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衝動

※前話に引き続き暴力的なシーン多めです。 ご注意ください。


 海里が花田を殺してから数週間後。 海里は三人目の標的である大江を殺しに行った。

 

 大江達也。 A社に勤めていた頃、海里に精神的苦痛を与え続けた人物だ。

 平松や花田を殺した時同様、人目のつかない場所で待ち伏せし、魔術を使っての殺害。

 

(やっと殺せた……!) 


 海里は思い出す。 殺される瞬間の、大江の顔。

 

(まさか、自分の人生がここで終わるだなんて思ってもいなかったんだろうな)


 普段、死を意識するような状況にいないのなら、当然ではある。

 けれど海里は、こう思うようになっていた。 人に死を与えることは凄いことだと。

 

(僕は今、生きている……。 大江はもう、死んでいる……!)


 それこそが、この世界における絶対的な事実であり、現実だ。 どんな人生を歩んだところで、死んでしまえば終わり。

 大江を知る者が大江を覚えていようが、大江自身はもうこの世に存在しない。 大江にとっての過去も、現在も、未来も全て、消え失せる。

 

 薊海里がどんなに惨めな人生を送っていようが――。

 大江達也がどんなに恵まれた楽しい人生を送っていようが――。

 

 死は、その全てを無に帰す。

 

(死を与えることは、クソみたいな人生を歩んできた僕にとっての救いだ……)


 だから、もっと救いを――。 僕がこれから幸せになるのに必要な、僕の為だけの救いを。


 しかし、ここで海里はあることに気がついてしまう。

 ここまで殺してきた三人は、本当に自分が受けてきた以上の苦痛を受け、死んだのかということだ。

 

 海里は海里であり、花田でも大江でも平松でもない。 三人の苦痛がどれほどのものだったのか知る由もない。 あくまで海里は、視覚情報などから三人の苦痛を想像するしかない。

 

(そうだ……)


 こればかりは、どうしようもできない。 これから僕が考えるべきことは、今まで通りに殺すのではなく、より想像力を働かせて、自分の納得できる死を与えようと工夫することだ。 そう、海里は結論付ける。  

 海里は三人も殺して、どのくらい力を加減すればより長く苦痛を与えられるか、ある程度慣れてきてはいる。

 

(高山には、疑う余地もなく絶大な苦痛を与えてやろうじゃないか) 


 

 

 そしてついに、海里は高山を殺しに行った。

 今まで殺した三人同様、高山が現在どこに住んでいて、どこで働き、どの道を歩くのかは調査済み。

 後は、高山が一人で人目につかない場所に来てくれれば良かった。

 

 そんな都合の良い場所、果たしてあった。

 

「ったく、誰だよ……」

 

 高山の自宅である、マンションの一室。 

 幸運にも、隣人は誰もおらず、上下の部屋にいる住人も、ここ数日不在で帰ってくる気配がまるでなかった。

 これは、今こそ高山を殺せということだろうか。 海里は、なんて運が良いんだと舞い上がりそうになる。

 

「……久しぶりだね、高山君」

「はぁ? ……なんで薊がこんなところにいるんだよ。 そもそも俺の家なんで知って……」

「僕の母さんが高山君の母親から聞いたんだってさ。 たまたま近くに来たから、遊びに行こうかなと思って。 泊まる場所も決まってないんだ。 よかったら泊めてくれないか?」

 

 もちろんこれは、海里の嘘だ。 海里は今、演技をしている。

  

「おいおい、どういう風の吹き回しだよ。 俺たちそんな仲じゃねーだろ。 お前なんか泊めたくねーわ」

「……花田君のこと、聞いてるよね」

 

 爆笑しそうになるのを必死にこらえ、演じる海里。

 

「……ああ、知ってるに決まってんだろ」

「確かに僕はさ、花田君や高山君にイジメられた過去があるわけだし、二人のことは恨んでいたよ。 でも、花田君が死んでわかったんだ。 死んだらもう、二度と会えないんだって。 もう、終わりなんだなって」


 海里は内心、僕が終わらせたんだけどなと思いながら、演技を続ける。

 

「……それで、なんだよ。 俺が死んじまう前に顔が見たくなったとでも言うのかよ。 意味わかんねーなお前」

 

 ああ殺したい。 殺したくて仕方がない。 だけど、もう少しの辛抱だ。 海里は必死に演技をする。

 

「花田君とは結局仲が悪いままだったから、せめて高山君とは和解しておきたいって思ったんだけど……。 やっぱり、変だよね。 花田君のことがあって、ちょっとおかしくなってるのかもしれないよ」

「……ったく、なんだよ気味が悪いな。 ドアの前にいられても困るから、中に入れよ。 明日の朝になったらさっさと出てってくれよな」

「あ……ありがとう!」

 

 まさか、うまくいくとは。 どちらにせよ、この部屋に上がり込むつもりではあったが、話術でうまく部屋に入れたことで、自分の演技力も捨てたもんじゃないなと思う海里。

 

 海里は、高山の住む部屋の中へ入る。 

 

(……クソが。 僕はボロアパート住まいだというのに、こんな良いところ住みやがって……!)

