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お化け屋敷

 

 ベランダへ出る。 後ろの方からドンドンと扉を叩く音が聞こえたが、聞こえないフリをした。

 

「幸い、アニメ同好会はすぐ近くみたいだな」

 

 誰かに目撃されぬよう、こっそりとベランダを移動する俺と五木。 

 

「……人見君、もう大丈夫なんですか?」

「ん?」

「またどこか違う場所で休んだ方が……」

 

 そうだった。 俺はついさっきまであまり良くない精神状態だった。 でも、今はすっかり元通りだ。 これならまた、文化祭を楽しめそうだ。

 

「……大丈夫だよ。 たぶん、五木のおかげだ」

「そこはたぶんじゃなくて、わたしのおかげだって言い切りましょうよ!」

「ぐえっ……!」

 

 バシバシと強く背中を叩かれる。 

 その時見た五木の顔は、どこか嬉しそうで、泣き出してしまいそうな顔をしていた。

 

「……よし、覚悟は良いか?」

「……はい」

 

 チラッと中の様子を見た感じ、アニメ同好会に来ている客はいない。 いるのは、アニメ同好会のメンバーと思われる男二人だけだ。

 

「失礼する」

「わわっ!? な、なんだ君たちは!」

 

 ベランダからの来客に腰を抜かしそうになる男二人。 

 一人は細長く、身長が高い。 もう一人は眼鏡をかけていて、やや太っている。 二年生の廊下で見かけたことがないので、三年生だろう。

 

「ここ、展示やってますよね」

「え? してるけど……」

「俺たち、客です」

「ああ、客。 客ね……」

 

 噛み合ってるような、噛み合っていないような会話をして、なんとか追求を逃れる。 正直、ここまでうまくいくとは思わなかった。

 

「えっと、これは……」

 

 五木が展示物を見始める。 俺も何が展示されているのか確認する為、五木の視線の先を追う。

 

「……提供絵?」

 

 そう。 展示されているのは、テレビ放送されてきたアニメの提供絵だった。 プリントアウトして絵画のように展示している。

 

「どうだい、凄いだろう? ここに展示されているのは全部、提供の文字がアニメキャラの目と被っているんだ」

 

 確かに凄い。 けど、どうして文化祭で展示してしまったのか。

 

「こんな偶然あるんですねー……」

「これも、歴代の同好会メンバーがコツコツアニメを録画し、提供までしっかりチェックし続けた成果ってわけさ。 それなのに、この凄さを理解してくれる人はとても少ないんだ」

「は、はぁ……」

「それどころか、最近は提供をチェックしないアニメ視聴者が多いとさえ聞く。 非常に嘆かわしいね。 提供までチェックしてこそのアニメ視聴だと思わないかい?」

「ええ、とても思います」

「おお、わかってくれるか! 素晴らしい。 君たち、二年生かな? 良かったら我々アニメ同好会に入って……」

「あっ、人見君! そろそろ担当の時間ですよ!」

「そ、そうかー。 じゃあここらへんで……」

「ちょ、まっ……」

 

 呼び止める声を最後まで聞くことなく、急いでアニメ同好会を後にする。

 もう少しでアニメ同好会に入会させられるところだった。 危ない危ない。

 

「……ヒヤヒヤしましたね」

「本当にな。 五木、ナイスだったぞ」

「我ながら、今のはファインプレーでした」

 

 危ないところではあったが、空き教室からうまく脱出できたし、ひとまず安心だ。

 

 それからしばらくの間、五木と共に文化部の出し物を見て回り、

 

「そろそろわたしたちの担当時間ですね」

「せっかくだし、一回くらい自分たちのクラスのお化け屋敷を体験してみるか」

「いいですね! 作る側だけで終わるのはもったいないですし、行きましょう!」

 

 と、自分たちのクラスの出し物へと向かうことになった。

 

「あら、人見君と五木さん。 お化け屋敷、入るの?」

 

 受付には、ちょうど女子クラス委員の木下さんが。

 

「うん。 自分たちが作ったのを、一回くらい遊んでみようかなって……」

「それはいいと思うわ。 ……ところで」

「………………?」

 

 木下さんは、神妙な顔で俺と五木を交互に見る。 もしや、空き教室の鍵を閉めて使っていたことを……!?

