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アップルパイ

 

「ああ、そのことか」

 

 施設から受け取った、戦力増強アイテム。 一体、どんなものなのか。


「そもそも、今持ってるんですか……? まさか、ホテルに置いてきたとか……?」

「安心しろ。 ちゃんと持っている。 何せ、アイテムというのは……」

 

 ゴソゴソとポケットの中を漁りだす鬼山さん。 そして、ポケットの中から取り出したのは……。

 

「……指輪?」

「ああ。 指輪だ」

 

 どこからどう見ても、銀色の指輪。 宝石が埋め込まれているわけでもなく、何か特別な力が宿っているようにも見えない。

 

「こ、これが……、戦力増強アイテムなんですか……? どう見たって、ただの指輪じゃありませんか」

「俺もまだ試したわけじゃないが、なんでもそれは、とある兵器を作る際に生まれた試作品らしい」

「兵器……?」

 

 何だか物騒な話に。

 

「……まあ、あんまり詳しい話はやめておこう。 何より、俺もそこまで詳しくないんだ。 で、この指輪がどんな力を持っているのかと言うとだな……」

 

 ゴクリ。 戦力の足しになるというからには、きっと凄い力があるに違いない……! 指輪からビームとか。 そんな感じの。

 

「魔術の使用回数を増やすらしい」

「………………」

「何だ、その微妙な反応は」

「いや……。 魔術の使用回数が増えるってのは凄いと思いますよ? でも、何というか……。 思っていたのとは違かったというか……」

「お前がどんな想像をしていたのか知らんが……。 この指輪によるメリットは本当にデカいぞ? 魔術の使用回数がどれくらい増えるというとだな、だいたい二倍近く増えるらしい。 二倍だぞ? たった数体の魔物であんなにバテていたお前が、あの倍の数の魔物を相手にしてやっとバテると考えれば凄いだろう?」

「む……。 バテていたのは鬼山さんもじゃないですか」

「俺はああ見えて、まだまだ戦えていたぞ」

「信じがたいです……」

「まあ、戦闘する機会がまたあれば、俺の言葉が嘘じゃないってことをちゃんと証明してやる。 できれば戦闘なんか、したくないけどな」

 

 それはわたしもだ。 できれば戦闘なんかしたくない。 したくないけど、しなきゃいけない。

 

「忘れない内に今、この指輪をお前に渡しておくか。 肌に直接触れていれば効果があるらしい。 指輪なんだから、普通に指にはめておくのが無難だろう」

 

 そう言って、指輪を手渡す鬼山さん。

 

「……わたし、指輪とかつけるのなんか怖いんですよね」

「安心しろ。 呪いの指輪でもあるまいし、抜けなくなるなんてことはない。 それにその指輪は、ある程度使うと壊れるらしい。 使い捨てのアイテムというわけだ」


 ちゃんと抜けるとわかっていても、金属に体の一部が圧迫されているという不快感はある。 慣れれば少しは気にならなくなるんだろうけど。

 

「さて、指輪も渡したことだし、探索を――――」

 

 と言いかけて、いきなり、鬼山さんが立ち止まる。

 

「どうかしたんですか?」

「…………掛かった」

「まさか、探知魔術が……!?」

 

 険しい表情で、何かを感じ取ろうとする鬼山さん。 こういう時、何も手伝えないのは心苦しい。

 

「クソ……。 確かに違和感があったんだが……。 公園の方からだと……? さっき公園を通った時は何も感じなかったというのに」

「とりあえず、公園の方へ戻ってみますか?」

「……ああ」

 

 中央公園の方へと戻る。 探知魔術に引っかかる何かがこちらの方向にあるのは間違いなさそうだ。 

 それが、薊海里や魔物じゃなかったとしても、立場上、何があるのか確認しておかなければならない。

 

「どうですか?」

「……ダメだ。 微かに感じるものはあるが、はっきりとした位置が掴めない。 動いている感じではないが……、魔物じゃないのか……?」

 

 時刻は、いつの間にか正午を過ぎていた。 

 やはり徒歩だと、そこまで移動した気がしないのに時間が過ぎていくのが早い。

 

「あの……」

「なんだ?」

「時間も時間ですし、お昼にしませんか? 結構歩いて、エネルギーも消費しているはずです。 その微かな気配を掴み取る為にも、しっかり栄養を取りましょうよ」

「……そうだな。 だが、そんなにのんびりはしないぞ。 食事が終わったら、すぐに公園付近を歩き回る。 探知魔術に引っかかった何かが俺たちから離れていく前に、何が何でも見つけるぞ」

「はい。 じゃあ、近場でササッと済ませますか」


 と言って向かった先は、中央公園のすぐ近くにある、日本庭園。 

 観光地として開園されており、昨日スマホを弄っていた時に調べて気になった店が、ここにあるらしい。

 

「庭園の中に和館だけじゃなく、洋館もあるんですね。 なんか不思議です」

「お前の行きたい店とやらは、その洋館にあるのか?」

「はい、そうですよ」

 

