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人見啓人と文化祭

 

 文化祭当日。 天気は快晴。

 

 慌ただしく準備をする生徒たちを尻目に廊下を歩き、非常階段の踊り場へと向かう。

 

「やっぱりここにいたか」

 

 勇人は、踊り場の手すりにもたれかかり、外を眺めていた。

 

「人見か。 どうよ、教室の様子は」

「みんな暇そうにしてたぞ。 後は最初のお化け役がメイクをしてもらうくらいだ」

「なら、しばらくここにいても問題ねーな」

「いや、問題あるぞ。 勇人、お前確か、一番最初の時間帯担当だったよな。 しかも、お化け役で」

「あれ、そうだったかぁ? 知らねーな」

 

 こいつ、惚けてやがる。 この期に及んでサボる気マンマンだ。

 

「……俺は勇人の味方だ。 が」

「が?」

「勝機のない戦いはしない」

「ん……?」

 

 非常階段の踊り場は、俺と勇人二人の溜まり場になっている。 あくまで溜まり場。 隠れ家ではない。

 

「あーっ! やっぱりここにいた!」

「げっ……」

 

 くるぶしソックスの人が踊り場に乱入。 名前は確か……、高城たかぎさんだったような。

 

「人見君はまだいいとして、鎌桐君は最初から出番あるんだから、こっち来なきゃダメだよ! ほら、早く、早く!」

 

 高城さんに腕を引っ張られる勇人。

 

「わ、わかったって……。 逃げねーから引っ張るな!」

「私は前科がある者には厳しいのです!」

「俺は凶悪犯か何かかよ……」

 

 助けてやりたいが、自業自得だ。 黙って見送ってやろう。


「…………さて」

 

 ここに一人でいても仕方ない。 これからどうしようか。

 

 文化祭はまもなく開始される。 パンフレットも既に配布されており、持っている。 だが、一人でブラブラと遊びまわるのは流石にキツイ。

 

「……五木でも誘うか」

 

 桃子を誘っても良かったが、桃子はここ最近、様子がおかしい。 どこか、俺に対して緊張しているような感じだ。

 

 何事も卒なくこなしてしまう家守桃子。 彼女は不幸にも、一人で考え、一人で行動し、一人で解決してしまうことが多い。

 

 そんな彼女が、どうにもならない困難に相対しているのだとしたら?


……もう、わかりきっていた。 頼ることの下手な桃子が、一人で悩み、一人で色々な想いを抱え込んでいた場合、これからどうなるのか。

 

 文化祭が終わったら、ちゃんと桃子と話してみよう。 そう考えながら歩いていると、

 

「あっ、人見君」

「五木。 もう準備は終わったのか?」

 

 お化け屋敷と化した教室内にて、五木を発見する。 ぴょこぴょことツインテールを揺らしながら寄ってくる。

 

「はい! それはもう、完璧に! 我ながら、良い仕事をしました」

 

 五木が自信たっぷりに言うだけはあって、二年A組とB組合同のお化け屋敷のクオリティは中々高い。 全国の高校の中でも、上位の方なのではないだろうかと思ってしまうほどに。

 

 このお化け屋敷のテーマは廃校。 実際に学校の教室を使っているだけあって、リアリティがある。 外装、内装共に、非常に凝っており、うまく古びた建物の雰囲気を出している。

 そして、ところどころに散りばめられた、ホラー要素。 何を参考にしたのか、妙にリアルな血痕が至る所に描かれているのであった。

 

「お……」 

 

 看板に描かれた、制服を着た幽霊の絵が目に留まる。

 

「この絵を描いたのって、五木?」 

「そうですよー」

 

 やはりそうだった。 準備期間中に五木が絵を描く仕事をよくしていたのを、よく見かけていた。 この看板の絵も描いていたのか。

 

「……上手いな。 中学の時、美術部に入ってたとか?」

「いえ、美術部に入ってたわけじゃないですよ。 ただ、昔から絵を描くのが好きで……」

 

 と言って、恥ずかしがり俯く五木。

 

「ああ、だからか。 部屋にスケッチブックがあったのは」

「へ? スケッチブック……?」

「ほら、本棚のところにある……」

「ま、まさかっ! 見たんですか、あれを!?」

 

 この慌てっぷり。 見られてはマズいものがあのスケッチブックには描かれているのか?


「い、いや……。 中身を見てはいないんだけど……」

「そうですか……。 あれを見られるのはちょっと……」

「ちょっと?」

「恥ずかしい……」

 

 恥ずかしいだけかよ。

 

「五木の絵は上手なんだから、他人に見られても恥ずかしくないだろ?」

「そんな! わたしなんてまだまだですよ……」

「そりゃ、上には上がいるだろうけど、五木は充分絵が上手な方だと思うけど?」

「……わたし、本気なんです」

「本気?」

 

 真剣な面持ちで、こちらを向く五木。

 

「はい。 わたし、ちょっと絵が上手なくらいじゃダメなんです」

「えっと……? まさか、将来絵を描く仕事にでも就くつもりなのか?」

「はい……」


 自信があるのか、ないのかわからない返事。 

 要するに、五木の将来の夢は、まだ具体的なカタチを持っていないんだろう。 単純に、絵を描きたいという気持ちにより、大雑把な方向性だけが決まっているといった感じか。

 

「絵を描く仕事っていったら、何だ? 漫画家とか?」

「漫画家も興味ありますねー」

「アニメーターに、イラストレーター」

「も、ありますね」

「詳しいことはわからないけど、どれも相当厳しい世界だと聞くな」

「らしいですね~……。 あははは……」

 

 笑うしかない。 涙目になる五木。

 

「でも、本気なんだな」

「はい……。 自信はないですけど……。 一度きりじゃないですか」

「一度きり?」

「人生です。 わたしという人間の人生は、一度きりなんですよ? だったら、例え困難な道でも、挑戦してみなきゃなって」

「やらない後悔より、やる後悔ってやつか」

「そうです!」

 

 やらない後悔より、やる後悔。 考え無しに何でも経験すればいいとは思わないし、やらない方が明らかに良い場合だってある。

 

 今回の五木の場合、どうだろうか。 

 具体的なカタチを持っていない、将来の夢。 絵を描くことが好きで、とにかく絵を描く仕事をやってみたいという気持ちだけはある状態。

 

 ただ好きなだけなら、趣味でもいい。 自己満足の世界で完結すればいいし、それが時に自己満足だけじゃなく、何か大きな結果を生む可能性だってあるかもしれない。 今はインターネットを使えば、容易に自身の描いた絵を発表できるだろうし。

 

 絵を描く仕事に就きたいと言った五木。 ただの趣味で終わらせたくない強い気持ちがあるのだろう。 

 それについて、詳しく掘り下げても良かったが……。

 

「応援するよ」

「へ?」

「五木の将来の夢。 何か手伝うってわけじゃないけど」

 

 今はとにかく、見守っていよう。 俺が偉そうに何かを言っても、仕方がない。

 

「人見君が応援してくれるだなんて、心強いです! わたし、頑張りますよ!」

 

 やる気に満ちた五木の表情を見て、ついほっこりする。 五木みたいな人間の努力は報われて欲しいものだ。


「……っと、本来の目的を思い出した。 五木は俺と同じ時間帯担当だったよな?」

「そうですね、一番最後の時間帯です」

「せっかくだし、担当の時間まで一緒に文化祭を見て回らないか?」

「もっ、もちろんです! わたしもちょうど、それを言おうと思っていたところです!」

 

 良かった。 これでとにかく、ソロプレイは免れた。

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