金木犀の咲く空
短編初挑戦です。
よろしければ最後までお読みください。
「金木犀の花言葉って知ってる?」
僕は季節が秋になりかけるといつもこの言葉が浮かんでくる。
僕は高校生の頃いつも決まって19時に近所の公園に散歩をしに出掛ける。8月19日の今日は少し良い事があって幾分か気分が舞い上がっていたのかもしれない。普段ならめんどくさがって通らない大回りの道を通って公園まで歩いていた。この道の選択がこの先で待つ出会いの大きな分岐点であるとも知らずに…。
8月19日19時30分
普段は人気のない道で誰もこないはずの道で見たことのある黒髪が綺麗で凛とした眼差しをした女の子が1人静かに空を見上げていた。彼女はまだ僕の存在に気付いていない。すると彼女はいきなり涙目になり独り言の様な事を言い始めた。
「なんで私が生きていられないの?私なにか悪い事でもしたの?まだ死にたくない!」
僕は彼女が余りにも動揺しているその姿を見て本当に普段クラスで見るあの人なのかと疑ってしまった。
「君は本当にあの彼女なの?」
気付けば口に出していた。
彼女はすぐさまこっちに振り向くと慌てて涙を拭いて笑顔でこう答えた。
「そうだよ。河合君、私以外に誰がいるの?」
その笑顔はさっきまでの泣き顔からは考えられない程の眩しさだった。そしてその笑顔の向こうに僕が感じたのは彼女の寂しさだったのかもしれない。
「君がさっき言っていたことだけど本当なの?」
僕が家族や親戚以外と話すなんていつぶりだろうか、そう考えていると彼女は言った。
「本当よ。私2年前に癌が見つかってるの。その癌が悪性でさ厄介な事に脳にできちゃってるみたいなの。」
僕は信じられなかった。なにせ彼女は僕が知る限りでそんな事は感じさせないくらい普段は明るく振舞っているからだ。
「だからね、お医者さんに言われたんだ、今の医療技術じゃ君を助ける事は出来ないってさ。」
彼女はそれでも笑顔のままいた。僕はそれが単純に怖いと感じた。何故彼女は自分の死を目の前にこうも笑顔でいれるのか、死が怖くないのか彼女の笑顔が恐ろしいと感じた。
「君はそれを笑顔で話せるのは何故なんだ?」
まただ。聞かない方が良いと分かっていたはずなのに、僕はその言葉を口に出してしまっていた。
すると彼女の笑顔が消えた。
「私が暗い顔をして誰が得をするの?河合君はそんな私が見たいの?」
そう言うと彼女は寂しそうな顔になりその場に座り込んだ。何故だろうその姿がとても儚げで綺麗に思えてしまった。
少しして彼女は僕を隣に座らせた。
「私ね金木犀の花が好きなの。」
「唐突だね。あの花の何がそんなに好きなんだ?」
「金木犀の花言葉って知ってる?謙虚や気高い人って意味があるんだって。私がなりたい人ってまさにそういう人なの。」
「今の君は嘘つきだね。謙虚とは言えないな。」
「ははは、確かにそうだよね。私はクラスのみんなや先生にも嘘をついてる。でもね、河合君にはもうその嘘は通用しないんだよ?」
「そうだね、僕は君の真実を知ってる。こんな真実は知りたくなかったけどね。」
「河合君って正直だね。今日初めて話したけど面白い人でもあるんだね。」
そう言って彼女の見せた笑顔に怖さは無くなっていた。それから僕はこれ以上話す事は無かった。
最後に彼女から「この話はクラスのみんなや先生にも内緒だよ?」と言われて僕は首を縦に振った。
そしてここから僕の長い長い1ヶ月が始まった。
8月20日8時30分
夏休みも半ばだと言うのに何故学校へ行くのだろうか、そう思いながら僕は教室から外を眺めていると元気な声で「おはよっ!」と背中をバシッと叩かれた。クラス中の視線が僕に集まる。
そう何故なら僕は学校では喋らないし友達もいないからだ。そんな僕に話しかけようとする人は誰もいなかった。
そんな僕に話しかける様な人は1人しかいない、そう彼女だ。
「痛いな、朝から元気だね。なにか良い事でもあったの?」
「おはよって言われたならおはよって返すのが当たり前でしょ?」
周りの視線を気にもせず笑いながら言う彼女に少しだけムッとして僕は言った。
