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五木紗羽は勝負する

 

 A組とB組の生徒が教室内に集まり、よくある学園青春ドラマのように円陣を組んで団結力を確かめ合ったりしている間に、文化祭開始の時間がやってきた。

 

「さて、まずはどこへ行こうか?」

「うーん、そうですね……」

 

 穴が開くんじゃないかと思うほど、パンフレットを熟視する五木。

 

「ここなんてどうですか?」

「……輪投げ?」

 

 パンフレットを見てみると、輪投げはどうやらこの階にあるようだ。 結構近い。 


「ここか……」

「みたいですね」

 

 輪投げをやっているらしい教室入り口のところに受付の女子生徒がいる。 

 受付の生徒は、まだあまり人が来ていないのか、退屈そうに欠伸をしていた。

 

「あの……」

「あっ、はい! なんでしょう!?」

 

 受付は、虚を突かれたといった様子。 不意打ちしたつもりは微塵もないのだが。

 

「ここ、準備中ってわけじゃないよね?」

「はい、もちろん! 一回五十円で輪を三つ投げられますよ」

 

 というわけで、五十円を支払い輪投げをやることに。

 

「中学生以上はここの線よりこっち側から投げることになっていますので。 あと、輪が一つも入らない場合でも参加賞はもらえますので!」

 

 受付が説明を始める。 参加賞。 きっと駄菓子か何かだろう。


「ルールを説明するとですね、1~9の数字の的棒に向かって輪を投げるわけなんですが、同じ数字の的棒に三つの輪が入れば一等、二つの輪が入れば二等、一つの輪が入れば三等となります」

「数の大小は関係ないってことか?」

「はい。 参加者もすぐに結果がわかるよう、わかりやすさを重視しているので。 また、的棒に輪が縦、横、斜めの一列に揃った場合も一等扱いになるので、二投目で一投目とは別の的棒に入ったからといって、一等が取れないというわけでもないんです。 諦めずがんばってください!」

 

 なるほど。 これなら外部からやってきたちびっこも楽しめそうではある。

 

「人見君、せっかくですし、勝負をしましょう!」

「勝負?」

「はい。 わたし、こう見えてもこういうゲーム強いんですよ?」

 

 五木は随分と自信に満ち溢れた表情をしてらっしゃる。 ここは乗ってやろう。

 

「そうだな。 どうせなら、勝負するか。 負けた方は昼飯を奢る、なんてのはどうだ?」

「いいですね! 何かを賭けてこその勝負ですよ!」

 

 確かに五木の言う通りだ。 何かを賭けると賭けないとでは、勝負に対する思いも違う。 負けたら奢るとなったからには、この戦い、負けるわけにはいかない……!

 

「先、どっちがやる?」

「人見君が先やっていいですよ。 強者は先行を譲るものなので!」

「じゃあ、遠慮なく……」

 

 係員から三つの輪を手渡される。 輪投げは一度もやったことはないが、名前の通り輪を投げて的棒に入れるだけならば、そう難しくないはずだ。

 

 第一投目。 狙いはド真ん中5番の的棒。 真ん中を狙えば、力加減を誤っても他の的棒に入る可能性が高い。

 

「あれ……?」

 

 と思っていたが、これは案外難しい。 想定内ではあるが、加減を誤り、輪は狙っていた的棒を飛び越えてしまう。 かといってその奥の的棒にも輪が入ることはなく、的棒に弾かれた輪が虚しく床に転がり落ちる。

 

「思っていたより難しいな」

「最初はそんなものですよー。 さあ、二投目を!」

 

 急かす五木。 いつもと比べてテンションが高い。

 

 言われた通り、二投目の準備をする。 一投目で失敗こそしたが、投げた輪がどのような動きをするのかだいたいはわかった。

 もっと弱く投げよう。 輪を投げる高さも少し上げよう。 狙いは先程と同様、5番の的棒。

 

 いざ、二投目。 片手に持った輪を、優しく投げる。


「よし!」

 

 狙いは的中。 二投目の輪は見事に5番の的棒に入っていた。

 

「中々やりますね、人見君」

「この勝負、負けるわけにはいかないからな」

 

 調子に乗りそうな気持ちを抑え、三投目の準備をする。

 二投目の感覚を忘れずに。 俺の放った輪が綺麗に弧を描き、的棒に吸い込まれていくのをイメージする。

 

 いざ、三投目。 輪に勝利への執念を乗せて、放つ。

 

「――よし!」

 

 三投目の輪はイメージ通り、5番の的棒へと入っていった。 

 二投目と同じ的棒に輪が入ったことで、俺は二等の賞品を貰えるというわけだ。


「これで、五木は二等以上じゃないと俺に負けというわけだ」

「そうですね。 元から一等を狙うつもりでしたけど、これは燃える展開ですね!」

 

 俺の結果を見ても全く揺るぎないその自信。 これは、本当に……!

