表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/189

魔物の本質


「関与していないけど……? 俺が関与していそうな情報でもあったのか?」


 冷静に、桃子の問いに答える。 

 疑われるのは決して良い気分ではないが、桃子の立場上仕方ないことだと割り切る。

 

「予想通り、あの事件には魔術が大きく関わっていたの。 犯人が魔術を使っていたとの報告があったわ。 魔術会の人間じゃないのに……」

「……それは不可解だな。 犯人は普通に義務教育を受けて、高校に進学し、就職していた人間だったんだろ? どうやって、魔術を……」

「それが、聞いた話によると、誰かに力を与えられたと言ったらしいの。 しかも、魔術だけじゃない。 魔物と、それを操る力も持っていた」

「……なんだよ、それ。 ますます訳がわからないな」


 人間には魔術こそ使えても、魔物を操る力は使えなかったはずだ。 

 もしかすると、俺が知らないだけで可能だったというのか。

 

「ねぇ、啓人。 お願い……。 知っていることがあるのなら、全部、教えて欲しいの……!」

「……桃子?」

 

 目の前の桃子の様子に、つい動揺する。 

 いつも落ち着いている桃子が、焦りを見せている。 

 そんな桃子を見ていると、こっちまで落ち着かない。

 

「……わかったよ。 事件について知っていることってよりは、今聞いた情報から推測できることになるけど。 それでいいか?」

「……うん」

「ここで立ち話するのもあれだし、リビングの方へ移動しよう」

 

 と言って、リビングの方へ移動する。




 学校ではいつも通りに見えて気づかなかったけど、桃子も家守家次女という立場上、結構大変なことになっているのかもしれないなと思う。

 

 自称監視役、か。 

 カタチだけの、茶番じみた関係。 それで俺たちは幸せだったけど、カタチだけじゃ許されない状況になってきているのかもしれない。

 

 桃子だって、きっと俺を信用したいはずだ。 

 でも、信用できない何かがある。 

 その何かがわからない限り、疑いが晴れることはない。 まったく、俺にとっても甚だ迷惑は話だ。

 

……俺もそろそろ、動き出す必要があるみたいだ。


「一応言っておくけど、さっきも言った通リ、桃子から聞いた情報から、俺の知識を総動員してわかることだけを話すんだからな? あんまり期待しないでくれよ」

「ということは、本当に啓人は、事件とは……」 

「無関係だよ。 いや、まったく無関係とは言えないのかもしれないけど、少なくとも、俺が直接何かをしたってことはない」

「……………………」

 

 しまった。 こんな面倒くさい言い方をすると、怪しまれるに決まっている。

 

「……信じられないか?」

「わからない。 まだ、わたしには知らないことが多すぎる」

「……わかった。 とりあえず、話を続けるよ」

 

 さて、何から話そう。 

 それにしても、こんな風に面と向かって話すのは、何だか恥ずかしい。

 

「そうだな、まず、魔物のことについて話すよ」

「……うん」

「いつからか噂になってる、化け物目撃情報ってあるだろ? あの化け物の正体も全部魔物だ。 間違いない」

「……じゃあ、その噂に出てくる化け物と、犯人が操っていた魔物は、同一の存在なの……?」

「恐らくな。 俺はその犯人がどんな魔物を使っていたのか知らないし、ネット上のあのぼやけた画像くらいでしか魔物の姿を確認していないが、そう考えていいはずだ。 その理由もちゃんと話すよ」

「うん……」

 

 時計を見る。 まだ、午後十時になったばかりだ。 

 さて、話が終わるのは何分後になるのやら。

 

「何故ならな、魔物ってのは本来、手当たり次第に人間を殺す存在なんだ。 目撃者が複数人いるって話だけど、被害者が出ていないのはまずおかしい」

「人間を、殺す存在……?」

「別に、主食が人間ってわけじゃない。 食べる為に殺すわけじゃないんだ。 言ってしまえば、魔物は人を殺す為に生まれた生物だ」

「じゃあ、何でその魔物が、人に操られているの……?」

「……そこは俺もわからない。 俺がわからないだけで、実は人に魔物を操ることができるようになる方法があるのかもしれないけどな。 とにかく、だ。 犯人は、誰かから魔術と魔物と魔物を操る力を与えられたというわけだ。 今回、特に考えなきゃいけない問題は、三つだ。 その力を与えた者の正体と、与えた方法と、力を与えられた人の数」

