迷いの夜
イルミナに戻ってからはウリエルへの報告に教師からの質問、雷羅の愚痴と中々に休まることはなかった。
「ようやく終わったわね、雷羅……ちゃん」
「もぉ、ムリに『ちゃん』付けじゃなくても良いよぉ。
あたしのことは呼び捨てで構わないって。
にしても、話し合いが長いってのね。
もう夕方よ、夕方。
一日が台無しだわ」
話し合いはイルミナの中で夕飯を食べながら行われ、後は自由行動だが、私達は宿舎に戻る以外することはなかった。
「買い物に出掛けてたんでしょ?
それなのに巻き込まれちゃって大変だったわね」
「ホントそれ。
あんな連中に出会ったおかげでさ、また行かなきゃだわ。
あっ、それなら明日一緒に行かない?」
「え?
あぁ、明日帰る予定なのよね、東城に」
本当なら一緒に行きたいのは山々だが、そんなに長居するつもりで来てもいないし、二泊三日と両親にも言ってきている。
「そんなぁ。
せっかく仲良くなれたんだし、ちょっとくらい遊びたかったな。
もお、いっそ転校して来なって。
覚醒してないんだから、こっちに来た方が危なくもないしさ」
「そんな簡単には転校出来ないわよ。
雷羅は元々こっちに居たの?」
「うんにゃ。
あたしも転校してきたんだよ。
中学の時に能力が発現してさ、仙都市からこっちに来たの。
転校なんてあっという間だったし、あっちに居たら今のあたしはなかったと思うよ」
「中学から?」
「そっ!
ここは小中高の一貫教育だから。
大体は中学生から発現するのが多いみたいだから、小学生ってあまりいないけどね。
あっ、こっち来て」
どおりで校舎や宿舎、敷地が大きいわけだ。
その大きな宿舎に入り、雷羅も部屋に向かうのかと思っていたが、私の手を引き二階の広い部屋へと案内された。
「ここが談話室。
高校生は大体こっちの談話室にいるけど、今はみんな食堂かな。
さ、座って。
神楽ちゃんのこと色々と教えて」
「私のこと?
良いけど……つまんないと思うわよ」
私の趣味やどういった経緯で今に至ったかを話し、私は学校のことや雷羅の事を色々と聞いてみた。
「あたしの事っても、あとはこの能力しかないかなぁ。
雷の能力なんだけど、神楽ちゃんと一緒でまだ覚醒してないんだ。
だけど、別にこのままでも良いかなって」
「どうして?」
「だって、覚醒するってことは要は前世の記憶みたいなもんじゃん?
自分の知らない記憶が出てくるって、なんか気持ち悪いしさ、今のままで誰かの為になってるならそれでいいじゃんって」
確かに覚醒する意味がどこにあるのかは分からない。
そして、私は誰かの役に立つなど考えてもいないまま反逆者の方舟に属することになったが、果たしてそれは正しかったのか。
誰も傷つかず、ただただ普通に過ごせればそれで良い。
しかし、こうしている間にも知り合いの誰かが危機に瀕しているかもと考えると……。
雷羅の考えに私に迷いが芽生え楽しい雑談だけだと思っていた夜は、能力のことやこれまでの争いのことだったりと、普通の女子高生ではいられない現実を思い知らされる事となった。