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強化されし軍勢

 

 ゴスロリ女は自分の魔術を地味だとか、面白くないだとか言っていた。 

 確かに、わたしや鬼山さん、更に言えば薊海里の魔術なんかと比べても、派手さはないのかもしれない。

 

 けれど、その効果は強力すぎる。 

 二十体ほどの魔物全てに、三種類の強化魔術。 恐らく、攻撃力も防御力も素早さも上昇している。 

 どれくらい上昇しているのかはわからないが、あの速さを見る限り、上級魔術相当の強化魔術であるに違いない。

 

「あっ……」

 

 更に絶望感は押し寄せてくる。 攻撃特化の魔物も動き出したのだ。 

 不気味な羽音を響かせて夜空を飛ぶその姿は、鎌を持つ死神のよう。

 当然、この魔物も強化されている。 どれほど強くなっているかなんて、想像もしたくない。

 

「クソ……!」

 

 鬼山さんの体から、青い電撃が迸る。 以前使用した、全身に雷属性を付与する強化魔術を発動するようだ。 

 あれは、肉体強化も兼ねている。 あの時のように、近接戦闘で魔物たちを片付けるつもりなのだろう。

 

 空中より迫り来る鎌。 

 その一撃を躱す鬼山さん。

 

「………………!?」

 

 鬼山さんの背後の樹木が、真っ二つになる。 

 樹木よりも柔らかいわたしたちなら、一撃でもあれを喰らえばお陀仏だ。

 

 魔物たちの猛攻が始まる。 

 強化された魔物たちは、先程までとは見間違えるほどの瞬発力で動き回り、わたしたちに襲いかかる。

 その鋭い爪から繰り出される刺突は、放たれた弓矢のように素早くわたしたちの身体を掠める。

 

「……ッ……!」

 

 じんわりと広がる、熱さと痛み。 

 血だ。 血が流れている。

 

 魔物は負傷したわたしに対する配慮など、してくれない。 

 次から次へと迫りくる、爪。 まともに喰らえばただでは済まない。

 

 流石に、このまま攻撃を避け続けるのは困難だ。 

 わたしも、ちょっとした強化魔術なら扱える。 中級の、速度上昇魔術だ。 自分しか強化できないが、何も使えないよりマシだ。

 

 これなら――。 

 攻撃を避け続けるくらいなら、可能なはず。 

 

 この魔物たちの攻撃はワンパターンだ。 わたしという獲物が視界に映り込んだら、狙いを定め、飛び掛かる。 それだけ。

 薊海里の操っていた魔物たちより、知能が低い。 見た目が虫なだけはある。 もちろん虫の知能だってピンきりなのだろうけど。

 

 鬼山さんはというと、本人曰く三分間の時間制限がある強化魔術を発動していることもあって、急いでいる。 

 雷を纏った拳で魔物を殴り、雷を纏った脚で魔物を蹴る。 その威力は決して低いわけじゃない。 けれど……。

 

「……まだ死なないか」 

 

 何発か攻撃を受けても立ち上がる、魔物たち。 防御面もだいぶ強化されているようだ。

 

 苦戦する鬼山さんの元に、防御特化の魔物も襲来する。 

 いくら鬼山さんでも、あれだけの数に囲まれたら……!

 

「っ…………!」

 

 素早く雷の剣を形成する。 

 わたしの元にも魔物は迫っているが、この魔術を発動してすぐに動けば逃げ切れるはずだ。 今、この魔術を発動しなければ、鬼山さんが危ない。

 

「はぁぁぁぁあああ!!」

 

 振り下ろす雷剣。 大地に突き刺さり、周囲に電撃を撒き散らす。 

 

「よくやった――」

 

 何体かの魔物は消え失せ、鬼山さんは危機を脱する。 

 そして、すぐ側にいる生き残っていた一体の魔物を蹴り飛ばし、倒す。 

 そのまま流れるように動き、背後から忍び寄っていた魔物も、踵落としで粉砕する。

 

 わたしもすぐに攻撃を回避する。 

 しかし、攻撃を避け続けるだけではいつか詰んでしまう。 何とか余裕を作って、攻撃に転じなければ。

 

 魔物たちの防御力は上がっている。 広範囲の上級魔術では、二発喰らわせても倒せない可能性が高い。 

 ならば、単体特化の一撃で、確実に一体を仕留める……!

 

 薊海里との戦闘を経て、発動速度はだいぶ上昇している。 それについては心配ない。 心配なのは、命中率だ。 狙いが逸れれば、敵を倒せない。

 雷の槍を形成する。 乱れた呼吸を少しでも整える。 

 目を凝らし、狙いを定め、雷槍を解き放つ――!