 

「……二人って、付き合ってるの?」

「二人は付き合ってないよ」

「わっ……!?」

 

 俺と五木が否定する前に、背後から現れた桃子が否定する。

 

「……相変わらず心臓に悪いな」

「お化け役が板についてきたと、言って欲しい」

 

 桃子の姿を見てみると、いつもより肌が白く、口元から血が流れているように見えるメイクがされていた。 

 廃校がテーマなので、衣装は制服のままみたいだ。 派手さよりもリアリティを追求した感じ。

 

「ほら、五木を見てみろよ。 驚きのあまり膝から崩れ落ちそうになっているだろ」

「そそそそ、そんなことありませんよ~~! あ、あははは……」

「五木さん、顔引き攣ってるよ……」

 

 木下さんが半分呆れた顔をして、五木を見ている。 まったく、お化け屋敷に入る前からこれじゃ、これからどうなることやら。

 

「家守さん、あなたはもう担当時間終わったんじゃなかったっけ?」

「そうだけど、木下さんにお願いがあるの」

「……何かしら?」

「啓人と紗羽さんがこれから入る時だけでいいの。 わたしにお化け役をやらせて」

 

 はい……? 一体、何のつもりだろうか。

 

「えっと、私は別にいいけど……。 どうして?」

 

 いいのかよ。 そこは拒否してほしかった。 嫌な予感しかしない。

 

「啓人はちょっとやそこらの仕掛けじゃ何とも思わないに違いないの。 だから、わたしが本気を出す」

「あら、人見君モテモテね」

 

 木下さんは面白いものを見たといったような顔をして、そう言う。 

 意訳すると、「あら、人見君お気の毒に……」だ。 

 

「啓人、そういうことだから、覚悟してね?」

「覚悟って……」

 

 というわけで、俺と五木は特別仕様のお化け屋敷に入ることに。 

 特別仕様といっても、桃子がどこかで驚かせに来るだけではあるが、それが何よりも恐ろしい。

 

「それにしても、中々のクオリティだな」

「わたしたちがこれを作ったんですよね……。 なんか、不思議ですね」

 

 ゆっくりと先へ進んでいく。 

 窓は黒いビニールで覆われ、カーテンも閉められているので、部屋には外からの光が極力入らないようになっていて、教室内は真っ暗だ。 

 その為、入場時に懐中電灯が手渡されている。 冷房がちょっと効きすぎているのも、お化け屋敷らしさを醸し出しているような気がする。

 

「なんか、昼なのに真っ暗な場所にいると、テンションあがるな」

「あっ、わかります! 小学生の頃、部屋をわざと暗くして、懐中電灯をこうやっ……ひぎぃぃぃぃぃ!?」

「ひっ……!?」

 

 急におかしな声で叫びだす五木。

 

「ど、どうした……?」

「な、な、何か……。 何か、冷たくてぬるっとした物体が、首にぶつかって……!」

「ぶつかって……? このお化け屋敷、客に触れるのは禁止なはずじゃ……」

 

……いや、桃子ならやりかねない。 これは間違いなく桃子の仕業だ。 でも、一体何を……?

 

「ひゃああああ!? こ、今度は太ももに……! 太ももに冷たいのが! 当たり続けて……!」

「ふ、ふともも……!?」

 

 やましい気持ちなどはない。 原因究明の為だ。 決して、やましい気持ちなどない。 やましい気持ちなどあるわけがないんだ。

 というわけで、懐中電灯を五木の太ももの辺りに向ける。 そこで目にしたものは……!