「力を与えられた人の、数……?」

「ああ。 だって、そうだろ? 他にも同様に力を与えられた人物がいてもおかしくない。 そこんところ、どうなんだ? 犯人である薊海里は、魔術や魔物のことについてどれくらい知っていたんだ?」


 桃子は色々と話を聞いているはずだ。 直接事件に関与していなくても、事件についての情報は収集済みだろう。


「……聞いた話によると、ほとんど知らなかったって……。 本当に、ただ力を与えられただけみたい」

「魔術会の人間でもなければ、魔術も魔物も知らない一般人だった男が力を得たんだ。 力を得るのに、特別な条件がありそうな感じではないな」

「そんな……! それじゃあ本当に、他にも力を与えられた人間がいるかもしれないというの……!?」

 

 動揺を隠せない桃子。 

 俺だって、こんな可能性考えたくない。 だが、こう考えるしかないだろう。 薊海里と同じように力を得た人間は、他にもいる可能性が高い。

 

「あくまでいるかもしれないというだけだが、いる可能性は非常に高いな。 桃子なら知っていそうだが、ここ最近、この地域で巨大カマキリを見たって噂が広まっているらしい。 その巨大カマキリってのも、魔物だろうな」

「……それはつまり、この地域内に魔物がいて、その魔物を操る人物もいるかもしれないということ……?」

「そうなるな。 だから、俺も動き出すことにした」

「啓人が……?」


 幸い、まだ被害が出ていないが、それも時間の問題かもしれない。 被害が出てから動き出しては遅いのだ。


「そ。 動き出すって言っても、ちょっと夜のパトロールをするくらいだけどな。 今の俺に出来るのはそれくらいだろうし。 それで、魔物に遭遇でもしたら、その魔物を駆除しとくよ。 うまくいけば、魔物を操る人物にでも会えるかもしれないしな。 その時は、積極的に何とかしようと行動する」

「……いい」

「え?」

「別に、いい。 啓人は、動かなくていいよ。 わたしが、動くから」

 

 何を言ってるんだ、桃子は……。 俺の協力がいらないのか?

 

「……そんなこと言ってもな。 俺だって、余計なことに関わらず過ごしたいけどさ、そうは言ってられなくなりそうだから、なんとかしたいんだよ。 桃子は確かに強いけど、あくまで一人の人間なんだし、桃子だけに任せるわけにはいかないよ」

「大丈夫。 何人かの魔術師に協力してもらうから」

「それでも、大丈夫だとは思えないな。 桃子が思っているより、今回の事件は深刻な問題なのかもしれない」

「……そうかもしれないけど、啓人に動いてもらわないほうが、わたしは助かるの」

 

 ああ、そういうことか。 俺が下手に動くことは、桃子にとって……。

 

「……わかったよ。 疑いが晴れるまで、俺はなるべく家と学校の往復だけをするって。 その代わり、約束しろよ?」

「約束……?」

「なるべく早く、俺の疑いが晴れるように頑張ってくれよ。 五木や勇人に悪いからな」

「……そうね。 わかったわ」

 

 今の状況に苛つかないわけではない。 桃子に対して若干ムカついてはいる。 それでも、桃子の立場になって考えれば、しょうがないかと思えてくる。 

 

 桃子に余裕がなくなっても、せめて俺は、余裕を持って対応してやろう。

 

「……ちょっと飲み物用意していいか?」

「あっ、わたしも……」

 

 互いに飲み物を用意し、話を再開する。

 

「さてと、魔物に関連してだな、あと一つ話しておかないといけないことがあるんだけど……」

「うん、それは?」

「魔物の習性についてだ。 これは知っておいたほうがいい。 ところで……」

「何?」

 

 すっかり俺の話に聞き入ってる桃子。 俺の話を信じていると捉えていいのだろうか。

 

「東日本連続猟奇殺人事件に魔術が関わっていると桃子が知ってるってことは、犯人である薊海里と出会い、魔物と戦った魔術師がいるってことだよな?」

「……うん。 魔術を使って戦闘をしたと聞いているよ」

「その魔術師から、どれくらい聞いているんだ? 魔物のことについてでも、なんでもいい。 教えてくれ」

 

 もしかすると、魔物と戦った魔術師は、なんとなく魔物の習性に気づいているかもしれない。

 

「……確か、魔物は死ぬと、黒い砂のようになってしまうって言っていたけど……」

「他には?」

「……後は、魔術の行使に強く反応して攻撃してきたとか……」

 

