創造主
「教えてくれ……。 俺の世界のことについて、どこまで知っている? あんたは言ったな、知らない空間だったはずの第二世界と。 第二世界の存在を、それまで知らなかったんじゃないのか?」
当然、俺は自分の世界が第一世界の住人によって創られた世界だと聞き、かなりのショックを受けた。 だが、今は狼狽えている場合じゃない。
「……少々ややこしい話になるが、いいだろう。 君のいた第二世界は、私の知っていた第二世界とは大きく変容していたのだよ。 本来、第二世界はもっとセカンドワールドストーリの世界と似通っているものだった。 ゲームの世界がそのまま反映されている、ゲームのような世界といえばわかってもらえるかね?」
ネトゲのような、ネトゲじゃない世界。 本当に、冗談じみた話だと思う。
「……かつて、ある能力者の少女がいた。 間違いなく断言できる。 人類史上、あれほどの能力者は後にも先にも現れないだろう。 文字通り、最強の能力者だ。 彼女の名は、笹倉桜。 今彼女がどこで何をしているのかは知らない。 探そうとも思わない。 彼女はあまりにも危険で、あまりにも恐ろしい能力を持っているのだよ」
この男がここまで言うほどの能力者。 その能力は、一体……?
「笹倉桜。 彼女は、世界のあらゆる法則を捻じ曲げる可能性を持った少女だ。 現に、その影響を私たちの世界は受けている。 人見啓人、君にとってもかなり関係のあることだ」
「………………?」
世界のあらゆる法則を捻じ曲げる可能性……? そして、俺にも関係があることだと?
「……その、笹倉桜って少女の能力は、何なんだ?」
「世界を創る、能力だ」
……言葉を失った。 第一世界と第二世界を繋ぐ扉を生み出す能力とは、スケールが違いすぎる。
「……………………」
「……………………」
俺も桃子も、しばらく茫然としていた。 今日はあまりにも、衝撃的な情報が多すぎる。 俺の脳が、その衝撃的な情報の処理をできていない。
「彼女はおそらく、セカンドワールドストーリーのプレイヤーだったのだろう」
茫然とする俺たちを無視し、恭介は話し続ける。
「彼女はセカンドワールドストーリーのような世界を望んだ。 そして、そのような世界を生み出してしまった。 今から六年前の話だ。 当時、私はまだ《違法点》に属していたわけだが、能力者を欲する《違法点》がそんな強力な能力者を放っておくわけがないだろう?」
当たり前だ。 世界を創る能力。 そんな力をうまく利用することができるのなら、この世界のあらゆるルールをぶち壊すことさえ可能。
「だから私も、彼女の存在やその能力について知っているというわけだ。 笹倉桜本人に会ったことは一回もないがな」
笹倉桜。 そうか、彼女の創り出した世界が、俺のいた世界を……。
「結局、彼女の能力を前に、《違法点》は何もできなかった。 彼女の創造した世界に呑み込まれた者は何人か存在するらしいが、《違法点》に属する者で、まともな人間の姿のまま帰れた者は、誰一人としていなかったのだよ」
「まともな人間の姿じゃ、なかったってことか」
「そうだ。 ……聞きたいかな?」
「……いや、遠慮しとく」
……こいつ、何か楽しそうな顔をしていたぞ。 やはり外道だ。
「とまあ、そんな恐ろしい事実を知りながらも、私は彼女の創った世界に興味を持ち続けた。 彼女の創った世界へと繋がる扉を、生み出せるのではないかと考えたのだよ。 もう一つの世界の力を独占できれば、《違法点》から離脱することさえ可能だと思ったのだ。 私は《違法点》から抜け出したかった……。 幸い、信頼に足る協力者もいたのでな。 《違法点》に属していた時からの知り合いはもちろん、幼い頃からの友人……美野川なんかもな」
あの、地獄のような運転をするおっさんか。 この男、変人で外道だが、不思議と人望はあるのかもしれない。 伊達に魔術会の会長をやっていない。
「さっきも話した通り、私は偶然にも、『扉』を生み出すことに成功した。 その第二世界は、話に聞いていた第二世界とはだいぶ変わったものだった。 おそらく、時間の流れが違っていたのだろう」
「……時間の流れが?」
「そうだ。 この世界の一秒が、あちらの世界の一年に相当する時間だったのかもしれない。 いや、もしかすると、もっと大きなズレがあったのかもしれないな」
時間の流れが大きく異なるから、家守恭介が『扉』を生み出した時にはもう、第二世界は大きな変化を遂げていた。 家守恭介の知っていた第二世界とは変わっていた。 そういうことだろう。
「しかし、私が第一世界と第二世界を『扉』によって繋いだことで、二つの世界の時間の流れは同期するようになってしまった。 この世界での一秒は、あちらの世界でも同じ一秒……。 これが良いことなのか、悪いことなのか、何とも言い難い」
第一世界と第二世界を行き来する者にとっては、時間の流れに差異がないほうが良いだろう。 リアル浦島太郎なんて、勘弁だ。
「……だいたい、第二世界誕生のことについてはわかったよ。 信じられない話ばかりで混乱しているのも事実だけどな」
「つまり、この世には能力者がいて、その中でも一際強力な能力者である少女、笹倉桜の能力により、異世界が創られた。 その異世界は長い時間を経て、本来の形とはだいぶ変容していった。 その世界とこの世界を、お父さんは『扉』で繋いだ。 そして、啓人は『扉』を使ってこの世界へやってきた」
桃子が、これまでの情報を整理し、言葉にする。 改めて聞いてみると、あまりにも非現実的な話だ。 信じたくない。 けど、非現実的な力を持つ俺が、信じないわけにはいかない。
「その通りだ、桃子。 今まで黙っていてすまなかった。 隠すつもりはなかったのだがな」
「………………」
どうだか。 この男、まだ何か隠し事がありそうだ。 これで全て話してくれたと思うことはできない。
「それにしても、俺のいた世界が、能力者によって創られた世界だったとはな。 ってことは……」
「魔術は、能力者の能力によって創られた世界の、産物」
そう考えると、どれだけ笹倉桜の能力が恐ろしいかがわかる。 恐らく、世界を創った笹倉桜本人だって、自分の創った世界のことを全て把握していないんじゃないだろうか。
「そういうことだ。 魔術は、元を辿れば能力者の能力なのだよ」
「……第二世界が能力によるものなら、他にもわからないことや疑問点があるぞ」
「うむ。 人見啓人、君が思い浮かんだ疑問はだいたいわかる。 だがな、実はと言うと、私もこれ以上多くは第二世界について知らないのだよ。 いや、誰にだって知ることは難しいだろう。 私はこの通り、『扉』を管理するだけの身。 今現在の第二世界について一番詳しいのは虚子だろうが、虚子はこちらの世界へ戻ってくる気配がない。 私よりも、君やもう一人の魔人のほうが、第二世界の事については詳しいのではないかな?」
……第二世界が生まれた経緯こそ知っていても、第二世界自体については多くを知らない、か。
「……もう一人の、魔人か……」
「そう、もう一人の魔人だ。 さて、すっかり話が脱線してしまったわけだが、人見啓人、君が話したいことは、もっと他にあるのだろう?」
そうだ。 本来俺が話すつもりだったこと。
もう一人の魔人について。 ……俺がすべきこと。
「結論から言うよ。 俺はあんたに協力したい。 魔術会の戦力として、戦いたいんだ」
「ほう……」
どうして俺が、桃子と二人でここへ来たのか。 その目的を果たす時がようやく来た。