「僕はそんな常識の中で生活していなかったからわからないな。」
「今日からその常識で行こうよ!」
僕と彼女が会話している事に周りが唖然としている。そしてクラスの女子達が彼女を呼びどう言う事なのか話を聞こうとしている。
「それじゃ河合君、私呼ばれてるから行くね。また後で話そうねー!」
そう言うと彼女は友達の女子達の中に入っていった。
僕は慣れない周りからの視線に晒された事により明らからに疲れていた。
同日19時
今日は学校で慣れない事があったため非常に疲れたから散歩は辞める事にした。それに今日は夕方から雨が降り続いていた為濡れることが嫌だったと言ってもいい。
8月21日8時30分
中間登校日最後の今日、珍しく遅刻間際で学校へ来た僕は下駄箱の近くで彼女に鼻声で「おはよっ」と声を掛けられた。
「どうしたんだい?鼻声じゃないか、風邪でも引いたの?」
すると彼女は少し怒った様に
「君を待ってたのよ!昨日ずっとあの道でね!」
僕は言い訳を考えたがそもそも待ち合わせなどしていないし僕があの道を通ったのは偶然なのだ。
なので考えることをやめた。
「それはそれはお疲れ様です。でも僕は待ち合わせなんかしてなかったよね?」
「あれ?そうだったっけ?でも私、河合君なら来てくれるって思ってたのになー。」
「僕は君に会う為に散歩をしている訳じゃ無いんだ。」
そこへ彼女の友達が通りかかった。そして彼女がこちらへ向けてニヤリと笑った。
「私は待ってたのに、なんで来てくれなかったの?私の事その程度しか思って無かったの?」
通りかかった友達と僕はその場に凍りついた。
そして彼女は嘘泣きを始めた。
彼女の友達が僕に問い詰める。
「河合君だよね?ちょっと!あんたどう言うつもり?あの子を泣かして私が許すと思ってるの?」
般若の様な顔をしてグイグイ来る。
その怖い顔をやめてくれ、そもそも僕は彼女とそんな関係では無いと言う事を説明した。
そして説明し終えると彼女の姿は無く辺りにはチャイムの音が響いていた。
同日19時25分
僕は同じ轍は踏まない様に今日は散歩に出掛ける事にした。そしていつもとは違うまた大回りの道を使い公園に向かう。するとやはりあの場所で彼女がなにやらゴソゴソと土を掘っていた。
「やあ」
急に声を掛けた僕に慌てた様子の彼女は「来てくれたんだね」と返して来た。
「そりゃ来るだろ、今日の朝ひどい目をみたばかりなんだから。」
そう、朝チャイムが鳴り遅刻が確定し、さらに彼女の友達にその後も怒鳴られ続けるという事があったのだから。
「ごめんね、ちょっと悪ふざけが過ぎちゃったわ。」
「君はああなることを予想してあんな事を言ったんだろ?それは確信犯じゃ無いか」
「だってこうでもしないと河合君来てくれないじゃない?」
微笑む彼女に僕は黙り込む。
「それに今日は散歩しないって連絡する手段も無いでしょ?不便だから連絡先交換しない?」
「ちょっと待ってくれ、なんで君は僕が散歩に行く時は必ず此処に来る事を前提で話をしているんだ?」
それもそうだ、僕は散歩に出る時は必ず違う道を通っているのだから。
「私に会うのがそんなに嫌なの?」
「そう言う訳じゃないけど…」
「あ、嫌じゃないんだー」
彼女がニヤニヤしながら見てきたのでムカついてそのまま帰ろうかと思ったが携帯を無理矢理奪われた。
「これで来れない日は連絡できるんだから連絡してよね。」
「そもそも僕の散歩のコースは此処じゃないのだけど。」
「なら今日からこの道でいいと思うわ。」
強引すぎる。彼女にはどうやら逆らえないらしい。
8月25日13時15分
僕は普段携帯を使わない。何故なら親の連絡先以外は登録されていないからだ。その携帯に何故だか彼女の名前が表示されメールが届いていた。
そう言えば連絡先を交換させられていた。
メールの内容はこうだ。
なんで連絡先交換したのにメールもしてくれないの?
私ずっと待ってたんだけど、もー待てなくてこっちからしちゃったじゃない!
それはまぁいいとして河合君今日暇でしょ?
15時30分に学校に来て。約束だからね!
