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ライブ

 

「ちょうど今、軽音楽部がライブをやってるみたいですね。 行ってみますか?」

 

 ライブか。 知識としてはあっても、実際にどんな感じなのかはさっぱりだ。

 

「行ってみるか」

「まだ始まったばかりみたいですよ、急ぎましょう!」



 

 体育館へと近づくほど、聞こえる音が大きくなる。 当然騒がしさも増してくるわけだが、曲がハッキリと聞こえてくるようにもなり、どんな曲を演奏しているのかがわかってくる。

 

「お……」

 

 体育館の中に入る。 凄い熱気だ。 体育館内の誰もが、ステージ上にて奏でられる音楽に釘付けになっている。 鳴り響く大音量が、俺の体を突き抜けていくのを感じる。

 

「凄いですね……」

「ああ……」

 

 この演奏のレベルがどれほどのものかはわからない。 もしかすると、下手クソなのかもしれない。 

 それでも、俺は今、この演奏に感動していた。 

 

 演奏者を見る。 

 ギターを弾きながら歌っているのは、三年生だろうか。 眼鏡をかけていて、自然な髪型の、一見おとなしく知的そうな男子生徒だ。 

 しかし、人前でも臆することなく歌い、それでいてギターも見事に弾いている。

 

  ドラムを演奏しているのは、二年生だろう。 廊下ですれ違ったことがある。 屋外のスポーツでもやっているのか、日焼けした肌が特徴的な、チャラチャラとした雰囲気の男子生徒だ。 

 だが、ドラムを一心不乱に叩き続けるその姿からは、普段のチャラチャラとした感じは全く感じない。 

 

 ベースを演奏しているのは、たぶん三年生だろう。 茶髪に染めた髪の毛が目立つ、イケメンだ。 ただでさえモテそうなのに、こんなライブなんかしたら余計モテてしまいそうだ。

 

 キーボード担当も、おそらく三年生だ。 紅一点。 今演奏している人の中で、唯一の女子。 天然パーマなのか、もじゃもじゃとした長い髪の毛をしている。 鋭い目つきで、一匹狼といった印象だ。 偏見だが、女子にモテそう。

 

 この四人それぞれが、普段は俺や五木と同じように学校生活を送っている。 

 もちろん、同じようにといっても、学年やクラスの違いや、構築している人間関係や部活動に加入しているか否かによって、その中身は大きく異なっていくわけだが、それはそれとして、一日の大半をこの学校で過ごしているのは事実だ。

 

 そのはずなのに、今演奏している四人は、まるで別世界の住人だ。 

 一生懸命で、何かを伝えようとしていて、何かを伝えられずにいる。 伝えたい想いを伝える為に、必死に何かを掻き集めている。

 

 彼らはただ、音を出しているだけじゃない。 それは、ここにいる観客全てが皆、感じていることだろう。

 

 正直言うと、俺にとって目の前の光景は眩しすぎた。 

 彼らはきっと、普通に話してみるとたいしたことないのかもしれない。 けれど今、俺の全身に鳥肌が立っているのは彼らのせいだ。 彼らの演奏に、俺は圧倒されていた。



 

「……結局、最後まで聞いちゃいましたね」

「凄い迫力だったな。 まだ体が痺れるような感じがする」

 

 演奏を聞き終え、時刻はちょうど正午。

 

「昼食はどこで食べようか?」

「そーですね……。 あっ、さっそくこれを使いましょうよ!」

「これ?」

 

 五木が手にしているのは、一枚の紙切れ。

 

「……ああ、ゲームの景品で手に入れた割引券か」

「はい! 発案者も中々賢いですよね。 飲食をやってる他クラスと組んでるんでしょうね、きっと」

 

 割引券が手に入れば、使いたいのが人間の心理というもの。 

 割引券が存在しているのなら、入手したいと思うのも、人間の心理というものだ。 

 娯楽系の出し物と飲食系の出し物をしているクラスが協力しあっているというわけか。

 

「えっと……。 冷やしイタリアン五十円引き?」

「みたいですね。 冷やし中華ではないんですね」

 

 冷やしイタリアン。 一体どんな料理だろうか。


「いらっしゃいませー!」

「お……」

 

 店へ着く。 周りを見た感じ、冷やしイタリアンは何種類かあるようだ。

 

「注文が決まりましたら声をおかけくださーい!」

 

 えくぼの可愛い女子生徒から受け取ったメニュー表を見る。 

 どうやら、トマトソースとホワイトソースの二種類の冷製パスタと、バニラジェラートの計三品があるようだ。 飲み物もメニューに書かれている。

 

「五木は何にするか決めたか?」

「はい。 わたしはホワイトソースにしようかと……」

「俺はトマトソースにするかな。 じゃあ、店員を呼ぶか」

 

 店員を呼び、注文をし終え、料理が来るまでのんびりと待つことにする。

 

「それにしても、教室内は涼しいな」

「冷房効いてますからね」

 

 教室の外が暑かっただけに、教室内の涼しさがありがたい。 ひんやりとした空気が、汗で湿った背中を乾かしてくれる。


「昼食ついでに、ちょっとここで休憩するか」

「ですね。 わたしたち、午前中だけでも結構な数の出し物を制覇しましたからね」

「午後はのんびりと文化部の出し物でも見て回るか」

「そうしましょう!」


 パンフレットを見ながら午後はどこから回るかを話し合ったりしているうちに、注文した品が運ばれてくる。 あまり期待はしていなかったが、思っていたよりも美味しそうだ。

 

「夏は冷たい麺類が美味しいですね!」

「そーだな。 これからどんどん暑くなるだろうし、こういう料理を作ってみるのもいいかもな」

「じゃあ、今度冷やしうどんを教えますよ!」

「冷やしうどん?」

「胡麻ダレでもめんつゆでも美味しいし、梅肉を使っても美味しいですね。 後、人見君が食べてるトマトソースの冷製パスタみたいに、トマトやオリーブオイルで味付けしたうどんもきっと美味しいはずです!」

 

……話を聞いただけで涎が。

 

「色々な味を楽しめるってのはいいな。 一週間うどん生活ができそうだ」

「うどんばっかり食べるのは、カラダに悪いんですよ」

「え、そうなの?」

「た、たぶん……」

 

 自信はないようだ。 まあ、どんな食べ物も食べ過ぎはよろしくないのだろうとは思う。 だが、


胡乱うろんな情報に踊らされて、食べたいものを我慢するわけにはいかないな」

「うどんだけに、ですか?」

「……一応言っておくが、俺はそんなつもりで胡乱って言葉を使ったわけじゃないからな」

「大丈夫です。 わかっていますよ」

 

 と言って、ニヤニヤしながら俺の顔を見る五木。 うん。 こいつ、俺を馬鹿にしてやがる……!

 

「……そういえば、飲み物頼んでなかったな」

「あ、すっかり忘れていましたね……。 人見君、何を頼みます?」

「そうだな、ウーロン茶でも頼もうかな。 …………あっ」

 

 言った後に気づく。 断じて狙って言ったわけではない。


「……大丈夫です。 わかっていますよ、ええ。 わたしはちゃんと、わかっていますから」

「なんかもう、許してくれ……」


 穴があったら入りたい。 そう思った昼の出来事であった。

 

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