誓いの秩序
浮遊感がなくなり扉が開くと、長く無機質な廊下が現れ友姫さんは笑顔で踏み出した。
「この奥です、行きましょう。
私達、反逆者の方舟が対立しているのは誓いの秩序、略してトリアゼロ。
ゼウス、オーディンらが率いる神々の軍勢です」
「ゼウス?
オーディン?」
「神楽さんは神話に疎いんでしたっけ。
まぁ、それはいつか分かるでしょ。
はい、着きましたよ、ここです。
この扉の向こうから本格的にイルミナの施設になります」
見た目から重厚な扉が機械音と共に開かれると、近未来的研究室を思わせる様に演算処理装置が壁に沿うようずらりと並ばれている。
「す、スゴいわね……」
「おっ!
これはこれは。
ようやく来ましたね、ミス火野」
部屋の中央に佇む黒い正装を着こなした男性が振り返ると、私に握手を延べてくる。
「あ、いえ……どうも」
あからさまな外国人に動揺しつつ、手を離すと一歩後ろに下がった。
「ふふふ。
怖がらなくても大丈夫ですよ、神楽さん。
この方はイルミナの長官、ベルトリッヒ。
またの名をウリエル。
審判の能力を持ち、リアークの行く末を決める役割を担っています。
ベルトリッヒ、早速始めましょうか。
……ちなみに日本語も上手なんですよ」
金髪オールバックで目元の深い堀、それに加えた長身で見るからに外国人なのに、日本語はえらく流暢なものだった。
「では、ミス火野。
ミス藤凱と共にあちらの階段から向こうの部屋に行って頂けますか?」
「あ、えぇ」
正面の壁だけガラスで仕切られ、ベルトリッヒはそこを指差す。
階段というのは螺旋階段だろう、そこから繋がっているのならば相当な大きさの部屋に思えた。
言われた様に友姫さんと共に螺旋階段から部屋に入ると、椅子が一つ真ん中にあるだけでコンクリート剥き出しの巨大な冷たい箱だった。
「ミス火野。
そこの椅子に座って頂けますか?
今からあなたの能力を調べようと思います」
どこかにあるであろうスピーカーからベルトリッヒの声が響き、友姫さんは座った私の指先や頭に色々と器具を取り付け出した。
「友姫さん、これ何?」
「ん?
これは、脳波とか心音を測るだけですよ。
前よりももっと深い催眠をするので、魂に呼び掛けた際に何かあってもダメですからね。
……ヨシっと。
それでは神楽さん。
目を閉じてリラックスしてください」
またかと思いつつも目を閉じ、全身の力を抜いた。
座り心地の良い椅子に身を委ねると、知らない女性の声が聞こえてくる。
………………。
………………。
………………。
暗い闇の中、広い草原が浮かび上がる。
………………。
………………。
………………。
体は燃えるように熱く、近くには誰かが横たわっている。
………………。
………………。
………………。
悲鳴と怒号が耳をつんざくと、光輝く刃が飛び込んで来た。
「いやぁぁぁ!!」
私の視界には、遠く離れた灰色の天井があった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。
私は……あぁ、そうか……」
自分の悲鳴に驚き催眠が解けたことを理解すると、何かを握っていることに気がついた。