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愛犬の想い出。

 愛犬は何度も脱走を繰り返す、やんちゃな犬だった。土地を借りて農作業の場を作っていたのだが。何度も、山が近いその場所で逃げて、一時間は探し回る羽目になった。

十年くらい前の事だろうか。愛犬は家を脱走して、何日か必死に探しても見つからず、ようやく見つかった場所は保健所の中だった。もう保健所に二回、お世話になっただろうか。

 

 複数の檻の中、愛犬は私の顔を見て、雑多な種類の犬に混ざって叫んでいた。もしかすると、一緒に入れられていた、犬達と会話して、今後の未来を恐れて必死で叫んでいたのかもしれない。


 その時に、私は保健所の職員さんに「此処に連れてこられる犬達で飼い主が迎えに来たり、里親が見つかる子は何匹くらいいますか?」と訊ねた。

 すると「十匹に一匹もいないかもしれない」みたいな事を言われた事を漠然と覚えている。

 当時、結構なショックを受けた記憶がある。


 若い時は、本当に迷惑をかける奴だった。


 腹が立って、殴ったり蹴り飛ばしたりした後に、親に「これ動物虐待かな?」って訊ねたら「こいつ、叩いても遊んで貰えていると思って、喜んでいるよ」と言われた。

 

 思いだした。

 家の垣根を何度も、ジャンプして簡単に乗り越えるわ。

 他の犬と喧嘩して、酷く噛まれてくるわ、手のかかる柴犬だった。

 散歩の際も、リードの力が強かったように思う。


 躾がなっていないと、両親は叱られたりもしたんじゃないかな?

 でも、そういう自分勝手な処が大好きだった。迷惑かけるから、みなから愛されていたようにも思う。手がかかるからこそ、愛着も湧いたし、みなを元気にしていたと思う。


 晩年になって、実家に帰る度に、次第に元気を失っていったのを見ていたように思う。

 若気の至りみたいなものは、おこさなくなっていた。


 私は死後の世界も、魂の存在も信じていない。

 でも、また再び、死後に元気だった頃の姿で出会えるような願いもあるのだ。



 この前、実家に少しだけ戻ると、夜中に泣き叫んでいたが。

 保健所で、悲鳴を上げるように、私の顔を見て鳴き叫んでいた時のように。


「もっと、生きたい。元気になって、ずっと生きていたい」と言っているように聞こえたのだ。



 閑話休題。


 それから。

 前回の記事は元々、活動報告からの転載を加筆修正したものだが、十日程度が経過しただろうか。


 実家の柴犬が少しずつ死地から回復しているそうな。

 最近は食べられなかったご飯が食べられるようになってきている。


 傷口は蛆が湧いたりして、大変でもう駄目か、と思ったけど生還しそうだ。


 愛犬の為に実家にいらない服大量に送ったんだけど、家人は愛犬の床ずれの傷を包む為に使ってくれているそうな。傷も一部、回復してきている。愛情の力って凄い。

 私の匂いを覚えてくれていたのかな?


 愛犬の死と同時に、エッセイを完結させようと考えているのだが。

 このエッセイが永遠に完結しない事を祈っている。

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