秘密の入口
特に不自由することもなく迎えた朝はスッキリと目が覚め、窓を開けると自然に囲まれた清々しい空気が部屋を満たしてくれる。
心地好い空気の中で身支度を済ませると、隣の部屋に運ばれていた朝食を口にして急ぎ部屋を出るが、指定された時間を少し過ぎたところで宿舎の外に着くことが出来た。
「おはよう、友姫さん。
遅くなったわ」
「遅刻ですよ、神楽さん。
ふふっ。
疲れていると思ってましたから、十分以内なら想定内ですよ」
「ありがと、ごめんなさい。
それで、どこから行くの?」
研究施設に用があると言いつつ校内の案内をするとも言っていたので、どちらが先なのか気になっていた。
どちらが先でも構いはしないのだが。
「どこから?
校舎に行きますよ、それしかないですから。
他に建物は在りませんし。
まあ、立ち話も何ですから行きましょ」
研究施設に行くなら車で移動するといった意味だろうと取り着いて行くと、職員用玄関から入り美術品のような手摺の付いた階段を上り二階の廊下を進んだ。
「スゴいわ、学校とは思えない。
土足だし」
「ふふふ、そうですね。
日本の学校で土足なのは珍しいですよね。
見た目通り西洋式ですから、驚くのも無理はないかと。
あっ!
でも、他のことは日本の学校と変わりないですから、そこは心配しなくても大丈夫ですよ」
それを聞いて少し安心した。
外国の学校となると宗教的なイメージがあり、宗教に全く関心のない私には荷が重すぎてしまう。
「この先に職員室がありますから。
ここは資料室や準備室が並んでいて、教室などは階段から真っ直ぐ行ったところと三階、四階にあります。
体育館や食堂などは一階ですね」
「私達は職員室に行くの?」
「ええ、そこからでないと行けないので。
施設――通称イルミナには」
何か聞いたことのある単語だが……。
「えぇ!?
もしかして、秘密結社とか言われてる――」
「違います、違います!
たまたま名前が似ていますが、私達は『照らす』という意味で神の魂を照らす、進むべき道を照らすといった研究の意味合いで、それとはまた別ですよ」
「そ、そうなのね。
びっくりしたぁ。
いわゆる都市伝説だから、本当にあるのかと思ったわ」
「いえいえ、都市伝説かも知れませんが実在はしていますよ。
さあ、ここです」
びっくりさせておいて、すんなりと職員室に入って行く友姫さんに私は戸惑いながら着いて行くと、奥にある扉を開け、狭く本棚に囲まれている部屋へ案内された。
「ここ?
本しかないけど?」
「……待って下さいね、今開けますから」
友姫さんは言いながら左の本棚の真ん中で、本を指でなぞっていくと一つの本を手前に引いた。
「ん?
お!?
おぉぉぉ!!」
正に映画で見た光景を目にし、私は感嘆の声を挙げるしかなかった。
本棚が二つに割れ扉のように開くと、そこに壁はなく、鉄の入口が私達を誘っている。
「これってエレベーターでしょ!?
これで地下に行くのね!
おぉぉ、スゴいわ……スゴいわね!!」
「映画の様でしょ?
ふふふ。
私、良い趣味してるでしょう。
皆これを見ると喜ぶのよね」
「あははは!
友姫さんの趣味なんだ。
これは感動するわね」
映画でしかまず体験することが出来ないことが目の前で起きて喜ばない人はいないだろう。
私達が中に入り、数字鍵盤の上にある鍵穴へ友姫さんが鍵を入れ何やら操作し始めると、扉が閉まり小さな鉄の箱が動き出した。
「ご明察。
これから地下にあるイルミナに行くわね。
さっきのは、私の趣味でもあるけど防衛機能の一つにもなっているから、一石二鳥ってことなのよね」
「映画でもそうよね。
隠し扉みたいなものでやってるから、あながち間違ってないわよね。
……でも友姫さん。
誰から隠すの?」
私はまだ聞いていなかった敵対勢力のことを今になって思い出し、未知の力による争いだったことをイルミナによって実感が湧いてきた。