 やっぱり、気づいていたか。


「それだよ。 俺が話そうと思っていた、魔物の習性ってのは」

「魔物は、魔術に反応するというの……?」

「そう。 魔術の規模が大きければ大きいほど、魔物はそれに反応して、殺人衝動を高めていく。 その魔術を発動させている人間に対して、強い敵意を持って攻撃しようとするんだ」

 

 だから魔術師なんかは、魔物と戦闘すると、その習性を嫌というほど目の当たりにすることになる。

 

「この習性を利用してやれば、強力な魔術を発動して魔物を引き寄せることだってできるだろうな。 最も、魔物を操る力とどっちの影響力が強いかは微妙なところだけど。 魔物と交戦するであろう魔術師たちには、この習性を教えておいた方がいい」

「……待って。 魔物には何故そんな習性があるの? 人を殺す為に生まれた生物というのと、関係があるの?」

 

 流石桃子。 鋭いな。

 

「ああ、関係ある。 人を殺す為に生まれたと言ったけれど、そもそもそうなったのは、人に魔術が使えてしまったからだ。 本来、魔術は人が使っていいものではなかったんだ」

「それは、どういう……?」

「今、桃子を始めとする魔術会の人間に魔術が使えるのはさ、言ってしまえば、何かの間違いみたいなものなんだよ。 ちょっとしたバグってやつか? モノを冷凍させる機能しかなかった冷凍庫で、モノを燃やすことができてしまった、みたいな」

「……変な例え」

「でも、俺が言いたいことはわかっただろ?」

「……うん。 つまり、本来魔術を使うことのできなかったはずの人間が、何の間違いか魔術を使えるようになってしまったから、その人間を殺す為に、魔物が誕生した」

「そういうことだ」

 

 俺の話した内容を噛み砕くように、何やら俯いて考え込む桃子。

 

「……待って。 今の話を聞いて、新たな疑問がいくつか沸いてきたのだけれど……」 

「何だ?」

「まず、魔物はどうやって誕生したの? 地面から勝手に生えてくるわけでもないはず。 魔術によって作れられたとでもいうの?」


 魔物が普通の生物とは違うということは、なんとなくわかっているようだ。 

 

「……確かにそれは疑問かもな。 他には?」

「そうね……。 魔物が人を殺す為に誕生したというのはわかった。 そして、その理由も。 でも、この理由に引っかかる部分があるの。 何故、人間が魔術を使うことは、良くないの? 本来人間が魔術を使う存在ではないのだとしたら、人間以外に魔術を使う存在がいるとでもいうの? その存在にとって、人間に魔術が使えてしまうことは、良くないということなの? まるで、啓人の話を聞いていると、魔術を使うようになった人間を滅ぼす為に、誰かが魔物を生み出したと言っているように聞こえるけれど……」

 

 この調子だと、桃子はまだまだ疑問をぶつけてきそうだ。 

 まともに一つひとつ回答していたら、日付が変わってしまうだろう。

 

 それにしても、桃子は仮にも家守家の次女だというのに、意外と知らないことが多いみたいだ。 情報管理は完璧ということか。

 

「……啓人? 疑問に、答えてくれる?」

 

……さて、俺が俺の知っていることをペラペラ喋ってしまうのは容易い。 

 だが、桃子の性格から考えると、あんまり知識を与えすぎるのは、危険な気がする。 


 ここは、そろそろ……。

 

「そうだな、もう時間も遅い。 その疑問に答えたら、終わりということでいいのなら……」

「……知っていることを、全部話してはくれないの?」

「最初言っただろ。 事件に関して俺がわかることを話すと。 魔物の習性や、魔物の存在理由についての話はサービスみたいなもんだよ。 で、これから答える内容も、サービスな」

「……ここまで来たのなら、全部話してくれるくらいサービスをしても、いいのに」


 不服そうな目でこちらを見る桃子。 そんな目で見たってこれ以上サービスはしない。

 

「だったら、桃子も秘密を全部明かしてくれるくらいしなきゃな。 それくらいしてくれなきゃ、割に合わないよ。 桃子にだって、俺に言えないことがたくさんあるんだろ?」

「……そういう攻め方は、いじわる」

「桃子に意地悪するつもりは微塵もないんだけどな。 まあ、おあいこってことでいいだろ」

 

 用意した飲み物を飲み切る。 さて、答えるとするか。

 

