早朝覚醒
「…………んんぅ?」
目を覚まし、時計を見る。 まだ、朝の五時半だ。
「……こんなに早く起きなくても良いんだけどな」
昨日、早くに寝たからだろうか。 それとも、ストレスによるもの……!?
「ふわぁ~……」
欠伸をし、背伸びをして、ベッドから下りてまだ寝ているであろう鬼山さんを見てみる。
「まだ寝てる……」
気持ち良さそうにスヤスヤと穏やかな寝顔を見せて眠る鬼山さん。 何か良い夢でも見ているのだろうか。
「どうせ、エッチな夢に違いない……」
施設のとある女先輩がわたしに教えてくれたことがある。
人生の為になる五・七・五。
それは確か、『気をつけろ・男はみんな・変態だ』だったような。 鬼山さんも例外じゃないはずだ。
「………………すぅ」
すぅすぅと聞こえる寝息。 本当に、まだ寝ているのなら。 もうちょっと近づいても……。
何か、変に早く起きすぎたせいで妙なイタズラ心が……。
「……………………」
ち、近い……! ちょっと近づきすぎたかも。 鬼山さんの寝息が顔にかかる……!
こんなに近くで鬼山さんの顔を見るのは初めてだ。 睫毛、結構長い……。 唇、思っていたより綺麗……。 鼻、高い……。
……なんだろう。 無駄に整った顔立ちをしていて、段々とイラついてきた。 顔にイタズラ書きでもしてやろう。
「でも、そんなことしたら流石に……」
「そんなことってどんなことだ?」
「うひゃあ!」
心臓が止まるかと思ったけど、いっそ止まってくれた方が良かったかもしれない。
「い、い、いつから……起きて……?」
「今さっきだ。 何かが近づく気配があると思ってな。 このまま寝たふりをしても良かったんだが、お前に何をされるかわかったもんじゃない」
「な! ナニモシマセンヨー?」
「お前、わかりやすい奴だな……」
恥ずか死してもおかしくない早朝の出来事だった。
この後、鬼山さんは二度寝に突入。 わたしはその間に着替え以外の身支度を済ませておくことに。 とてもじゃないけど、二度寝する気分になんかなれなかった。
そして、朝七時半。
鬼山さん、本日二度目の起床。
「……さて、後少ししたら朝食を食べに行くか」
「朝食……。 朝食……!? そういえば、朝食はホテルの朝食バイキングなんですよね!?」
「ああ、そうだが……。 ……なんかテンション高いな」
「あの、着替えたいので一旦部屋から出てもらえますか?」
「お、おう……」
テンションが高くなるのも無理はない。
きっと今日は、とても素晴らしい朝食の時間を過ごすことができるのだろう。 ……いつもと比べれば。
「さて、朝食へ行きましょう!」
「あんまり期待しすぎて現実とのギャップにショックを受けるなよ?」
「大丈夫です。 さあ、急ぎましょう!」
「……朝から元気な奴だな」
食堂に辿り着く。 このホテルに泊まっている他の客が、既に朝食を楽しんでいる様子。
「おはようございます~」
従業員のおばちゃんが出迎える。 チェックインの時に貰った入場券を渡し、いざ、朝食。
「中々メニューが多くて良いな」
「これ、なんですかね……? 山菜の天ぷら?」
豊富な種類のおかずたちを前に、つい欲張ってしまうわたし。
「おいおい、そんなに持ってきて大丈夫か?」
「何言ってるんですか、鬼山さん。 これはバイキングですよ? 食べ放題ですよ? 戦ですよ!?」
「……いや、戦ではないだろ。 まあ、気持ちはわからんでもないが……。 ちゃんと残さず食べて且つ、気持ち悪くなるだなんてことが無いようにな」
「が、頑張ります……!」
「……心配だ」
そして、食べ始める。 早朝に起きたからか、いつも以上に朝から腹ペコだ。
「この山菜の天ぷら、美味しいですよ!」
「そうか」
「この魚のフライもご飯が進みますね!」
「なるほど」
「この煮物……。 味がしっかり染み込んでて最高です!」
「へぇ。 知らなかった」
「あっ、焼き魚も美味しい……。 脂身乗ってる……」
「それは良かった」
「お味噌汁も良いですね。 ちょうどいいしょっぱさです」
「良いことだ」
「……なんかテキトーに反応してませんか」