 

 見てみると、家電製品も高そうなものばかりだ。 写真立てに飾られた写真には、仲良さそうに集まっている高山とその友人たち。

 

(世の中は不公平だ……) 

 

 散々酷い目にあった僕が、クソみたいな人生を歩み続け、散々酷いことをしてきた高山が、幸せな人生を歩み続けている。

 

(……死を。 死を与えなければ、僕は救われない……!)


「それにしてもお前、もう社会人だってのに、相変わらずガキみてえっつーか、覇気がねえっつーか……」

「………………」

「同い年とは思えねーな。 中学の時とまるで変わってねえよな、お前。 どんな人生歩んできたんだ?」

 

 もう、我慢しなくていいだろうと、海里は思う。

 

「高山君はさぞ楽しい人生を送ってきたんだろうね。 まあ、そんな人生も今日で終了なんだけど」

「……は?」

「僕も、高山君と同い年だとか、笑えてくるよ。 一年でも生まれた年が違かったら、僕達はどんな人生を歩んでいたんだろうねぇ?」

「……何言ってんだ、お前」

「ああ、でも、僕がいなかったらいなかったで、別の誰かを傷つけて愉しみそうだな、お前」

 

 演技をやめて、掌を高山に向ける海里。

 

「僕はさ、人を傷つけておきながら、幸せになろうとする人間が死ぬほど許せないんだけど……」

 

 氷の礫を形成する。

 

「高山。 お前は、どう思う……?」

 

 解き放つ。

 

「………………は?」


 そのまま高山は、座っていたソファーから転げ落ちる。

 何が起きているのやらといった表情の高山。 攻撃されたことに気づかなかったようだ。

 でも、すぐに高山の思考は痛みが支配する。

 

 次の瞬間――絶叫。

 

「おいおい、あんまり叫ぶと近所迷惑だろぉ? にしても、見事膝の皿に命中するとはなぁ、練習してよかったわ」

 

 急激な痛みで高山が怯んでいる間に、もう一度氷の礫を形成し、正確に狙いを定める。

 

「高山の利き腕ってさぁ……。 右、だよな?」 

 

 礫は高山の右腕に直撃。 

 ここまでは順調だ。 痛みを与えつつ、反撃不可能な状態に持って行く。 それでいて、死なないように加減。

 

 だが、いくら隣人たちが不在とはいえ、こうも叫ばれ続けると不審がられてしまう。

 

(……でも、まあいいか。 その時はその時ってことで) 


 海里は復讐を続ける。

 

「ほら、串刺しにしてやるよ」


 氷で細長く鋭利な凶器を二本創り出し、両手で持つ。 そして、それをそのまま高山の両肩に向かって突き刺していく。

 

「があ゛あ゛あ゛あがあああああッ!!」

 

 綺麗に掃除されていた部屋のカーペットは、すっかり赤く染まっていた。

 

「もうわかってると思うけど、花田を殺したのは僕だよ」

 

 突き刺した凶器を捻る。

 

「そして、お前も僕に殺されるんだ。 僕が納得できるまで苦痛を与えた、その後でなぁ!」

「て、てめえ……。 クソが……。 いてぇ……。 いてぇぞ、おい……」

 

 高山の反抗的な眼差し。 

 

(この状況で、まだそんな顔を……!)


 生意気だ……。 腹が立つ。 花田みたいに命乞いくらいしろよと、海里は思う。

 

「花田が痛み苦しむ様は、ホント見ていて愉快だったよ。 高山、お前にも見せてやりたかったくらいだ」

 

 高山の股間に向けて、氷の礫を射出する。 もちろん、ある程度力を弱めて。

 

「ぐうッ……!」

「はははははははは! なんだよ高山ァ……!? その歳にもなって、お漏らしですかぁ~? しかも、赤いおしっことかさ、何かの病気なんじゃない? 遊びすぎ?」

 

 攻撃を受けた股間から、赤い血を垂れ流す高山。

 

「……おっと、気絶するなよ? まだまだ、こんなもんで終わらせてたまるかよ」

 

 高山は、激痛によって苦悶の表情を浮かべている。 まだ、辛うじて意識はあるようだが、時間の問題だろう。

 

「はは……。 さて、次はどう痛めつけてやろうかなぁ?」

「………………ふっ」


 その時だった。 高山が、勝ち誇った顔を見せる。


 何? 何故だ? どうして? この状況で、何故そんなに生意気な表情を見せてくる? 痛かったんじゃないのか? 苦しいんじゃないのか?