余りにも一方的なこのメールを無視しても良かったがこのメールの通り暇だったし丁度遅刻の反省文を出しに学校へ行こうと思っていた為行くことにした。
同日15時30分
反省文を提出し終え彼女の待つ教室に向かって歩いていると背後から大きな声で走って来る彼女が見えた。
「何してるの?」
「トイレの蛇口が壊れちゃって水が止まらないの!助けてよ!」
「僕はそんな修理できる技術は持ち合わせていないのだけど。」
「やっぱり?だよね。」
「取り敢えず先生に報告しに行こうか。」
「私思いっきり水かぶってるんだけど。」
そう言った彼女を見ると確かにびしょ濡れで微かに下着の色が透けて見えていた。僕は慌てて目をそらすと彼女は自分で言っておきながら顔を赤く染めて「見ないで」と言った。
「わかったから、取り敢えず僕のシャツで良いなら貸すけど?」
「借りるわ、ありがとう。」
妙な空気が流れる中、僕は先生へ報告へ行った。
先生へ報告した後彼女は何故僕を呼び出したのか話し始めた。
「プールに入りたかったの!」
「友達と行けば良いじゃないか。」
「ほら、わたし癌のせいで手術とかしてるの。だから傷跡とか結構あるんだよね。」
少し悲しそうな顔をして言った。
そうだった。彼女には言いづらい事を言わせてしまったのかもしれないと少し反省した。
「だから癌のことを知っている河合君とならプールに行けるかもって思ったの。」
そんな事を言われたら断る事なんて出来ない。
「わかったよ。どこのプールに行くの?」
「ここのプールに決まってるじゃない!」
彼女は笑いながら言っているがうちの学校のプールは授業や部活以外での使用はもちろん禁止されている。
「本気で言ってるの?見つかれば反省文じゃ済まないよ?」
「そのスリルがいいんじゃない!」
小心者の僕と違い彼女の精神は無敵だった。
同日18時
僕達はひとしきりプールを満喫して、帰路へ着いていた。そんな時彼女が衝撃的な事を言い出した。
「私ね彼氏とかいた事無いの。」
それもそうだろう。彼女にはまだ僕以外の誰にも打ち明けていない秘密があるのだから。それを知られる事やその後の事を考えると恋人など作れないのだろう。
「そうなんだ。」
「だからね、私デートとかに憧れてるの。」
「それで?」
「河合君って意地悪ね。」
「そうか?僕はこれでも自分を優しい人間だと思っていたんだけどね。」
「私とデートして。」
話の流れでこうなる事は予想したいた。だがこの誘いは明らかに重い約束になる。なにせ彼女の初デートが僕と言うことになりそして彼女の最後のデートになるかもしれないからだ。
「いいよ。」
まただ。この感じ、彼女と始めて出会った時のように直ぐに言わなくても良い事が口から出て来てしまう。
「ありがと、初デートなんだから私にはあまり期待しないでよ?」
彼女の笑顔が心に刺さりとても痛い。自分の心がわからなくなる。その日は散歩に行かない事も伝えてその場で解散になった。
8月28日11時35分
最寄駅までの道程で僕はあの道を通る。
すると彼女と出会った所に一本の木が植えてある事に気付いた。まだ葉っぱだけしかついてなくて、なんの木なのか分からなかったが今はそれをなんの木なのか考える余裕は僕には無かった。
同日12時
僕は休日のこんな時間に町に出る事は滅多に無い。
しかし今日は出なければならなかった。彼女とデートすると言う約束をしてしまったからだ。あの時の僕は本当にどうかしていたと後悔して家を出ていた。
「河合君!待った?ごめんね服がなかなか決まらなくて。」
彼女が現れた。素直に言おう僕はこの時の彼女に見惚れていた。普段下ろしている髪をポニーテールにし、化粧などもしているのか彼女がキラキラして見えた。
「あまり待ってはいないよ。」
これしか言葉が出てこなかった。
「そこは待ってないよ、僕も今来たとこ、でしょ?」
彼女はそんなベターでありきたりな言葉を期待していたらしい。
「それより今日はどこへ行くんだい?」
「え?河合君が決めて来てくれたんじゃ無いの?」
「僕はそんな事を1人で決められる様な人間では無いんだ。」
「まぁ、そうだよね…」
2人の間にまた微妙な空気が流れ始める。このままではまずいと思い
「君の行きたい所へ行こう、君の為のデートなんだから。」
都合の良い言葉で決定権を相手へ委ねた。
すると彼女は海が見たいと言い出し行き先は海に決まった。