 

「こ、こんにゃく……」

 

 何でだよ。

 

「えっ、こんにゃく、ですか……? 通りでこんにゃくっぽい感触だと……」

 

 よく見てみると、こんにゃくが糸で吊るされて、ビターン、ビターンと五木の体に当てられている。

 

「ひゃっ……! この感触……。 もう、わたし、駄目……」

「おっ、おい……!」

 

 五木、まさかのこんにゃくでダウン。

 

「クソ……!」

 

 これは、俺も気を引き締めなければ。 桃子のことだ、俺にも何かしら、仕掛けてくるに違いない。

 

「五木、起きろ! 早くここから抜け出すぞ!」

「うう……。 こんにゃく……」

 

 ダメだこりゃ。

 

「……五木。 お前のことは忘れない。 俺は先を急――」

「ふぅっ……」

「~~~~~~ッ!?」

 

 いきなりだった。 耳の中に熱い吐息を吹き込まれ、ゾクゾクとした感覚が全身を駆け抜ける。 これは、なんか……ヤバイ。

 

「桃子、いい加減に……」

「ふーっ……」

「おうふっ!!」

 

 ビクンビクン。 桃子は再び俺の耳元に息を吹きかけてきた。 我慢できそうにないぞわぞわ感。 体の力が抜けていく。

 

「マジで、やめ……!」

「……あむっ」

「――うッ!?」

 

 ついには、耳を甘噛みされる。 渾身の一撃。 何とか体を支えていた足腰が撃破される。 この脱力感、中々味わえるものではない。

 

「ギ、ギブアップ……」

 

 その後の記憶は曖昧で、わかっているのは、桃子を前に俺と五木は敗退したということであった。

 



「桃子、お前な……」

「許して欲しい。 わたしも、啓人との思い出、作っておきたかったの」

「え……?」

「ちゃんと作れて、良かった。 もう、邪魔はしないから」

「えっと……?」

 

 そのまま去っていく桃子。 やはり、様子がおかしい。 引っかかりはあるけれど、五木をほったらかしにするわけにもいかない。

 

「五木、もう大丈夫かー?」

「はい……。 まさか、こんにゃくに嬲られるだなんて思いませんでしたよ……」

「そりゃ、誰だって思わないだろうな。 さて、そろそろ担当の時間みたいだし、準備しに行くとするか」

「ですね!」

 

 それからはあっという間に時間が過ぎていった。 

 なんでも、俺のクラスのお化け屋敷は随分と好評らしく、来客が後を絶たないのだ。 

 なので、俺も五木もボーッとしている暇などなく、与えられた役割を忙しなく遂行することに。


「つ、疲れました……」

「おつかれさん。 お化け屋敷、大成功だったな。 五木は結構貢献度高いんだから、誇っていいぞ」

「えへへ。 じゃあ、遠慮なく誇らせてもらいます!」

 

 そして、文化祭は無事終了し、クラスの集合写真を撮ったりなんやかんやして、解散となった。 

 

 今更蟻塚が来ていないことに気づいたが、元々来る気配などなかったので、気にしないことにした。

 

「五木、帰るぞー?」

「はい……」

 

 支度を終え、五木の元へ向かう。 五木は、どこか寂しげな眼差しで夕暮れに染まる校舎を眺めていた。

 

「文化祭、終わっちゃったな」

「ですね……」

「俺はさ、五木や他のみんなほど熱心に文化祭準備に取り組んでなかったけど、それでもこうやって、時間をかけて作り上げたものが役目を終えたのを見ると、何かこう、込み上げてくるものはあるよ」

「………………」

 

 五木は黙ったまま、俺の方を見る。 何か言いたそうだが、言えずにいる様子だ。

 そんな五木に俺はどんな言葉をかけてやればいいのだろう。 正解なんてわからない。 

 けれど、希望のある言葉が良いなとは思った。 だから、

 

「……また来年も、一緒に回れるといいな」

 

 と、叶えられるかわからない望みを伝えた。

 

「――! はい、もちろんです!」

 

 俺の言葉を受け、五木は笑顔を見せてくれる。 安心する。 

 


 帰り道、俺はあまり喋らなかった。 

 けれど、悪い思考に取り憑かれることもなく、どこか清々しい気持ちが俺の胸の中を満たしていた。

 

「じゃあ、また来週な」

「はい! 今日は楽しかったです!」


 こうして俺は五木を家まで見送り、五木と別れた。

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