「気のせいだろ。 というかお前……」
「……はい?」
「それでご飯何杯目だ?」
「よ、四杯目……」
「しかもパンも食べてたよな」
「パ、パンは別腹……?」
「たくさん食うのは別に良い。 お前の胃袋がどうなってるのかも気にしないことにする。 けど、これからの行動に支障をきたさない程度にはしておけよ」
「はい……」
確かに鬼山さんの言う通りだ。 これから、もしかすると近いうちに戦闘をするだなんてことがあるかもしれない。
だからここは、ご飯を五杯目で終わらせることにした。
「……お前は星のカー●ィか」
朝食後。 しばらく休憩した後、必要な荷物だけを持ってホテルを後にする。
「まずは中央公園の方を探すぞ。 そこから北の方に薊海里の実家があるから、一応様子を見てみる。 そのまま北へ進んで、夕方近くになったら、来た道を引き返してホテルへ戻る。 いいな?」
「はい。 ……中央公園、結構広いですよね」
「広いが、そんなに歩きまわったりはしない。 真ん中を突き進むように進んでいけば、探知魔術の範囲になんとか入るだろう」
「なら、思ったよりは時間も費やさなくて大丈夫そうですね」
そう言って、歩き始める。 天気は快晴。 見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。
「あれは、お城ですか……?」
「天守だな。 いつからか軍事的な実用性よりも、城主の権威を示す為のものとしての側面が重視されるようになったらしい」
「へぇ……」
中央公園に辿り着き、立派にそびえ立つ天守を見ながら歩き続ける。
人通りは少ないが、たまに通り過ぎる犬の散歩中のおじいさん、おばあさんが柔和な顔で挨拶をしてくるので、わたしたちもこれから戦闘をするかもしれない人間とは思えないほど穏やかな表情で対応する。
「アイス屋がありますね」
「ああ、あるな」
目に入ったのは、屋根付きの青いリヤカー。 どうやら公園内でアイスを販売しているようだ。
「一個百円みたいですね」
「そうだな。 ……もしかして、食べたいのか?」
「……ダメ、ですかね……?」
「ダメではないが……。 あれだけ食べておいてまだ食えるのか」
「アイスは別腹です!」
「お前は食べ物の数だけ腹があるのか……」
と言われながらも、アイスを買うわたし。
「甘い! 冷たい! 美味しいです!」
「それは良かったな」
「何というか、不思議な味ですよこれ。 懐かしい味というか、優しい甘さというか……」
「……………………」
「あれ? もしかして、食べたくなってきましたか? あげませんよ?」
「……要らん」
「でも、さっきから食べたそうな目でこちらを見ていませんでしたか?」
「……お前、性格悪いな……」
「良い性格と言ってください」
アイスを買ってない人の前でアイスを美味しそうに食べながら公園内を進んで行き、ついに公園を通り抜ける。
「探知魔術の方は……」
「反応なしだ」
「……予定通り、このまま進み続けますか」
「……だな」
こうして薊海里の実家がある場所に立ち寄ったりしながら、更に前へと進んで行くが、相変わらず反応は無く。
「困りましたね……。 この街に来てないんですかね」
「その可能性も充分あるが……。 他に有力な候補地もないしな。 とりあえずホテルは明日のチェックアウトの時間まで利用することになっているから、明日の夕方くらいまでこの街で探索してから施設の方へ戻るか?」
「そうですね……。 ……あれ? そういえば、何か大事なことを忘れているような……」
「大事なこと?」
「施設って言葉に何か引っかかりを感じたというか……。 あっ!」
「思い出したのか?」
「会長から貰った例のアイテムのことですよ! 鬼山さんが管理しているから、まだそのアイテムとやらが何なのか、わからないんですが……」
魔術会が応援に人を寄こさない代わりに、わたしたちの戦力の足しになるよう渡してくれたアイテム。
直接貰ったのは鬼山さんで、その鬼山さんがまだわたしにそのアイテムを見せていないから、わたしはそのアイテムとやらの正体を未だ知らない。