 

『ギィィィイイイ!!』

 

 放たれた雷槍は、魔物の腹部を貫いた。 

 一点に集中した攻撃なら、一発で倒せる――。

 

 即座に次弾を装填する。 

 魔物の数が減ったことで、幾分か攻撃を回避するのが楽になる。 

 最初は強化魔術によって上昇した速度に驚いたが、慣れてしまえばそこまで脅威ではない。

 

「………………!」

 

 一直線上に、二体の魔物が重なる。 ここを狙えば、二体同時にダメージを与えることができるかもしれない。 

 はやる気持ちを抑え、冷静に狙いを定める。

 

「貰った……!!」

 

 二発目の雷槍が放たれる。 

 一本の光の線を描きながら直進するそれは、一体の魔物を貫通し、もう一体の魔物をも貫こうとする。

 

 結果として、二体同時撃破とはいかずまでも、二体目にも致命傷を与えることに成功する。

 これだけ数を減らせれば、何とかなるのかもしれない――。

 

 わたしがこうしている間にも、鬼山さんは猛攻を続けていた。 

 俊敏な動きで魔物の死角に入り込み、鋭い殴打で弱所を攻める。 雷の付与された攻撃は、確実にダメージを蓄積し、魔物の数は減っていく。

 

 こうなると、鬼山さんにとって厄介なのは、やはり攻撃特化の魔物と、防御特化の魔物だ。 この二体だけは、そう簡単に倒されてはくれない。

 

「ッ……!」

 

 禍々しく凶器として発達した鎌を振り回す、攻撃特化の魔物。 

 その攻撃を躱し、蹴りを喰らわそうとする鬼山さん。 

 しかし、敵の反撃を恐れ、思い切った攻撃が出来ずにいる様子。 さっきから、掠ったり、当たりが悪かったりしてばかりだ。

 

 雷の鎧を発動してから三分はもう過ぎている。 いつ効果が切れてもおかしくない。 

 それを自覚しているからか、焦りを見せ始める鬼山さん。 危険を承知で、少しでもダメージを与えようと躍起になっている。

 

「はあっ……!」

 

 突如、高く跳躍する鬼山さん。 何をするのかと思えば、攻撃特化の魔物の上に跳び乗っている。

 

『キィィ!?』

 

 身体の上に乗られ、動揺する攻撃特化の魔物。 

 鬼山さんを振い落そうと暴れ、空を飛ぼうとするが――。

 

 それよりも早く、鬼山さんは両手を組み、雷を込めた両拳を振り下ろす……!

 

『ギィィィィィィイイイイイイ!』

 

 魔物の悲鳴に気にも掛けず、鬼山さんは次の行動に出る。 

 地に降り、攻撃特化の魔物の背後に回り込み、空を裂くような鋭い蹴りを繰り出す。

 

『グギィィィイイイ!?』

 

 吹き飛ばされる魔物。 このまま、とどめを刺さんと駆ける鬼山さん。 

 これなら……!

 

「させないわよ……! あの子を全力で守りなさい!!」

 

 ゴスロリ女の命令が下る。 魔物たちが、攻撃特化の魔物を守るように集まっていく。

 

「ああっ!」

 

 鬼山さんの行く手を阻む、魔物の壁。 

 それらは当然、ただ動かぬ壁となるだけではなく、攻撃をしようとする鬼山さん本人の動きを止めようと攻撃も繰り出してくる。

 

「くっ……!」

 

 何とか対応する鬼山さんだが、徐々に動きが鈍くなっているようにも見える。 あのままでは危ない。 

 

 ここで浮かび上がる二つの選択肢。 

 

 一つ。 魔物に守られていないゴスロリ女を狙う。 

 自らに危険が及べば、ゴスロリ女も魔物を自身の周りに移動せざるを得ないだろう。 しかも、うまくいけば魔物を操る張本人を倒せることになる。

 

 二つ目。 鬼山さんを襲う魔物たちを攻撃する。 

 わたしが手助けしなくても大丈夫な可能性もあるが、いつ強化の効力が切れるかはわからない。 魔物たちに囲まれている時に効力が切れたら、非常にマズい。

 

 ここは……。 

 迷うまでもない。 今のわたしたちは、勝ちに急ぐのではない。 ゴスロリ女を倒すことも一番の目的ではない。 

 だからまず、わたしたち二人が無事ここから逃げ出せること。 それが最優先だ。

 

 右手と左手それぞれに雷の槍を形成する。 

 二槍流とでも言うのだろうか。 最もこれは、あくまで槍の形状をした雷でしかないのだが。

 

 わたしが選んだ選択肢は、鬼山さんを襲う魔物たちを攻撃すること。 

 当てればほぼ確実に仕留められるであろうこの魔術を、同時に二発。 二体だけでも倒せれば、鬼山さんの生存率はだいぶ上昇する。

 

 狙いを誤らないように集中する。 味方殺しなんて悲劇だけは避けなければならない。  

 

 目を凝らす。 

 狙いが定まる。 

 後は、射出するのみ――!

 

「――えっ!?」

 

 それに気がついたのは、二本の雷槍を解き放ったすぐ後だった。 

 わたしが攻撃しようとしていたことに気づいていたのか、防御特化の魔物がわたしの狙っていた標的の前に立ち塞がる。

 

 まさか、いくら防御特化の魔物でも、わたしの雷槍を二本同時に喰らえば、ただでは済まないはず……。 

 狙っていた相手ではないが、これは無駄打ちにはならない。 

 

 そう、信じたかったが……。

 

「そんな……!」

 

 わたしの放った雷槍は、防御特化の魔物の装甲に弾かれていた。

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