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能力者


「この世には、能力を持つ人間がごく少数存在する。 信じられないだろうが、確かにいるのだよ」

「……初耳だ」


 少なくとも、俺のいた世界――第二世界には、能力者なんて存在はいなかった。 これは、俺が初めて知る情報だ。

    

「数億と存在する人間の中に、たまに現代の科学では解明不能な力を持った人間がいる。 超能力者と呼ぶのが一番しっくり来るだろう。 生まれた時代や地域によっては、神の生まれ変わりだの、悪魔の子だの呼ばれたり、下手をすれば魔女狩りの犠牲者にもなっただろうな。  もちろん、不思議な力を持つと呼ばれる人間のほとんどは嘘。 デタラメだ。 しかし、本物も存在する」


 本物。 それが、目の前にいるこの男というわけか。

    

「……少し昔の話をしよう。 日本に存在する、能力者についての話だ」


 どうやら桃子も能力のことについては知らなかったようだ。 恭介の言葉を聞き逃さぬよう、真剣な様子で話を聞いている。

 

「能力者は本当に数が少ない。 その上、そもそも能力者が自身の能力に気づいていないことの方が多いんだ。 能力に気づかないまま、一生を終えることが普通」

    

 なるほど、もしかすると俺の通う学校にも能力者がいるかもしれない。 けれど、その人物は能力に気づかないまま今も普通に生活しているかもしれない。 そういうことか。

 

「しかし、ある時、ある能力者の男が現れた。 その能力者の能力は……。 いや、これは話さない方がいいだろう。 お前たち二人があの男に会うことはないだろうが、万が一会った時、危険な目に遭って欲しくないからな。 とにかく、その男は他人の能力に気づくことが出来てしまった。 そして、その男はどんな経緯があったのか私にも詳しくわからないが、能力者を掻き集めてある組織を創り上げ、裏社会に君臨するようになったのだよ」


 能力者を掻き集めて……? 裏社会に君臨……? 現在進行系の話ならば、その組織は今も……。

 

「その男の名は、戸影慎一とかげしんいち……。 能力者集団《違法点いほうてん》の設立者であり、組織のボスだ。 私はかつて、《違法点》に属していた。 何せ、私は能力者だからな」

「お父さんの能力は、一体……?」

「とある空間と空間を繋ぐ、扉を作る力だ。 残念ながら、扉は一度に一つしか維持できない。 例えば、今いるこの場所と桃子が現在住んでいる家までを繋ぐ扉を作り出すことも可能だ。 その扉を使えば、一秒で父さんは桃子の家まで行けるというわけだが……。 私は現在、第一世界と第二世界を繋ぐ『扉』をずっと維持している。 だから、その便利な力を使うことは不可能なのだよ」


 それは良かったと心底思ったのは、俺だけじゃないだろう。 

 どこぞの未来から来た猫型ロボットの秘密道具みたいな便利アイテムが使い放題だったら、俺と桃子の住む家に家守恭介が急にやって来るなんてことがあるわけだ。 想像しただけでも恐ろしい。

 

「ちなみに、扉から私が遠くへ離れすぎると、扉は消える。 便利だが、たくさんの制限を持った能力なのだよ。 この辺りは、設置魔術に似ているかもしれないな」


 今俺と桃子が聞いている話は、重要なことに違いない。 けれど、

 

「……待ってくれ。 新しい情報が多すぎてついていけないんだが……」


 いきなり、能力なんてものがあります。 私には能力が使えます。 能力者集団が存在します。 私の能力はこんなんですと喋られても、すんなりと納得できるわけがない。

 それに、このままだと本来話したかった話ができそうにない。

 

「……ほう。 確かに一度にたくさん話しても理解が追いつかないか。 そうだな、簡潔に話すよう、努めよう。 能力者集団、《違法点》。 私はその《違法点》を抜け出すことにした。 その理由はいくつかあるが、今は省略させてもらう。 重要なのは、理由の一つ。 私はね、たまたま私の知らない空間であったはずの第二世界へと繋ぐ扉を生み出してしまったのだよ」


 今、こうしてこの男が魔術会の会長として目の前にいるということは、当然《違法点》とやらに今はいないということだ。 家守恭介は、《違法点》から抜け出した。

 その理由の一つ。 それが、第一世界と第二世界を繋ぐ、『扉』を生み出したこと。 そう、恭介は話している。

 