「魔物がどうやって誕生したかという疑問と、人間が魔術を使うことは何故良くないかという疑問なんだけどな、この二つの疑問は繋がっている。 桃子なら、きっと察しがついているんだろうけどさ、魔物が人を殺す為の存在って聞いて、おかしいとは思わなかったか? 人間から見て、この世界のありとあらゆる生物の中に、誕生した理由や目的が明確な生物だなんているか? 人間の作った道具や機械じゃあるまいし。 マッサージ機はマッサージをする為に作られた。 ハサミはモノを切る為に。 道具や機械には目的がまずあって、その為に作られているわけだから、用途がしっかりあるのは当たり前だよな」

「うん」

 

 素直に頷く桃子。 

 ここで反論されても困るが、桃子なら反論するほどの知識がありそうだ。

 

「生物の中にも、人が意図的に品種改良などをし、食用に特化したものがいるとはいえ、その生物自体が人間に食べられる運命を受け入れて生きているかと言えば、そうとは言えないだろ? そんな自己犠牲の精神たっぷりの生物がいたら、怖すぎる」


 豚肉になって人間様に食べてもらいたいですブヒー! なんて豚がいたら教えて欲しいものだ。


「俺から言わせればな、生物の誕生した理由や目的なんてものは、ないんだ。 あるように見えるのは、人間中心的な思考によってそう見えるだけ。 とんだ思い上がりだ」

「いくら家畜でも、自ら進んで屠殺されに行ったりはしない」

「そういうこと。 けれど、魔物は特別だ。 魔術という禁忌に触れた人間を殺すために生まれ、人間を殺す意思に基づき、人間を殺すために活動する。 操る力による制御なんてものは、一時的なもの。 魔物の本質は、殺人だ。 魔物は生物でありながら、道具や機械のように目的ありきで誕生した、他の生物とは一線を画する存在なんだよ」

「一線を画する、存在……」

 

 まぶたが重くなってきた。 こんな状態でたくさん喋るのは疲れる。

 

「そう。 でも、なんでそんな風に断言できるのかって思うだろ? それは桃子の予想通り、魔物がある存在によって明確な目的ありきで作り出された生物だからなんだよ。 しかし、ある存在というのは、魔術師ではない。 そもそも、人によって作られたわけではないんだ」

「えっ……? 人によって作られたわけではないのだとしたら、何によって作られたと言うの……?」

 

……俺が今から言うことを、桃子は信じてくれるのだろうか。 いっそ、信じてくれない方が良いのかもしれないが。

 



「魔物はな、神によって創りだされたんだよ」

 



 神。 絶対的な存在。 

 しかし、古くから人々が想像しているような存在ではない。 想像通りであったのなら、どんなに良かったことだろう。

 

「……神?」

「それで、人間が魔術を使うことが何故よろしくないかって言うとだな、神が困るからなんだよ。 簡単に言えば、神の寿命が減るというか……」


「……待って。 啓人がふざけてないのだとしたら、また新たに、しかもあまりにも大きすぎる疑問が沸いてきてしまったのだけれど」

「……なんでしょう?」

「啓人の言う神とは、一体何?」

 

 知ってた。 神なんてワードを出した以上、こんな疑問を投げつけられるんだろうと思ってはいた。


「……もうこんな時間だし、今日は文化祭の準備を頑張りすぎて疲れたから、もう寝るよ」

 

 流石にこれ以上は面倒くさい。 俺は充分すぎるほど教えたはず。


「ちょっと……! このまま教えずに放置だなんて、酷い。 不完全燃焼」

「サービス期間終了ってことで。 それに、事件を解決するのに必要な知識は充分あると思うぞ」

「ないと思う。 逆に、余計謎が増えた」

「謎は多い方が楽しいって言うだろ」

「楽しさなんて、求めてない……」

 

 謎が全て明らかになったところで、桃子に出来ることなんてあまりないだろう。 とは言えなかった。

 俺が何を言っても、桃子は何かしらの行動を取らなければ気が済まないに違いない。

 

「明日も学校なんだし、色々考えすぎて夜更かしするなんてことないようにな。 じゃ、おやすみということで……」

「……おやすみ」

 

 不満な様子を見せながらも、ここは諦めることにしたのか、これ以上俺に何かを求めることもなく、自室へ引き下がろうとする桃子。

 

 俺も、さっさとシャワーを浴びて、寝ることにしよう。

 

 文化祭の日は近い。 

 それまで、特に何も起きなければいいが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