――花田や大江、平松とは違う。 海里は、高山の表情を見て、混乱する。

 

「あ……薊、ホント、お前は……、可哀想な、奴、だな……」

 

 高山の口から言葉が吐き出される。


「……は? 僕が可哀想? 今可哀想なことになってるのはどう見てもお前だろ!?」

「ははは……。 お前が、どんなに、俺や花田に、復讐して、ぶっ殺した、ところで……」

 

 何を……、言うつもりだ。

 

「お前が、俺に、イジメられて……。 クソみてえな日々を、送ってきたって、過去は……」

 

 やめろ……。

 

「消えない、だろ」


 知っている。 そんなことはわかっている。


「お前は、俺に、イジメられたって、ことを……。 一生、抱えて、苦しみ、続けん、だ……よ」

 

 うるさい。

 

「だか、ら……。 俺の、勝ち……だろ? 俺、は……。 結構、楽しい毎日を、送ってきた……から、な」


 うるさい。

 

「お前、は……。 一生、最低な人生を……送って、行くんだよ」

 

 うるさい。

 

「ざまあ、みろ……。 俺を、殺しても……。 お前、は……」

 

 うるさい。

 

「幸せに、なんか……」

 

 うるさい。


「なれないん、だよ」


……何かが切れる、音がした。  

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 海里の頭に血が上る。

 叫ぶ。

 周りが見えなくなる。

 海里は、近くにあった、重くて硬そうな物体を手に取る。

 振り下ろす。

 振り下ろす。

 振り下ろす――! 高山の顔面に目掛けて。

 海里はもう、何も考えることができなくなっていた。

 ただ、湧き上がる衝動のまま、攻撃を繰り返す。



 

……どれほど、時間が経過したのだろうか。

 

「はぁ……。 はぁ……」


 海里の全身を襲う、疲労感。

 吐き気を催す、血の匂い。

 視界に映るのは、赤ばかり。

 海里の目の前には……。

 

「……クソが」


 高山の顔面は、原形を留めていなかった。

 例えるならば、潰れたトマト。

 赤黒い血に塗れて、どこに目や鼻や口があるのか、わからない。

 

 この殺人に、爽快感がなかったわけではない。

 だけど、これは、失敗だと海里は思う。

 もっと、苦しめてやるつもりだった。


……死を与えることは、海里にとって救いのはずだった。

 今もそうだと信じている。

 

(だけど、あいつは……。 高山は……。 それを、否定しやがった……! あいつは最期まで、僕を……)

 

 血だらけの服を脱ぎ、シャワーを浴び、部屋から漁った服に着替える海里。

 マンションから離れる際に、誰かに遭遇することもなく。

 覚束ない足取りで、泊まっているビジネスホテルへ向かっていく。

 

(僕は、これからどうすればいい……)

 

 残る所持金もそう多くはない。

 今までのように、一人ひとり狙って殺していては、時間も金も足りないし、流石に捕まる可能性が高い。

 現時点でさえ、きっと、何かしらの手がかりから警察は海里を特定し、追っているかもしれないのに。

 

「……はは」


 海里が色々と考えた結果、浮かんだ一つの答え。

 

(……もう、どうでもよくないか?)


 追い詰められるのも時間の問題だろう。

 けれど、警察でも来たら、この力で返り討ちにしてやればいい。

 僕を阻む者は全て、殺す。 殺してしまえばいい。

 

「はは……はははははははは!」

 

 海里はもう、無敵状態になっていた。


(僕の命が続く限り、僕を知る者たち全てに死を与えてやろうじゃないか。 僕は、誰一人として絶対に許さない……!)




――海里の行くべき場所は、もう決まっていた。


 その場所へ行く前に、海里は置いてきた魔物を回収する必要があった。

 高山を殺す際には、海里自身の手だけで苦しめる為、魔物は使わなかったのだ。

 

 そんなわけで、海里は五月下旬の某日、満月の輝く夜に魔物を回収しに行っていた。

 

 そしてその時、蕭条八重と鬼山竜紀に出会ってしまった。

 自分以外にも存在する、魔術を扱う者。 その事実に衝撃を受けた海里ではあったが、海里の目的は変わらない。

 



 今現在。 薊海里は次なる目的地へと向かっている。

 魔物を連れて行く関係上、少々辿り着くのが遅れそうだが、一週間後くらいには、着くだろう。

 所持金も、まだ僅かに残っている。 目的地についてしまえば、金なんてどんな方法でもいいから手に入れることなど可能だろう。

 とにかく、殺しまくる。 高山の言葉なんて、気にする必要はない。

 

(そうだ……)


 殺して、殺して、殺しまくった果てにある僕の人生が、不幸なのか幸せなのかなんてことは、僕にしか確かめることはできないのだから。

 

「はは……」


 ホテル室内の鏡の前に立つ海里。 

 鏡に映った海里の顔は、まるで別人のように笑みを浮かべていた。

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