同日14時10分
海に着いたのだが水着も何も持って来てはいない。
勿論それは彼女も同じであろうが彼女は気にしていない様子だ。
「見て、河合君!海だよ海!」
「そうだね、海だね。」
「なんか残念そうだね、私の水着が見れなかったから?」
彼女が笑いながらそう問いかける。
僕はそれに対して真顔で言い放つ
「君の水着はもう見ているから必要ないかな。」
「なーんだ。つまんないの。」
「君が僕にどんな反応を期待していたのか知らないけれど、海まで何をしに来たんだい?」
「私の話を聞いてもらおうと思って。」
「君の話は大体聞いたと思っていたんだけど、まだ何かあるのかい?」
「そうだよ、河合君にはまだ話してない事が沢山あるからそれを聞いて欲しいんだ。」
同日22時
僕はベッドの上で1人涙を流していた。こんなに涙が出たのは初めてじゃないだろうかと言うくらいまで泣いていた。何故家族でも無いただの1人の人間の言葉でここまで涙しているのか分からない。
8月29日9時30分
僕は目に微かな痛みを感じた。少し腫れていた。
昨日あんな話を聞いてしまったせいだ。
彼女の話を聞くことになりその彼女の発した一言目は「私、昨日余命宣告受けちゃった。」と言うものだった。
僕は分かっていた筈だったのにとてもショックを受けていた。
彼女は助からないと医者に言われていた、だからそう遠く無い内に居なくなってしまうと分かっていた筈だった。
僕にとって彼女の存在はそれだけ大きな物になってしまっていた事にここでようやく気付いた。
同日19時30分
僕はまた彼女と出会った場所に来ていた。
「やっぱりその木は君だったんだな。」
「バレてたの?」
木にそっと水を掛けている彼女に僕は声を掛けた。
「君と2回目に会った時にゴソゴソしていたのを思い出したんだ。」
「あー、あの時ね。ビックリしたんだから。勝手に植えてるのがバレたと思って。」
水やりを終え、笑いながら彼女がこちらに向かってくる。
「木なんだから水やりは必要無いんじゃない?」
「ここ1週間雨降らなかったから可哀想だと思ってやってたの。」
「それにこの木ってなんの木なんだ?」
「それはまだ秘密よ、咲いてからのお楽しみ。」
楽しそうにまたイタズラをする時の子供のように笑う彼女の顔がとても綺麗だった。
9月1日8時35分
まだ暑いと言うのにもう学校が始まったと憂鬱な気分で登校して来た僕を担任の先生が話があると言って職員室に連れて行った。
「単刀直入に聞くけど河合君あなた空木さんの事、知っていたのね。」
僕には何のことだか直ぐに分かった。しかし何故誰にも教えていない筈の話を担任が知っていたのか、それは彼女に確かめれば直ぐに分かった。
昨日の夜、彼女は一度意識を失って倒れたらしい。
彼女は学校の友達には伝えないで欲しいと親を説得したがせめて学校には伝えないといけないと言うことで担任には話したらしい。
同日17時5分
彼女の病院は担任に無理矢理聞いた。
僕が担任に彼女の見舞いに行くから病院を教えて下さいと言った時は流石の担任も驚きを隠せなかったみたいだ。
それもそうだ彼女に関わったせいで僕の性格は確実に変わっていっているのだから。
彼女に出会う前の僕ならまず他人の見舞いなど行く訳がない。
彼女の病室の前に立ちコンコンとノックをすると返事があった。
「はーい。」
彼女の声だ。
「やぁ、見舞いに来たよ。気分はどうだい?」
「えっ!なんで河合君が来れるの?病室教えてないよね?ストーカーなの?」
「失礼な、担任に聞いたんだよ。案の定驚かれたけどね。」
「だろうね、河合君がお見舞いに行くなんて言ったら先生ビックリしちゃうよ。」
なんだ、意外に元気じゃないか。僕が点滴の管が刺さった腕や呼吸器をつけた顔を見てもそう思えるほど彼女は明るい笑顔で話をしていた。
9月2日17時30分
彼女は病院内を呼吸器を外して歩き回っていた。
それを見た僕は、やはりまだ余命までは時間があるんじゃないかと思っていた。
「君はそんなに歩き回っても大丈夫なの?」
「私って意外としぶといのよ?」
「そうみたいだね。いつ退院できるの?」
「明後日にはもう退院しても良いんだってさ。」
「君って本当にすごい力を持ってる気がするよ。」
僕は自然と笑顔になっていた。
「あ!やっと笑ってくれたね。」
