死の意味
とっくに昇りきった暖かな陽射しを受けるも、肌寒さを感じる土曜日の朝。
言われたように、少しの着替えをリュックに詰め校舎前に集まると、残りの一人を待つことになった。
「ようやく来ましたわね、沙門君」
大きく欠伸をし頭を無造作に掻きながら、悪びれる様子もなくのんびりと歩いて来る。
「わりぃ。
ってか、朝早ぇんだよ」
「あら、いつもの登校時間と変わらないのですけど?
それはそれとして、ここからは別行動になるのでお忘れなく。
何かありましたら、いつでも連絡をするように。
では、私達はあちらの車に。
男子はあちらに。
無事に東城で御会い致しましょう」
それぞれが決められた車に乗り込むと、それは死地へと向かうかの様に静かに動き出した。
「火野さん?
大丈夫ですか?」
私が黙って一点を見つめたまま動かなくなっていたのに心配したのか、美呼さんが話しかけてくれた。
「えっ?
あっ、う、うん……。
ちょっと怖いかなって思ってて」
「そうですよね。
実戦も何も無いようなもので、この様なことになったのですものね。
無理もないと思いますわ。
私と神鳴さんが全力でお守り致しますから大丈夫ですから」
「けど、死ぬかも知れないのよね?」
「確かにそうですが……。
ん?
でも確か、火野さんはまだ能力を完全に受け入れてないとお聞きしましたが?」
「えっ?
そうですけど……。
だって神の魂が宿ってるとか、まだ実感が……」
「すると、私達の言う『死』と火野さんが思っている『死』は、もしかして違っているのかも知れませんわ」
言っている意味がまるで分からず、美呼さんと雷羅の顔を交互に見つめ返した。
「一般的な『死』というのは肉体に何らかの障害が起き、維持出来ずに機能を失うことを言いますが、我々の『死』というのは神の恩恵を受けた魂が消滅することを言っているのですわ。
従って、能力で傷つけられ生き絶えたのなら、それまでの記憶が消え『普通の人』として生きるしかなくなります」
「……えっ!?
えぇぇーーー!?
でもでも、私、先輩が消滅するの見たんですけどっ!」
「それは結界の外に放り出されたのでしょう。
普通の人は結界には入れませんし」
「その後、先輩を見なかったのは!?」
「状況が分からないので何とも言えませんが、一時的な記憶喪失で入院していたか、結界から出された場所が人気のない所だと行方不明扱いになっていたのかと予測されますが」
あっ……。
確かに先輩は休学することになったとか言っていたが。
「あれって、本当に休学だったんだ……」
「では、その方は入院か療養でお休みになられたのですね。
行方不明ではなく良かったです」
生きていたことに思わず涙が溢れ、雷羅が手早くハンカチを渡してくれた。
「あ、ありがと……雷羅」
「良かったな、神楽ちゃん。
目の前で見ちまったんだもんな、何も知らない時に。
まさか、あたしも神楽ちゃんがそれを知らなかったなんて気づきもしなかったし。
けどまぁ、あたし達は『死ぬ』ことなんてないから心配すんなよな」
「雷羅……あんたが一番心配なのよ」
「にゃははは!
そうだよねぇ、そうなっちゃうよねぇ」
雷羅の笑い声に喜び安堵から楽な気持ちになり、車内は良い雰囲気に包まれた。
そして、私達を乗せた車は向かうべく地へ誘う為の駅へと辿り着いた。