知識の能力者
駅を出ると、リアークの関係者である藤凱友姫と名乗る女性が待っていた。
彼女の運転する車に揺られ、私は未だ知らされていない目的地へ向かっている。
「列島の最北県に来たのに、まだ移動するのね」
「長旅になると言っていたでしょ。
ここからも結構離れていますからね。
安全運転でお願いしますよ、友姫さん」
「ええ、もちろん。
大事なお客様に何かあってはいけないですから。
私だって心得ていますよ。
ところで神楽さん。
どうですか?
都会と違って田舎も良いものでしょ?」
バックミラー越しに目が合うと、ポニーテールに結んだ髪を揺らし、何とも心地よく優しい口調で話かけてきた。
「そうですね。
空気が違うし、景色も遠くまで見えて異世界にいるみたいだわ」
「私も気に入ってるのよ、ここの土地は。
出来ることなら、ずっと暮らしていたわ」
中心部から離れると高い建物もさほどなく、平地なのに見晴らしが良く田畑や山がずっと見えている。
「こっちの人じゃないんですね」
「ええ、私も神楽さんと同じ東城都出身ですから。
リアークに所属して今の任務を与えられるまでは、各地を転々としていましたし」
「彼女もディバイナーで、知識の能力を宿していましてね。
表立って行動すると、世界でも指折りの天才と言われる程ですよ」
「やめて下さいよ、巧斗さん。
褒めても出るのはお菓子くらいですよ。
正直、私にそこまでの能力はありませんし」
神々の戦争など聞いていた割には極々普通の会話にしか聞こえず、何となく落ち着き自然と笑顔になってしまう。
「そんな能力もあるんですね。
友姫さんって美人だし、頭も良いならモテそうですよね」
「そんなことないわよ。
現にお付き合いなんてしてないし、誰も寄ってこないから。
なんだったら、美味しいスイーツの方がありがたいわ。
私を誘ってくれるもの」
美人過ぎて頭が良いと男は寄ってこないという定説は嘘ではなく、本当にそうなのかも知れないと思わせる程の説得力があった。
「友姫さんは近寄り難い雰囲気を出す時がありますからね。
物腰が柔らかいのに、目が笑ってないというか」
「何か言いましたか?
巧斗、さん」
確かに声や態度は変わってないのに、威圧感が伝わってくるというか、怒りのオーラが滲み出ているのが見える様だ。
「ね、ねぇ友姫さん。
これから私をどこに連れて行くんですか?」
「あら?
ホントに何も聞いてないのね。
大自然の真っ只中よ。
世界遺産でもある山の中。
行ってみたら、凄く好きになると思うわ」
世界遺産……?
「山の中に遺跡でもあるんですか?」
「えっ?
知らないの!?
ちゃんと勉強しなきゃ駄目ですよ、神楽さん。
山脈と違って幾つかの山がある場所の事を山地って言うんだけど、山地が世界遺産に登録されていてブナの原生林が沢山あるのよ」
「は、はぁ。
遺跡もない山の中に行くんですか?」
「なんで遺跡が出てくるの?」
質問に質問で返され、私の想像している答えを述べるしかなくなり、少し心が曇り始めた。
「んー……私の能力を調べるって言われて先ず思い浮かぶのが、神秘的な儀式だから。
そういうのって、遺跡とかでやるじゃないですか」
車内は爆笑の渦に包まれた。
絶対に可笑しな事は言ってないし、まして笑いを取りにいったわけでもない。
私の頭の中にはハテナが幾つも浮かび上がった。
「ふふふふふ。
神楽さん。
それは時代錯誤ですよ。
私達が向かっているのは、遺跡でもなければ洞窟でもないですよ。
……学校ですから」
「は?
学校!?」
私の驚きに二人は声に出さず、軽く頷いただけだった。
そして、思い浮かべたのは林間学校だったのは言うまでもなかった。