、端午の節句の供物とされ、各家庭でも良く作られていたのだとか。


 今は核家族化していて、しかも共働きも多くなってきましたからね、各家庭で作る機会は著しく減少してしまったのでしょう。

 食べたければ、買うのが手っ取り早いですからね。


 私はそのまま手渡すものもなんだか違うなぁ、と思ったので、汗臭い作業着姿のままではありましたが、きちんと座り直し、少し離れたところで、いつの間にか出現していた岩のようなものに片膝を立て座っている神様に意識を向け、柏手を二回打ち、綺麗めな紙の上に乗せた団子を捧げました。


「神様、神様、お疲れさまです。今日の捧げものはお団子です。少しの間は日持ちします。涼しいところで保管して下さい。中身は小豆の餡子を包んだ団子です」


 本当は心の中で呟いたり、思うだけでも伝わるんでしょうが、私はこれでいいのです。自己満足が大事なのです。


 閉じていた目を開けば、閉じる前に膝元にあったはずのお団子は、神様の膝の上にあり、ちまちまとした双子のお狐神使がもふもふした尻尾を左右に振りながら、笹を剥き、神様に渡してから、何かに縋るような目つきで見守っています。


 そして一口。

 ハッとしたように、蒼い瞳を見開きまた一口。

 大きさ的には成人男性であれば二口くらいで終わると思うんですが...。


 足が痺れてきたのでこっそり足を崩して、摩りながら食べ終わるのを待っていると。


「お前たちも食すが良い。今はどうやら夏らしいぞ、現世は」


 先程までとは違う、感情が入り混じった声でした。内容は季節の事でしたが。


 そうですね、今年も暑いです。

 まだ梅雨入り前だと言うのに。

 着替えを持って行かないとお仕事になりませんからね、最近は。


「あるじさま、あるじさま、このおだんご、おいしいですね。それにひさしぶりのかんみ、うれしいです」


「.........おいしい、すごくおいしい」


 っっっっっ、すっごくかわいいです。

 

 思わず前屈みになってしまうくらい可愛いです。

 特にあまり表情の変わらない小さな神使さんの方が。


 許されるのなら、もっと可愛いところがみたい、愛でたい、モフモフしたい。


 ですが、ここは神域で、私は今日偶然奇跡的に招かれただけで。またここにこ訪れることができるなんて都合のいいお話は世の中転がってません。


 ですから、お別れはサッパリと綺麗に。


 もぐもぐと小さなお口を動かしていた小さなお狐な双子が、ゴクンと、最後の一口を飲み込んだところで、私は突然白い光に包まれ、意識を失う前に神様な彼にお礼を言われたような気がしました。


 ですが、ふと意識が浮上した時に私は既に仕事の作業着から着替え、お風呂も済ませていたようでした。


 実家暮らしな私は、母の食事の支度の手伝うようにとの呼び声で、ついさっきまでの不思議な体験を頭の隅に追いやり、いつもの日常へと戻ろうとしました。


 でもですね、神様はやはり神様ということでしょうか?


 寝る前に翌日の支度の為に鞄を整理していたら、ひらりと一枚の紙が空に浮かび、ポンッと言う音を立て私の手のひらに収まり、やがて流麗な文字が浮かび上がってきました。


 神様曰く


 ──今日は馳走になった。また呼ぶやもしれん。あれらも久しぶりに喜んでいた。次にあった時は礼として神楽舞を教えてやろう


 教えてやろう、とはつまり、その...えっと......


 考えたくないのでこのまま思考は放棄しますが、一言だけ言わせて下さい


 神様、それはあんまりです!!

 ご辞退申し上げます!!

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