 

「あれっ……?」

「………………」

「あれれ……?」

「……………………」

「あは、あははは……」

「…………………………」

 

……弱かった。 まさか、一つも輪が入らないなんて。 

 五木は、三等どころか参加賞止まりだ。

 

「さっきまでの自信は一体何だったのか」

「……じ、自分を信じてやらないで、他人を信じることなどできますでしょうか!」

 

 意味不明である。

 

「も、もう一回勝負です! 今のは準備運動だったのですよ」

 

 どこのバトル漫画だよ。 でも、まあ……。

 

「わかった。 もう一回やろうか。 俺もどうせなら一等を取ってみたいし」

 

 断る理由も特にない。 ここは五木の望みどおり、もう一回勝負してやろう。

 

「ふふふふふ……! 人見君は後悔することになるのです。 わたしの真の実力を前に……!」

 

 二回戦目。

 

「後悔することになったのは五木だったな」

「ううう……!」

 

 俺が一等。 五木が三等。 一回戦目より互いに成績を伸ばしたものの、俺の勝ちには変わりない。

 

「じ、実はですね……。 わたし、輪投げよりも射的の方が得意だったんです」

「ほう」

「というわけで、次は射的で勝負です! ツインテールのガンマンと恐れられたわたしの実力、見せてあげます」

 

 何だその微妙すぎる二つ名は……。

 

 とにかく、輪投げは俺の勝利に終わったので、射的の出し物をしている教室へと移動する。

 



「今度はわたしから始めますね!」

「ああ」

 

 射的。 コルクの玉で景品を撃ち落とし、入手するといったあれだ。 狙った場所に何かを飛ばすという点で、さっきの輪投げと似ている。

 

「先にあのキャラメルを撃ち落とした方が勝ちです!」

「キャラメル……?」

 

 五木の構える射的銃の銃口が向けられた先を見ると、そこには手のひらサイズほどのキャラメル箱が。 他景品と比べると、撃ち落とすのは簡単そうに見える。

 

「……ちょっと待て。 先に落とした方って、そのキャラメル箱を撃ち落とすのはそんなに難しくないんじゃないか?」

「ふふ……。 気づいてしまいましたね? わたしが今、そのキャラメル箱を撃ち落としたら、わたしの勝利ということですよ!」

 

 なんてメチャクチャなルール。 これは酷い。 だが……。


「そうか」

「えっ……?」

「それくらいのハンデはくれてやるよ。 まあ、俺、勝者だし。 勝者の余裕ってやつ?」

「むむむ……! 人見君は眠れる獅子を起こしてしまったことに後悔するだろう……」

 

 五木の眼つきが変わる。 が、五木はせいぜい昼寝をした子猫だろう。 起こしたところで何もない。

 

「一発目、いきますよ!」

 

 カン、と高い音が鳴る。 果たして、発射されたコルク玉は……。

 

「あうっ!」

 

 どうしてそうなった。 

 コルク玉は五木のおでこに直撃していた。 放たれたコルク玉がどこか硬い場所に当たって反射したのだろう。

 

「大丈夫ですか!?」

「は、はい……」

 

 係員に心配される五木。 確かに、目に当たっていたら危なかった。 ちょっとした問題になりかねない。

 

「五木、あんまり無茶はするなよ? さて、俺の番だな」

 

 おでこを負傷した五木には悪いが、俺も負けてやるつもりはない。

 

「よし……」

 

 狙いを定める。 弾が当たっただけでは景品が落ちない場合もあるだろう。 だから、どこに当たったら景品が倒れるのかを考える。 気分はスナイパーだ。

 

 引き金を引く。 カン、と高い音が鳴り、勢い良く飛び出したコルク玉がキャラメル箱に直撃する。

 

「……勝ったな」

「そ、そんな!」

 

 見事、キャラメル箱を撃ち落とす。 輪投げよりも簡単だった。

 

「また俺が勝ってしまったな」

「ぐぬぬ……! まだです、まだわたしは戦えます! 射的はもう止めです。 今度は……」

「まだやるのか……」

 

 まあ、色々と遊べていいが。

 

 次の勝負も、

 

「つ、次は……」

 

 その次の勝負も。

 

「わたしが一番得意とするこれで……!」

 

 次の次の勝負も俺が勝ち。

 

「つ、次が最後です! 最後はなんと! 獲得点数が一万倍になります!」

「点数制だったっけ……」

 

 しかし、そんなバラエティ番組お約束の得点一万倍設定も虚しく、五木は敗退し、


「で、点数が一万倍になったらしいけど、五木は俺に一万回分奢ってくれるということでいいのかな?」

「……リ、リボ払いで……」

「それはやめよう」

 

 とまあ、無事? 俺と五木の勝負は終わり。

 

「普通に今日の昼飯を奢ってくれるだけでいいからな」

「はい……。 まだお昼までは少し時間がありますね」

「そうだな。 ……ん?」

 

 何やら体育館の方から音楽が聞こえてくる。 バンドか何かが演奏しているのだろうか。

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