神楽の力
何かを握る感触のある右手に顔を向けると、あまりのことに手を開いてしまった。
「うわうわうわうわっ!」
「ミス火野、大丈夫ですよ。
その炎は能力によるものなので熱くないはずです」
開いた手のひらには小さくなった炎が燻っている。
「えっ!?
あっ!
ホントだ、熱くない……」
小さい炎をもう一度握ると、ある程度伸び一定の長さで留まりを見せた。
「炎を纏った剣の様なものですね。
では、手を開いて炎が消えるイメージを抱いてみて下さい」
「イメージ、イメージ、イメージ……。
おぉ、おおぉ」
蝋燭の火が小さくなり消えていくのを頭に浮かべると、炎は私の手のひらに吸い込まれていった。
「一応はこれで自在に扱えると思いますが、無闇には出さないで下さいね。
私達が火傷してしまいますから。
では、ミス火野。
上がって来てもらえますか?」
「はい、神楽さん。
外しますよ。
まだ落ち着かないと思いますが、すぐに慣れますから。
それと、何か変わったことはありませんか?」
友姫さんは私に付いている器具を外すと、手を取り椅子から立ち上がらせてくれた。
「いえ、特に変わったことはないわ。
気分も悪くないし、至って平気よ」
「そう――ですか。
何か遠い記憶みたいな、違う人格の様なものも感じないのですか?」
「んー、何か夢のようなものは見たけど、全く変わらないわよ?」
昼寝から起きた感じと何一つ変わらない私には、友姫さんの質問が変に思えて仕方なく、当の本人は私の答えに満足いかないのか首をかしげている。
「どうでしたか?
ミス火野、ミス藤凱」
部屋に戻るとそこにいる全員が私に振り返り、黙って見続けている。
「気分は悪くないようですが、他に変わったこともないとのことです」
「やはりそうですか。
……ミス火野。
初めに言っておきますが、今のあなたを覚醒することは出来ませんでした。
言うなれば、今のところ半覚醒状態というものです」
「半覚醒?
なのに、手から炎が?」
能力が発動した右手をまじまじと見つめ、意味が解らないと友姫さんに助けを求めた。
「余程のことがない限り、覚醒しなければ能力も発現しないのは事実よ。
けれど、神楽さんは特殊な存在みたいで能力は発現した。
更には人格もそのままで記憶もそのまま。
だとすると、相当な力と魂の強さを持ち合わせている。
これらを踏まえて考えられるのは、貴女の魂には眷属ではなく、何らかの神が宿っていると考えられます」
「神が……?
私の中に?」
言われたところでピンとはこない。
水元先輩が魔法みたいなことをして戦っていたのはこの目に焼き付いている。
そして、私の手から炎が噴き出した。
現実と幻想の狭間にずっといたのは事実だが、自分が神だなんて誰が信じられるものか。
「ミス火野。
困惑するのも無理はありません。
神話の時の記憶が戻らない以上、受け入れるのは困難だと思います。
かつての私も同じでしたからね。
四大天使に数えられるウリエルは、神の側近にあり強い力を有しているので、私も能力だけで記憶は戻りませんでしたが、自身と向き合うことでいつしか覚醒を遂げました。
だからミス火野。
今は魔法や超能力だと割り切り、普通に過ごすことを勧めますよ」
そんなことを言われても、簡単に割り切れるほど私は強くない。
心も頭もごちゃごちゃになり、整理のつかない私の目からは大粒の涙が溢れ出す。
しかし、次の瞬間にはその想いを掻き消すかのように、室内を警報音が包み込んだ。