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父と娘


「確かに俺は、あんたの言いなりなるつもりはない。 それに、俺は魔術会の存在には否定的だ。 この世界に魔術なんてもの、あっちゃだめだと思ってる。 それでも、魔術会には手を出さないよ。 それどころか、味方になるって言ってるんだ」

「……それで?」

「だから、どうか約束してくれ。 ……桃子をこれ以上、悲しませないって」

「……ほう? 何を言い出すかと思えば……。 私が桃子を悲しませていると? 私は、虚子も花子も桃子も皆、愛している。 三人にはそれなりに自由で裕福な生活を送れるようにしている。 悲しませてなどいないだろう、桃子?」


 恭介が、桃子に視線を向ける。 全てを見透かしているような、嫌な目だ。

    

「わた、しは……」


 俺はもう、話すべき事を充分話した。 そもそも、今回の主役は俺じゃない。 俺はあくまで、桃子の付き添いだ。

 

「………………」


 不安げな表情を浮かべる桃子が、俺の方を見る。 それを見て、俺は黙って頷いた。 もう、何も言う必要はなかった。

 

「わたしは……」


 そうだ。 今回の主役――。 

 

「……つらい。 お父さんの言い成りになっている、今がとてもつらいの……!」


 それは、桃子だ。 俺がどんなに頭を働かせて言葉を並べたところで、家守恭介には敵わない。

 

 今回の場合。 大事なのは、話の内容だけではない。 誰が、話すかだったのだ。 

 バスジャックでさえ投降させてしまう話術。 そんな話術だって、誰が話しても有効なわけではないだろう。

 厳ついおっさんが話すのと、か弱そうな女子高生が話すのでは、相手に与える効果は大きく違う。 

 どちらが有効かは、人それぞれ。 そんな、当たり前の話。

 

「……ほう。 それなら、父さんに反論するべきではなかったのかね? 父さんから見れば、桃子が勝手に想像力を膨らませて自らの意思を抑えているだけに見えるぞ」

「……うん。 そうするべきだったと、今は思う。 とにかく、わたしはこれからも今までと同じように、学校生活を送っていきたいの」 

「ほう……。 学校が好きか、桃子。 それはいいことだ。 ならば、これからも今まで通り学校生活を送ればいい。 何なら、桃子は魔人討伐に参加しなくてもいいぞ。 桃子がそんなに学校が好きだったのなら、父さんも桃子に魔術会の仕事をさせたりはしない」


 恐らく、家守恭介は嘘を言っていない。

 

「……ううん、それじゃ、駄目なの」

「ふむ……。 今まで通りの日常を送りたいのではないのか、桃子。 父さんはむしろ、桃子に戦って欲しくないとまで思っている。 それなのに、戦うと言うのか?」

「……うん。 平穏な日常を取り戻す為に、戦うの。 誰に頼まれたわけでもなく、わたし自らの意思で。 ……その為には、啓人も必要。 魔術会の魔術師だけじゃ、足りない」


 桃子の言う通りだ。 ただの魔術師が数人集まったところで、魔人には勝てないだろう。 そんなこと、この男だってわかっているはずだ。


「なるほど、確かに魔人を相手にするには魔術会の戦力だけでは足りない。 同じ魔人である人見啓人が戦力になってくれればこの上なく頼りになるだろう。 だが、人見啓人は私にはコントロール不可能な大量破壊兵器のような男だぞ。 今も脅されて、一緒に生活しているのではないか? 脅されて、共に戦うことを強いられているのではないか?」


……とんだ茶番だ。 この男、最初からそのつもりだったのか。 まったく、ふざけてやがる。

 

「ううん、違うよ。 わたしは啓人の監視役……いや、支配者マスターだから。 お父さんは知らないのかもしれないけど、わたしは啓人のことをコントロールできるの。 啓人を思い通りに、動かせるの」


 もちろん、そんなことはない。 俺は桃子の命令通りに動くなんてことはなく、自らの意思に基いて行動する。


「ほうほう……。 それは知らなかった。 成長したな、桃子」

「うん。 わたし、お父さんよりも啓人をうまく扱えるの。 だから、啓人はわたしが有効活用する」


 桃子は今、自分の意思をしっかりと表明している。 

 常に父の言いなりで、そんな家守家から抜け出したい気持ちがありながら、その思いをひたすら自分を磨き上げる努力を続けることで代替的に解消していた彼女が。

 

 そうだ。 本当に、桃子の父は桃子を束縛などしていなかった。

 むしろ、放任主義。 家守家に囚われていると思い込んでいたのは、桃子自身だったのだ。

 

 ただ、自分にとって正しい生き方がわからなかった桃子は、言いなりになってきた。 

 家守家の次女という立場を守ろうとした。

 演技し続けることが、現状の最善策だと信じ込んできた。

 

 今。 桃子は確かに言っている。 

 父に危険だ排除しろだと言われた男を、自分は有効活用できるのだと。 まったく、人をモノみたいに言いやがって。 

 

「そこまで言うならば、仕方あるまい。 私だって、使えるのなら人見啓人の力を使いたいものだからな。 父さんには使えないが、桃子にそれが使えるというのなら、任せようではないか。 娘を危険な目に遭わせたくはないが、娘を信じてやらないで、父親を名乗ることなど出来ないだろう?」


……俺はやっぱり、桃子の親父さんが苦手だ。 この男、どこか憎めない。 それが妙に腹が立つ。

 

「……ありがとう、お父さん」


 結局、家守恭介は最初から、桃子の本心からの言葉を聞きたかっただけなのだろう。

 随分と不器用で、あまりにも遠回りな父と娘のコミュニケーション。 俺は、その手助けをしただけにすぎない。 

 

「じゃあ、わたしは啓人と一緒に戦うから。 もう、帰るね」

「そうか」


 この男と話をするのはとても疲れる作業だったが、重要な情報をたくさん得ることができた。 まだ色々と謎を隠していそうではあるが、もうここに用はない。


「行くか、桃子」


 この場を後にしようと踵を返し、出口へと進む。

 出口へ出る直前、桃子は再び家守恭介に向き直り、

 

「お父さん。 言い忘れていたけど、わたし、好きな人ができたの」


……なんてことを、言い出した。 ……はい?


「そうか」


 と、娘の突然の告白に慌てる様子もなく返答する家守恭介。 それで終わりかと思いきや、

 

「早く孕むといいな」

 

 とんでもない言葉を実の娘に言いやがった。

 

「……きっと、お父さんもその人のことを気に入ってくれると思う」


 桃子はそんな父の発言をナチュラルにスルーして、また発言する。

 

「そうか、早く子を成せ」


 と、言葉を返す恭介。

 

……いや、確かに、「早く孫の顔が見たい」って言葉を直接的な言い方に変換すると、「早く孕め」になるのかもしれないけど……!


「とても素敵な人なの。 わたし、将来はその人と結婚したいと思っているから」

「そうか、早く妊娠しなさい」

「………………」


 これが、家守家父と家守家次女の別れ際の会話だった。

 もしかすると、桃子の親父さんもそれなりに動揺していたのかもしれない。 そう思ったが、俺は何を言うでもなく、スルーすることにした。

 



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