「第二世界の力……。 私は何人かの協力者に手伝ってもらい、第二世界を調査した。 第二世界の魔術の力を手に入れた。 ……特に、我が娘ながら、虚子うろこは凄いものだった。 虚子の第二世界への探究心は常軌を逸していたよ。 そして今現在も、虚子は第二世界にいる。 虚子はもう、この世界に戻ってこないだろうな。 まったく、困った娘だ」


 桃子の妹は妹で、度が過ぎたイタズラをするような問題児だったが、桃子の姉はそれ以上のようだ。

 桃子が以前、姉について話していたことを思い出す。 桃子は姉である家守虚子のことが、本当に大嫌いだと言っていた。

……おそらく家守家長女は、桃子が家守家を嫌う一番の原因なのだろうと思う。 このままその姉がこの世界に戻ってこないのなら、ある意味桃子にとっては嬉しいことなのかもしれない。


「第二世界の力を手に入れた私は、《違法点》のみならず、様々な組織に対抗する強大な戦力を保有することに成功した。 抑止力になっているのだよ、魔術の力が。 ……もちろん、他にも《違法点》が私たちに手を出さない理由はあるのだが、それは本筋から逸れるから割愛しておこう」

    

 《違法点》に所属する能力者たちが何人いるのか、どんな能力を使うのかはわからない。 

 けれど、数自体が少ない能力者だ。 戦闘に使える魔術師を一人増やすよりも、戦闘に使える能力者を一人増やす方が遥かに難しいであろうことは、容易に想像できる。

 

「こうして私は、魔術会を創り上げた。 そしてある時、人見啓人……。 君が、偶然にも『扉』を見つけ、第二世界からこの世界へやって来た」

「……そうだな」


 あれは俺にとって、本当に奇跡としか言えない出来事だった。

 

「あの時、私は本当に焦ったものだよ。 死んでしまうとも思った。 けれど君はその力で私を殺すこともなく、交渉をしてきた。 この世界で、生活したいと。 その為にこの世界の知識を……。 この世界で生きる為の、支援をしてくれと」

「………………」

「まったく、君はとんでもない青年だ。 今思えば、あれは脅しでしかない。 脅迫だよ。 武力をちらつかせて条約締結を迫る、強国と同じようなものだ。 私が交渉に応じなかったら、君は私をどうにかしていただろう?」


 どうだろう。 軽く殴るくらいはしていたかもしれないのは否定できない。

    

「……悪いな、それほど俺は必死だったんだ」

「まあ、いい。 と、ここまで私は能力について話をしたわけだ。 こんな話をしたのは他でもない、君にも話してもらう為だ。 君は、魔人や魔物のことについてある程度は教えてくれたが、詳しくは教えてくれなかったな。 無理矢理吐かせるのも不可能。 これでは私の知的探究心は満たされない。 非常にやきもきしていたのだよ、人見啓人。 さあ、話してもらおうか。 話の内容によっては、君を信じるに値する何かがつかめるかもしれないだろう。 何より、君は話す為に、ここへ来た。 そうだろう?」


 もちろんだ。 頼まれなくても、話すつもりだ。

 

「……ああ。 すっかり話が脱線したけど、話したいことがあってここへ来たんだ」


 でも、いざ話すとなると……。

 

「……何から話せば、いいんだろうな」


 迷う。 能力についての話を聞いて、すっかり話そうとしていた内容の順序がぐちゃぐちゃになってしまった。

 

「迷うか。 ならば、私が聞こう。 君はこの世界へ来て、思ったのではないか? 気づいたのではないか? ある、違和感に」

「違和感……?」

「そう、違和感だ。 あまりにも馬鹿げている事実。 君の持っていた常識を根本から否定しかねない、現実に。 第二世界と第一世界はだいぶ雰囲気が違うだの、そんな小さなことではない。 君にとって、あまりにも衝撃的すぎる真実だ」


……そうだ。 俺は、この世界に来て、すぐに衝撃を受けた。 何故なら……。


「……言語が、同じだった。 第一世界の住人であるあんたと、言葉を使って意思疎通することが出来たんだからな」


 第一世界と第二世界の言語は、まったく同じだったのだ。

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