彼女はいつも笑顔でいたが僕はいつも笑顔はなかった。僕は恥ずかしくなり俯く。
「河合君が笑ってくれるのを見れてよかった。」
笑顔で喜ぶ彼女を見てやはり思った。
僕は彼女が、その金木犀の花言葉の意味に似た花の名前のような少女、空木栞菜が好きなんだと。
9月5日8時35分
彼女が退院して1日が経ち彼女が学校へ登校して来た彼女を見て僕は彼女がさらに喜ぶであろう事をしようと思った。
「空木さんおはよう」
彼女はその場で驚いて
「おはよっ!河合君!」
と大きな声で返してくれた。
「何々!どうしたの?河合君から声を掛けて来てくれるなんて。」
また彼女がニヤニヤとして僕に絡んでくる。
「君の退院祝いにと思って。これくらいしか僕には出来ないから。」
彼女は泣きそうになっていたが堪えて笑顔で
「ありがと!!」
と言って友達の輪の中に入って行った。
9月6日
その日彼女が登校してくる事は無かった。
9月7日5時
朝早くに僕の携帯が鳴り響く。
相手は空木栞菜と表示されていた。
「もしもし、どうしたのこんな時間に。」
「もしもし、河合幹太君ですか?」
明らかに彼女の声ではない、
「はい、そうですが。」
「栞菜の母です。栞菜が亡くなった事を報告する為に電話しました。」
僕は暫くの間動く事はおろか考えることすらできなかった。
「河合君、あなた栞菜から病気の事を聞いていたんですか?」
「はい、偶然なのですが独り言を言っていた所に通りかかってしまって。」
「そうなのね、それで明後日の葬式に参列して貰えないかしら?」
「はい。わかりました。」
僕は電話が切れた事を確認してからすぐに泣き出した。
最近の僕は彼女の事ですぐに泣いてしまう。
僕はその日学校に行けない程に泣き続けた。
何故、君に出会ってしまったのだろうか。
何故、君の真実を知ってしまったのだうか。
何故、君と出会ってからの日々はいつまでも鮮明に覚えているのか。
そんな事を考えてひたすら泣いていた。
9月9日13時
彼女の葬式は厳かに執り行われた。
彼女の顔を見て僕は最高の笑顔で見送ったあげた。
彼女は僕の笑顔を喜んでくれただろうか、せめて泣き顔よりは喜んでくれただろう。
式が終わり彼女の両親に呼ばれ彼女の部屋に上がらせてもらった。
「栞菜が亡くなる直前にこれを君に渡して欲しいと頼まれたわ。」
それは彼女の綴った僕との未来日記のような物だった。
「この場で見てもよろしいですか?」
「ええ、君に見て欲しかった物だろうからね」
僕は1ページ目を開いて直ぐに驚いた。
彼女が1ページ目を書いた日付は僕が彼女と出会う1週間前だったからだ。
僕が彼女と出会った事は偶然ではなく必然だったんではないかと思う程、そっくりそのまま僕と彼女の間に起きていたからだ。
ゆっくりと読み進めていき9月2日の事が書かれたページで僕は自分のあの時思った事を酷く責めた。
9月2日
今日は河合君に初めて嘘をついてしまった。
でも私はこの嘘を悪い嘘では無いと信じている。
彼は私のこの嘘に気付いているのかもしれない。だけど私は彼の表情の中で笑顔が一番好きだから。彼をまた笑わせてあげたい。
これが私の最後の君に対するお願いかな。
そして最後のページは今日の日付だった。
9月9日21時
このページの日にはもう私はいないよね。
君に見て欲しい物があるんだ。いつもの場所に行ってみてもらえないかな?私がいつも座ってた場所、わかるよね?
このまま黙っておこうと思ったんだけどやっぱり君には見て欲しいから。
私の座ってた場所に着いたら寝転がって見て。凄いから。
ここまでで文章は終わっていた。
9月9日21時
僕は彼女の書いた日記通りに彼女がよく座っていた辺りへ来るとふわりと良い香りがした。
すると彼女が座っていた辺りの後ろの木に金木犀の花が咲いていた。
彼女の日記にあったように寝転がると月明かりに照らされた金木犀の花がその香りと共にひらりと空に舞い上がった。
彼女は最後に僕にこうなって欲しいと願ったのかもしれない。
この広い世界の中で謙虚に、それでいて気高く輝く星のように、人と関わる事を諦めないで生きて欲しいと。
僕は空を見上げて最高の笑顔で考えていた
今、この雰囲気の中で彼女が居たらこう言うだろう
「金木犀の花言葉って知ってる?」
最後までお読みいただきありがとうございます。
初挑戦なのでコメントや評価など頂けると有り難いです。