 なんでも、この洋館の中に喫茶室があって、そこで食事ができるんだとか。

 

「中もオシャレですねー……」

「落ち着いた雰囲気で、良い場所じゃないか」

 

 内観も外観同様にレトロな雰囲気。 入ってすぐ近くにある古ぼけた暖炉なんか、懐古趣味の人にはたまらないだろう。

 

「今の時間帯は、フードメニューも頼めるのか」

 

 置いてあるメニュー表を見る。 

 メニュー表は、スイーツとフードの二種類があり、スイーツは開店時から閉店時まで、フードの方はお昼前後の時間帯のみの提供となっている。

 

「いらっしゃいませ~。 此方のテーブル席と、テラス席、どちらにいたしますか?」

 

 この店には、テーブル席とテラス席があるみたいだ。 ここは……。

 

「テラス席でお願いします」

 

 テーブル席だって悪くはない。 だけど、暖かい日差しに包まれながら、窓から綺麗な外の風景を眺めることのできるテラス席に魅力を感じずにはいられなかった。

 

「さて、何を頼むかな……」

 

 席に着く。 さっそく、何を頼むかテーブルの上にあるメニューを見てみる。

 

「そうだな……。 とりあえずナポリタンとアップルパイを一種類くらいにしとくか……」 

「わたしも決めましたよ。 店員さん呼びますね」

 

 店員さんを呼び、注文し終える。


「……お前、アップルパイしか食べないのか。 それも、三種類頼んで……」

「だって、せっかくアップルパイの街に来たんですよ? アップルパイ食べなきゃ、勿体無いじゃないですか。 後、今頼んだのを食べ終わったら残りの三種類も頼みますから」

「お前な……」

「鬼山さんと同じ部屋に泊まって浮いたお金はアップルパイに使うって決めてたんですよ、わたし」

「余裕で浮いたお金の分、オーバーしてるけどな」

 

 とにかく。 

 いくら観光目的で来たわけじゃないからといって、何にも楽しまないのは損だ。 この店のアップルパイ全種類を制覇したという思い出があってもいい。

 

「お待たせしました~」

 

 庭を眺めながら待つこと数分。 頼んでいた品が運ばれてきた。

 

「幸せって、ここにあるんですね……。 あっ、このアップルパイ、見た目が可愛い……。 写真撮りたかった……」

「……痩せの大食いって言葉は、お前のような人間の為にあるんだな」

「お、大食い……」

 

 悔しいけど否定できない。

 

「きっと……。 そう、魔術を使ったりするからこんなにたくさん食べるようになったんですよ、わたし! うん、きっとそうです」

「なるほど、魔術でエネルギーを大量に消費するからたくさん食べると。 それだと魔術を全く使わないようになったら、食べる量だけ変わらず激太りするかもな」

「んな……!?」

 

 聞きたくなかった可能性。 でも……。

 

「ふ、太ると仮定して……。 他のどんなダイエットよりも効果のある魔術って、凄くないですか!? 魔術ダイエット、恐るべしですよ」

「そんなダイエットできるのは俺たち魔術師くらいだがな……」

「それに、そもそもわたし、たくさん食べなくても我慢はできますよ? ほら、四月から施設を離れて鬼山さんと共に行動してますけど、毎回食事の時どうだったか思い出してくださいよ」

「言われてみればそうだな……。 それでも成人男性の一食分程度なら平気で平らげていたけどな」

「えっと……、育ち盛りってやつ……?」

「老け始めだろ」

 

 ゴツン。

 

「…………俺がすまんかった」

「わかればよろしい」

 

 軽くチョップしたつもりなのに、結構音が鳴るものだ。

 

 それにしても、十九歳のわたしに老け始めだなんて言う鬼山さんは、やっぱりロリコンなのだろうか……。 

 聞いたことがある。 中学生でさえババア扱いするロリコンがいるって。 鬼山さんもその仲間なのだろう。 きっと。

 

「ああ、美味しかった……。 大満足です……」

「本当に全種類のアップルパイを制覇するとはな……」

 

 食事を終え、庭園を後にする。 まだ、鬼山さんの探知魔術の反応は途絶えていないが、その反応は未だ朧げなよう。

 

「あれ、こんなところに教会がありますよ」

 

 中央公園付近の市街地を歩いていると、清楚な印象を抱かせる白色の教会を発見する。

 尖塔があり、その一番先端には十字架が付いていた。  


「ここも観光地みたいな扱いを受けているようだな。 ミサの時間以外は自由に見学可能と書いてあるぞ」

 

 神を信じようが、信じまいが、自由にこの教会に出入りできるようだ。 なんて寛容なんだろう。

 

「入ってみますか?」

「……神にでも祈るつもりか?」

「わたしたち、今は神にでも祈りたい気分じゃないですか」

「否定はしない」


 こうしてわたしたちは、教会へ入ることにした。

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